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第57話の4『夢の中』

 とても美味しい料理だったのでシェフにお礼を申し上げたいのだけど、アマラさんがいないから勝手に出歩く訳にもいかない。かといって暇を持て余しているとセガールさんにメイクされてしまうわけで、何か理由を見つけて忙しそうな感じを出さなければならない。しかしながら、やることは丸っきりない。

 「ねぇ。暇じゃない?また別のメイクしてあげよっか?」

 「あー今、忙しいので、あとにしてください」

 「なんにもしてないでしょー!忙しいわけないっ!」

 「ここまでの進行をセーブしてるので、ちょっと話しかけないでもらえますか?」

 などと言ってけむに巻いているのだが、本当にセーブなどできる訳もないので旅の思い出を回想するくらいしかできない。なるべく楽しい記憶を探してはみるのだけど、こうしていざ思い返してみると……あんまり楽しい思い出ってないなぁ。みんなでキャンプした事と、トチューの町でゼロさんと買い物をした事と、人魚姫に会った事くらいしか思い出せない。なかなか過酷な旅だったということが、よく解っていただけるだろう。

 それでも、表彰式などの心配事が終わったら、のんびりゼロさんと街を歩けるかもしれない。そう期待を抱くと、オーブとペンダントを取り戻すのも、そう億劫ではない気がしてくる。それにしても、この部屋は暖かい。なんだか眠くなってきた……。

 ……うたたねの中で、うっすらと夢を見た。仲間の人たちが一人ずつ出てきて、俺に何か言っている夢だ。ヤチャはムキムキになる前の小さい姿で、叫ぶように声を発している。

 『テルヤァ!ボクは、ずっとテルヤと一緒に頑張るからなぁ!』

 それだけ言うと、スゥッとヤチャがモヤの中へと消えて、次にルルルの声が聞こえた。どこか悲しそうな顔で、俺の方を見上げている。

 『みんな、なんでお兄ちゃんと一緒にいるのか、よく考えてほしいの……』

 なぜ、そんなことを言うのかは解らないが、俺は喉から言葉が出ない。次に仙人の姿が目に映る。

 『……わしは、いつか役に立つから。まあ、捨てずに取っておくがいい』

 全体的に見て俺よりも役に立ってる気はするが……どちらにせよ、捨てることはないので安心していただきたい。

 最後に、ゼロさんが俺の目の前に立ち、微妙に困ったような、言い出しにくいような、いつもと違う変化のある表情で伝えた。

 『私は……どうしたらいい?』

 ……そんな行き場のない子犬みたいな目で言われても、俺もどうしたらいいのか解らない。そんな意味深げなセリフだったのでゼロさんで最後だと思ったのだが、再び仙人が現れた。なにか言い忘れですか?

 『……わしは、捨てずに取っておくがいい。役に立つから』

 念押しされた……。

 「テルヤ君。出番だよ。テルヤ君」

 「……ん?」

 意識もうろうとしながらも目を開き、ぼんやりと視線を上げる。すると、部屋にアマラさんが戻ってきていて、その人は俺を見下ろしながら声をかけてくれている。

 「そろそろ、表彰式へ向かおう。その前に……怖い顔だね。なおしておく?」

 「怖い顔ですか?」

 そう言われ、恐る恐る窓へと顔を映してみる。そこには顔に黒い縦線が入った男……ではなく、目元のメイクが涙で下へと流れ落ちた俺の顔があった。ゾンビみたいで、とっても怖い。なおしてもらおう……。

 「セガールさん。なおしてください」

 「なおすのね」

 「……」

 「なおしちゃうのね?」

 「……なんで残念そうなんですか」

 このままでは犯罪者の粛正披露会だと思われかねないので、さすがにメイクは落としてもらった……。


                               第57話の5へ続く


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