表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/583

第57話の2『姫君』

 「アマラさん。姫様はどちらにいらっしゃるんですか?」

 「ここよりも、さらに上の階だよ。姫様は高い所が大好きなのさ」

 確かに、すべからく偉い人は高い所に住んでいる印象はある。もしや、偉くなりたいと思っている人は、意識的に高い場所を確保するようにすると、社会的地位の向上にも効果があるのかもしれない……という、なんの根拠もない想像をしてみた。

 アマラさんの後ろについて通路を進んでいくと、広い真っ直ぐな道に出た。そこにはスタイリッシュな制服を着た人たちが行き交っていて、誰もが通りすがりにアマラさんへと敬礼を向けている。やはり皆、何かしら武器を腰からぶら下げているのがうかがえる。

 大きな廊下を進んでいくにつれて歩行者は減っていき、いつしか夜空を映していた窓はふさがれてしまう。敷物や壁の装飾も次第に物々しいデザインと変わり、暗闇の中には転々と紫色のライトが光っている。なんだろう……俺の管轄ジャンルじゃないから詳しくはないが、RPGにおけるラスボス前のマップって感じがする。

 「この階段を上がった先が、姫様の部屋だ」

 アマラさんに言われて見上げた階段はゆうに50段くらいありそうで、その先には黄金色の大きな扉が開かれている。階段の下には大きなクリスタルが置かれていて、それがセーブポイントに見せるせいでラスボス一歩手前っぽさを更に加速させている。

 「これだけ長い階段だと、エレベータが欲しいわよね~」

 などと言いつつセガールさんが階段へ足をかけると、階段はカコンカコンと音を立てながら一段ずつスライドを始めた。そのまま、俺たちはエスカレータ式に部屋の前まで移動する。部屋の前まで来ると、自然とアマラさんが俺たちの後ろに立ち、先を歩いて部屋へ入るよう促した。

 扉を通り抜けた先の通路はカーペットだけが照らし出されていて、それ以外は暗闇しか見えない。俺が足を進めていくと、静寂を切り裂くピリッとした女の人の笑い声が聞こえ、その声を方向を確かめながら俺は正面を見据えた。

 「はいっ。よくぞ参られた。勇気ある者よ」

 パンッと手を叩く音がして、ライトアップと共に幕が引かれる。そうして現れたドでかい玉座には赤い髪の女の人が座っていて、その喋り方や厳かな容姿の雰囲気から、すぐに彼女が姫様だと理解した。その直後、俺は姫様のイスには二つの頭蓋骨が設置されているのを発見しビックリした……。

 「ワタクシはサーヤ。この街の姫、サーヤ。あなたは?」

 「……あ。僕は時命照也と申します」

 「あちしはセガールよ。お姫様」

 姫様は声の調子こそ明るいのだが、その目は相手の心を見透かすように冷ややかで、言い聞かせるような喋り方も相まって圧が凄い。姫様はセガールさんの方から視線をスライドさせて、言い聞かせるようにして俺に告げる。

 「この度は道中、恐ろしい目にあったと聞く。その身を守るために拳を上げたのだろう。その勇気に敬意を表する」

 「あ……ありがとうございます」

 「でも、このような事件は二度と起きない。あなたたちは、私たちが守るの。守られなければならないの。解る?」

 「……?」

 褒められているのかと思って聞いていたのだが、いつの間にか怒られているような状況に変わっている。姫様は僅かにセガールさんの顔を見て、再び俺の方へと向けて言い聞かせた。

 「何も心配する必要はない。魔王もワタクシたちが倒す。その身を委ねなさい。委ねて。安息の日々を過ごしなさい。明日も明後日も。ずっとよ。ずっと」

 「……ですが」

 そう口を開いて声を出した瞬間、姫様の左右に位置する暗闇の中から、幾つもの鋭い視線を感じた。すると、出そうとした声が喉元を通らず、俺は黙って体を後ろに引いた。

 「ワタクシは、それが伝えたかったの。来てくれて、ありがとう。また、いつか。お元気で」

 姫様はパッと手を叩くと、目じりを上げて笑いながらお話を終えた。その声を聞くと俺も緊張から解放され、一つお辞儀をしたのちに逃げるようにして姫の前から立ち去った。

 「どうだったかな?姫様の印象は」

 部屋から出て階段を下りると、アマラさんは困ったような顔で問いかけてきた。どうって言われても……返答に困る。とりあえず、無難な回答を差し出しておいた。

 「厳格な方ですね」

 「そうだね。でも、姫は珍しく楽しそうだったと思うけどね」

 俺には楽しそうだった感じは見受けられなかったが、アマラさんから見ると、とても機嫌は良さそうだったらしい。まったく楽しませた自覚がなかった為、その理由を尋ねてみた。

 「えっと……何がお気に召したんですかね」

 「おそらく、君の顔だね」

 「……あぁ。なるほど」

 特殊メイクを笑われただけか……。


              第57話の3へ続く                     



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ