第13話『脱出(まあ、俺の名前もダサいギャグなんですがね…)』
《 前回までのおはなし 》
俺の名前は時命照也。恋愛アドベンチャーゲームの主人公になるはずだったのだが、気づけばバトル漫画風の世界に飛ばされていた。勇者として旅に出た俺と仲間たちは魔王四天王の一人・ワルダーの城へと侵入し、その部下であるアガンとウガンを倒したが、いいところで合体してパワーアップされた。
「「……これが我々の本領発揮最終形態!合体将軍・アガウガン!」」
ダサい……どうダサいのかを伝えたくて仕方なかったが、どうしても尺が足りなかったのだ。それだけが12話の心残り。
「「見よ!この無敵の肉体を包む黄金アーマー!」」
確かに体は大きくなったけど、そのぶんアーマーが足りてなくて七分袖八分丈みたいになってるじゃねーか。細かいことだが、金のアーマーより体の方が硬そうな言い回しもいかがなものか。
「「四つの瞳は全てを見つめる!」」
アガンとウガンの目を合わせて四つになったのは確かだが、なんでウガンの顔がアガンの口の中なんだよ。よだれでベタベタだぜ。あと、ウガンの視野が狭そうすぎる。
「「6本の腕に死角なし!」」
横についてる四本腕はともかく、首筋から上に出てる二本は何に使うのだ。頭を洗う専用の腕か?俺が同じ立場なら、その腕はいらない。
「「我、絶対無敵の甲鉄城壁超完全切断の四剣流!」」
前に聞いたの繋げただけじゃねーか。気に入ってるのか。しかも、声も2人分が被ってて非常に聞き取りづらい。
「「最終形態……」」
最終形態って言っちゃったよ。バトルものなのにバラしちゃダメだろ。それよりなにより……。
「「アガウガン!」」
名前がダセェ……。
「勇者、おい勇者」
「どうしました?」
アガウガンにツッコミを入れ続けていたところ、不意に後ろから精霊様が話しかけてきた。
「やつ、姿はダサいが能力は確かなんよ。ここまでは奥ゆかしく、あたちも手伝ってやれたが、あれを倒すのは至難の技じゃ」
「奥ゆかしく?」
「風魔法で重い扉を先に開いておいたり、剣を掴んだ時に一緒に引っ張ってやったり」
「それは……大助かりでした」
思った以上に随所随所で手伝ってくれてた。まあ、俺一人が頑張って引っ張ったところで、ウガンの剣を引き留められる訳ないもんな。それに加えて、精霊様もアガウガンをダサいと思っていたところにシンパシーは感じる……。
「「我らの真骨頂に恐れ、涙を流しているな勇者よ!」」
恐れ涙じゃなくて呆れ汗だけど……しかしだ。ヤチャと精霊様が仲間にいるとはいえ、俺の戦闘力が敵と比較にならない(くらい弱い)のは依然として不変である。 相手の間抜けな姿に圧倒されてはしまったが、気を引き締めて……ん?
「んん?」
「テルヤァ……どうし……たぁ」
「え?いや……気にしないでくれ」
「そう……かぁ。ふはははは……」
なぜか、ヤチャに笑われた。と……それはいいとして、決起の念で運命のペンダントを握りしめてみたところ、なにやら氷のカタマリに等しく冷たい。光なんて、今は出る気配すらない。なんとなくの直感だけど、これは出ない。能力が、何も。
「俺様が、相手だぁ……」
「「あの時のようにはゆかん!貴様は勇者の前座に一捻りィ!」」
凛々しくも、ヤチャが先陣を切って前へと出てくれる。いや、待てよ。この室内で大バトルが繰り広げられるとする。すると、ヤチャかアガウガン、どちらかが勝つだろう……しかし、1つだけ解っていることがある。それは、いずれにしても、巻き込まれた俺は死ぬという事実である。これはいけない!俺は出遅れた感を装いつつ、ヤチャの前へと躍り出た。
「ヤチャ。ちょっと待ってくれ」
「「勇者が始めに死にたいか!よき心構え!」」
先手必勝とばかりに敵が踏み込んできた!やっぱり、選択肢は全く出ない!何か、何か言わないと!
「あっ、ワルダー!」
「「ぬん?」」
あと数秒あれば斬り刻まれそうな恐怖のど真ん中、俺は咄嗟の思い付きでワルダーの名前を呼びながら、意味もなく右斜め上を指さしている。ボスの名前が興味をひいたのか、アガウガンはピタリと動きを止めた。
「「ワルダー様が戻られたのか?」」
あ……あれ?戻られた?てっきり、城の上層部でデンと待ち構えてるかと思ってたが、俺たちの村を襲ったあと、ここには戻ってきてないのか。師匠との激闘が続いているのか、その戦いによって体力を大きく消耗したか、もしかして迷って帰ってこられないか。なんにせよ、これは好都合!口から出まかせを矢継ぎ早に繰り出してみる。
「おやおや。ワルダーのこと、知らないのかな?知らないか。そうかそうか」
「「なん……だと!何を知っている!吐け!」」
「ワルダーは俺たちの師匠が封印したのさ。だから、自力では戻ってこられない。封印されてる方角は、あっちの方かな~?」
適当に指さした方向をワルダーの封印されている方向などとウソついてしまうが、実際は城の壁があるだけである。いいぞ!ポーカーフェイスだ!俺!
「バカな!?オーブ使いのワルダー様が、普通の人間などに!?」
「オーブ使いは勇者じゃないと倒せないが、封印するなら誰にでもできる」
「テルヤァ……」
「え?」
しまった!敵をだますだけならいいが、後ろの仲間も説得しないと!ヤチャがいらんことをいわないよう、間を作らないよう急いで付け足す。
「ああ。ヤチャが気を失った後、こっそり戻って見たんだ。ほんとだよ?ははっ」
「「勇者め!どのような強力な封印をかけた!吐け!」」
「え?がんばって土で埋めてたよ?」
「「……」」
……さすがに適当すぎたか。しばしの沈黙を冷や汗ながらに見守る。フォローの言葉を投げようとしたところ、相手が何か呟いた。
「「ガ……ガイアの呪縛……だと」」
「そ……そう。それ」
思わず便乗したが、そんな封印あるんだ……。
「「よくも、恐ろしい呪いを!ここで仇討ちとさせてもらう!」」
「うわうわ!ストップストップ!」
「「ぬぬん?」」
あぶねー……頭に血が上った拍子で殺されるところだった。もう、こうなったらやけだ。思いついたことをどんどん言ってやれ!
「だって、お前では俺には勝てない」
「「なん……だと?」」
これ、実は前々から言ってみたかったセリフである。言ってみて初めて分かった事だが、自分の方が敵より弱いと、言っても嬉しみないな……。
「最終形態……そう言ったな?つまり、お前はもう、変身を残していない」
「「くっ……しまった」」
「それに引き換え、俺の必殺技・爆裂拳は……ご……4段階にパワーアップする」
「「なにィ!」」
「なん……だとぉ?テルヤァ!」
「ヤチャ。ちょっと黙っててくれ」
「ふふふふ……」
『5段階よりも4段階の方がリアリティあるかも作戦』が成功したのかはしれないが、相手をビビらせる事と、ヤチャを黙らせることに成功した。仕上げだ。これも主人公として、一度は言ってみたかったテイストのセリフだが、恋愛アドベンチャーゲーム主人公の俺に言えるだろうか。いや、俺だって主人公だ。カッコよく言ってみせる!
「お前では、今の俺の相手にならない。さっさとボスを連れて来てみろ」
「「く……」」
決まった……か?
「「く……ふふふ……」」
「あれ……どうしました?」
笑われた。作戦が失敗したついで、俺の主人公としてのわずかな自信すら喪失した。
「「そうか。それが望みか。では、ワルダー様に会わせてやろう」」
「え……」
「「我ら、最後の力を振り絞り、ワルダー様をここへ、強制召喚する!」」
「えええぇ?」
し……しまったああぁ!そんなことができるなんて聞いてないぞ!?せっかく、アガウガンとの戦いを避けられても、もっと強いのが来たら意味ないだろ!アガウガンが四つの腕を床につけ、首筋から出てる手は頭上へ伸ばす。黒いサークルのようなものがアガウガンの巨体を囲み、彼の姿はチリのように舞いながら消えていく。
「「ワルダーさまぁ!不甲斐なき我らに代わり、忌々しき勇者をおおおおぉ!」」
淡い紫色の光が柱となって、部屋全体へと広がる。その閃光の中、アガウガンのいた場所に何か、大きなものが浮かび上がってきた。
「あれが……ワルダーなのか?」
取り巻く風に目を細め、その大きなものの正体が今にも襲い掛かってくるのではないかと待ち構える。辺りの闇雲が晴れた時、俺たちの目の前には身長3mはありそうな鎧の大男が……うつぶせの状態で床に埋め込まれておった。これがワルダーなのか……それは、俺たち3人には解らん。
「……えっ?」
「うぬぬ?」
「ふはははは……?」
何か巨大なものに叩き潰されたようなポーズで登場した男は立ち上がるでもなく、そのまま床を突き抜けて一階へと落っこちていったのだが、その衝撃が地面をも揺るがす勢いだったせいか、自然と城を崩壊へと導くのであった。とか言ってる場合じゃない!すたこら逃げねば!
「ヤバい!逃げるぞ!」
「俺様は……このくらい、なんともないのだははははあぁ!」
「このままだと俺が死ぬの!急げ!」
ヤチャは頭に瓦礫が落ちてきてもセーフだろうが、俺は瓦の一枚でも当たったらデッドなの!ワルダーらしきものが落ちていった穴を飛び越え、ドアを開けて廊下へと出る。階段に続く道が崩れた壁でふさがっている!
城は積み木を払い落す勢いで崩壊していく。精霊様の魔法で少しは防御してくれているようだが、下層部にいる今の状態は非常にヤバい。
せめて城の端にある部屋へ行ければ、あとはヤチャに壁を壊して飛び降りてもらえ……いや、どの部屋に窓があったか、俺は知っている!上から降ってきた床石を避けるようにして、俺は真ん中にある扉を開いた。
「ヤチャ!あの窓ガラス、ブチ破れるか?」
「当たり……前だぁ!」
俺がペンダントでガンガンやっても打ち破れなかったガラス窓が、ヤチャのパンチ一発で周りの壁ごと吹き飛んだ。その先は……湖だ!俺はアクション映画さながら、崩れる足場から一気に湖へと飛び込んだ!
華麗に飛び込みが決まった……と思いきや、目を開いた時には水面スレスレで俺は飛んでいた。精霊様が俺の背中に乗っているから、きっと飛行魔法によるものだろう。しかし、ジャンプ台から飛び降りる姿勢で浮いているため、これはむしろカッコ悪い……。
「あ……助かりました。ありがとうございます」
「重いんよ!早く陸地にいくのじゃぞい!」
俺は無事、濡れることなく城の正面にある階段の前へと吊られていった。また、俺の横をヤチャが輝きながら飛んでいて、ああ……やつは人間を超越した存在になったのだとも、今さらながら理解した。
「フフシヅブシギシ!オエ!オーフファー!!オーフファー!」
ウガンに倒された仙人が、謎の言葉を発しながら俺たちを迎えてくれている。結構な傷を負ったように見えたが、どうやら無事のようでなによりだ。
「フォーフォファー!オーフファー!」
「じじい!言いたい事があるなら人の言葉でいえと、常々いっておるんよ!」
「精霊様、煽らないであげてください……」
(……ふーっ、ふーっ。手負いの老人にテレパシーを使わせおって。よくぞ城をおとしてくれた。勇者よ。それで、ワルダーの持つオーブは手に入ったのか?)
「……あっ」
そう言われて城の方を振り返ってみると、そこには先程まで城だったものが積んで散らばっている。この中からワルダーの持つオーブを探すのか。いや、俺はいいんだけどさ。そのくだり……ユーザー的には面白いのかなあという余計な心配が、俺の心によぎってしまう。
「……しょうがない。探すかあ」
「俺様もぉ」
「あたちはやらない」
さすがに老人と児童の手を借りるのもなんなので、俺とヤチャだけで崩れた城の山へと足をかける。したら、どこからか仮面に塞がれたような声で呼びかけられた。
「勇者、無事だったか」
「あ……あぁ、はい。そちらも、ご無事でなによりで」
すぐにマントの人の声だと解り、その姿も木々の隙間にうかがえる。相変わらずマントと仮面に覆われてはいるものの、あちらもケガなどは無いように見えて安心した。しかし、こちらはミッションを半分成功半分失敗したような状態であるため、控え目に状況報告。
「城は壊したんですが……これから赤いオーブを発掘するところでして」
「……ちなみに、これではないのか?」
「……ええ?」
マントの人がバッグから取り出したものは赤い水晶のようなもので、それは夜の闇を取り込むかのように輝いている。すぐに仙人と精霊様の鑑定が始まり、10秒ほどで本物との断定がなされた。
「本物のオーブなんよ!」
「えええ?なんで持ってるんですか?」
「実はパワーアップの塔が倒れた時、何者かの気配を感じた。追っ手なら消さねばならないと考え、あなたたちと別れた後、一人で塔のふもとへ戻ったのだが」
「そうだったんですか……」
「そこには何者も見当たらず、この珠だけが転がっていた」
「……ミステリですね」
単純に考えると、ワルダーが塔の近くにいて、オーブを落としたことになるのだが……勇者の出した攻撃じゃないと倒せないオーブ使いが未登場の人物に倒されたとも考えにくいし、ましてや大切なオーブを落とし物するとも思えない。そして、俺はワルダーと戦っていない。う~ん……探偵ものならば真実を導き出すのだろうが、そこは俺の本分でないから追及しない。
「と……とにかく、赤色のオーブが手に入った……ってことで、OK?」
「釈然とせぬが、それでいいんよ」
……とうとう、一つ目のオーブを手に入れてしまった。バトルものの主人公じゃない、こんな俺が。
あっけないクリアとなり、しばし頭の中が真っ白になってしまう。いや、一つのステージを突破したのだ、このまま終わっては様にならない。なにか……そうだ!こういう時、主人公は決まり文句があるものだ!よし、いくぞ!
「や……やったぜ!赤色オーブ、ゲットットォ~!」
「……は?なんじゃそりゃそりゃ」
精霊様の優しくない返しを受け、現場は風の音すら聞こえるほど冷え切った。これはあれだな。『スベった」ってやつ、かな。
「すみません。テンションが上がっちゃって」
「上がっちゃって、では済まんほどのダサさじゃったんよ」
「ふはははは……テルヤァ。ダサいぞおぉ」
(ダサいぞ……勇者よ)
「……」
「……いや、まいったね」
オーブを手に入れたところまでは良かったのだけど、最後の最後で総スカンを受けた。俺も主人公として、まだまだだなと反省したと同時、こんな俺にダサいとか思われてたアガウガンに対して、ちょっとだけ申し訳ない気持ちになった……。
第14話へ続く