第57話の3『食レポ』
「君たちには、部屋に戻って待機していてほしい。まだ準備が整っていないのでね」
俺たちは次に表彰式へ出る予定なのだが、まだ式の準備が完了していないとの事。表彰式とは言っても、名前を呼ばれて賞状的なものを貰うだけだと思うのだが、そこまで何を準備する必要があるのかは解らない。
「そうだ。そろそろ、夕食も届いている頃だろう。セントリアルの料理は特色こそないが、とても舌に馴染む」
「アマラさんって、ここの出身なんですか?」
「私はセントリアルの出身ではないよ。なにせ、この街の歴史は、とっても浅い」
アマラさんの年齢は二十代中頃に見えるが、そんな彼が浅いと言えるレベルでセントリアルは新興勢力なのだと考えられる。それに、街の商業区の人たちと比較して、この街は政治を担っている人たちが若すぎるイメージもある。その辺りも、何か理由があるのだろうが……口は災いの元なので、あまり深く追求しない方が無難かもしれない。
客室に戻るとテーブルの上には銀色のドームのようなものが置いてあり、その中にはセガールさんが要望した魚料理っぽいものが入っていた。まだ料理は出来立てで温かいらしく、取ったフタの隙間から湯気が漏れ出す。
なお、料理に被せてあるドーム状のフタの正式名称だが、一般的にはクロッシュという呼ばれている。お嬢様系ヒロインの家へ行く機会があるといけないので念の為に覚えておいたが、ここで知識を自慢することになるとは思わなんだ……。
アマラさんは俺たちを部屋に残して立ち去り、俺たちは魚料理の前へと着席する。料理は魚を煮つけたもののようだが、茶色い調味料が魚の身や皮に染み込んでいて、フォークに似た器具で触れた瞬間にも軽くほぐれた。まずは一口いただく。うん。じわじわと塩っぽさが舌に伝わってきて美味しい。これが皿からはみ出るほども大きい魚なのだから、更に嬉しい。
しょっぱさのお供にパンが置いてあり、それを魚料理のソースにグッとつけてみる。食材由来の濃厚なうまみと油が、パンのほのかな甘みに乗って喉を通る。魚料理といえばライスに限ると考えていたが、これはありだな。
魚の半分を食べ終わったところで、徐々に中骨が見えてきた。それは魚の骨とは思えないほど太く、引きはがすのも大変だ。仕方なくひっくり返そうとしていたら、セガールさんが食べ方をレクチャーしてくれた。
「魚の尾の付け根を折るのよ。折ったところを持って引き上げれば、綺麗に取れるわよ」
「へぇ」
「お母さんに教わらなかったの?常識よ~」
そうは言われても、恋愛アドベンチャーゲームの主人公って両親が家にいない設定も多いから、あまり家族愛って重要視されていなかったりする。まあ、父親が女たらしで女性関係が複雑……とか変に設定があるとシナリオが重くなりそうなで、そういうのがない分だけ俺はマシなのかもしれないとは思う。
第57話の4へ続く