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第57話の5『表彰式』

 「では、行こうか。もう、みんな待っている時間だ」

 「あの……今さらなんですが、俺達って表彰されるほどの事しました?」

 すでに式の準備も終わっている今となってなんなのだけど、あまりに大層な待遇を受けている気がして心配になってきた。何を誇りにして式へ臨めばいいのか、そこをアマラさんに尋ねてみる。

 「強き者はたたえてしかるべき。サーヤ様は、そのようにお考えだ」

 「アマラさんに助けてもらわないと死んでいたくらいの強さですが……」

 「いや、君は精神的に相当な強さだと思うよ。私はね」

 この世界に来て場数は踏んできたつもりだが、そう言ってもらえると俺も進歩していないようでいて成長はしているのだと実感した。別にやましい事や、悪いことをした訳でもなし、賞状の一つでももらって何食わぬ顔で降壇すればよいのだ。まあ……セガールさんも一緒な訳だし、何か言われるにしても一人ではない。気楽にいこう。

 この階へ来るときに使ったものとは別のエレベーターに案内され、それは小さめながらも金色をしており特別感のあるデザインであった。アマラさんが制御盤へ手をつけると、やはりエレベーターは発射されるが如く上昇を開始した。

 なんとなく体がエレベーターに乗るコツをつかんだのか、今回は転ばず難なく上の階へと移動できている……のだが、目的地へと近づくにつれて、人々の歓声のようなものが大きく聞こえてくる。すでに闘技場では試合でもやっているのだろうか?そんな俺の疑問をよそに、エレベーターは体感5分ほどを経て動作を停止した。

 エレベーターの扉が開く。その先には鋼色の枠を組んだ闘技場があり、なだれ込むように聞こえてきた喝采を受けて俺は頭が真っ白になった。自然と目は闘技場の舞台に選手の姿を探すのだが、どうも試合をやっている訳ではないらしい。となると……この熱狂はなんだ?

 「皆様ァ!ようこそお集まりになりましたァ!」

 俺たち2人をエレベーターから外へ誘導すると、マイクを使っているかの如き大声が響き渡った。その声の主は司会の人らしく、実況を続けながら俺たちの方へと歩み寄る。

 「この度、引き車ジャック事件を見事に解決へと導き、魔物を捕獲した勇気ある若者を称え、英雄の証を授ける表彰式を行いましょうァ!司会は俺、ハンマ!ささっ!お二人とも、こちらへァ!」

 司会の方はゴツイ甲冑を着たオジサンなのだが、陽気そうな表情に加えて微妙に歩みもステップを踏んでおり、とても気さくな人に見える。見た目は司会よりも戦う方が向いていそうだけど、本来は試合の実況をしている人なのかもしれない。

 それはともかく、事件解決に導いた事に魔物を捕獲した手柄も含め、観客達には俺たちが大活躍したと報じられているのだと解り、なんとなく熱狂の理由を察した。ただ、『英雄の証』とは一体なんなのだろうか。振り返ってみると、すでにアマラさんはエレベーターで退却していなくなっている……。

 「英雄の証の授与を執り行うは、若きカリスマァ!セントリアル1の色男ァ!アイドル的存在ァ!シオン・カラード!」

 「はい。僕がシオンです」

 シオンと呼ばれた人は露出度の高い服装であり、風も吹いていないのに白くてサラサラの髪をなびかせている。彼が壇上に現れたと共に客席からは黄色い歓声が飛び、住民たちからの人気の高さを物語った。俺としてはアマラさんが街一番のイケメンポジションだと思っていたので、この街はビジュアル的な意味でもレベルが高いな……と、勝手に呆気にとられた。

 階段の上に大きなイスが設置されていて、そちらではサーヤ姫が嬉しそうに拍手をしている。彼女からシオンさんはバッジのようなものを受け取り、足音も小さくスマートな動きで俺たちの前に移動した。

 「ご存知でしょう。僕はシオン・カラード、です。君たちの決意に敬意を表し、ここに英雄の証を授与します」

 「あ……ありがとうございます」

 勲章を受け取ると、それを俺は胸元につけて待機。セガールさんが勲章を装着し終わったところで、観客席からは大歓声と拍手の嵐が巻き起こった。これ、そんなに凄いものなのだろうか。よく解らないが、俺は両腕を上げて変なガッツポーズを作りつつお客さんの声に応えた。

 さて、これにて役目は終了だ。タイミングを見て退却しよう。そう思いつつ様子を見ていると、引き車の駅で会った深く帽子を被った隊員さんが会場に現れ、司会のハンマさんに何かを伝え始めた。観客の声に阻まれて要件までは聞き取れないが、どうやら大事であることはハンマさんの表情から明らかである。

 「ここでニュースですァ!なんと、引き車ジャック事件の押収品の中から、魔王四天王のオーブと思われるものが2つも発見されたとの事ァ!しかも、以前のニセモノとは違う、本物の可能性大だァ!」

 それは紛れもなく俺の所持品だったものなのだが、観客の熱気が凄すぎて『俺が勇者です』などと言える状況ではなく、話は俺を置き去りにしてシオンさんへと投げられた。

 「ですか。四天王が放つレベルの強い魔力は、現時点で感知されておりません。つまるところ、真の勇者は今、この街に来ている可能性が高いという……事、です。以前、街を訪れた勇者はニセモノだったことが知れています。サーヤ様。いかがいたしましょう……」

 セガールさんがニセモノだったことは、すでに街の人たちにも知られているらしい。話題の結論は姫様に委ねられ、俺は祈るような心持ちで姫様を見上げた。

 「ええ。大切なオーブ。世界を救うための秘宝。勇者様は、さぞやお困りであろう。ワタクシたちの使命は、まだ見ぬ持ち主に誤りなく、速やかに返却する事。その点、異存はないな?」

 そうそう。その通りです。姫様は解ってらっしゃる。ハンマさん、シオンさんも含め、観客も静まり返りつつ納得の反応を見せる。となると……あれ?これ、もしかして今、俺が正直に名乗りを上げたら、返してもらえたりするんじゃないだろうか?そう考え、咄嗟に俺は挙手しつつ発言権を得ようと試みた……が、そのタイミングは姫の手を叩く音でさえぎられてしまった。

 「不審な者の手を回避し、勇者様へ確実にオーブをお返しする方法。あぁ!ワタクシに名案がある!きゃはは!ハンマさん。シオン。英雄の証を持つお二人。会場にお集まりの皆さま、お聞きになって!」

 「……?」

 凄くイヤな予感がする……けど、この場で姫の発言を止められる俺ではない。精いっぱいの願をかけながら、俺は姫の名案が放たれるのを待った。そして、それは姫様の恍惚な表情と共に明かされた。

 「2人の四天王を撃破した勇者様……さぞや、お強いに違いない。よって、オーブの持ち主を判断するべく、ここに……第62回世界武闘会の開催を宣言する!勇者様ならば必ず優勝するであろう。武闘会の日程は二日後の昼頃とする!以上、これにて表彰式は閉会とする!」

 「う……うはぁ」

 周りの熱狂的な声とは裏腹、あまりのショックにつき俺は思わず肺の空気が口から漏れ出してしまった。以上の経緯をもって、式は俺の思う限り、最悪の結末を迎えて終わった……。


                              第58話へ続く


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