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第56話の6『苗字』

 エレベーターは快調に高度を上げ、もはや窓からは街の最下層が霞んで見えない。街は上へ行けば行くほど要塞感が強くなってゆき、謎のパイプが血管の如く張り巡らされていて、なんだか恐ろしい生き物の中に入っていくような緊張感である。エレベーターの外でシュゴゴゴシュゴーっという音が鳴り始め、チンッという電子レンジみたいな音がしてエレベーターは動きを止めた。

 「到着だ。私は姫様のご様子をうかがってこよう。君たちは客室にておくつろぎいただきたい」

 「今さらながらですが……よそ者の俺たちが、急に姫様に謁見してしまっていいんですか?」

 「むしろ、会わせておかないと後々、『面白そうなのに、どうして会わせなかった?』などと、姫様のご機嫌を損なう恐れがある……『引き車ジャック事件に立ち向かった一般人』なんて、そうはいないからね」

 「……それはそれで大変ですね」

 「なお、姫様のご気分によっては面会を中止させていただく場合もありえる。ご了承を願いたい」

 お転婆というか、女王様気質というか……姫様はプライドの高い人のようだな。恋愛アドベンチャーゲームでもたまにいるタイプのヒロインだが、そういう娘のシナリオはそれなりに主人公の男気が問われるシナリオとなりかねないので、個人的には攻略を後回しにしたい。

 「……ああ。シュッパ君。シュッパ君。頼まれてくれないかな?」

 「む?」

 エレベーターを降りた先、そこには2人くらい並んで歩くのが精いっぱいな細い通路があり、微妙に歪んでいるのか通路は蛇の中を通っているようにグネグネしている。そんな廊下に人通りがほぼないのだが、アマラさんはカッチリとした鎧を着こんだ人物を見つけて声をかけた。

 「シュッパ君。私は今から、姫様へご報告にあがる。この2人を客室へご案内してもらえないかな?」

 「む?まぁ……やぶさかではない」

 「よろしくお願いします。あ、君の名前、まだ聞いてないよね?」

 「テルヤです。こちら、セガールさんです」

 「これ、書いておいてほしい。被害届。後々、迎えに来よう」

 被害届の用紙を俺に手渡すと、アマラさんは俺たちをシュッパ君という人に任せて去っていった。シュッパ君……いや、シュッパさんは物凄く渋い顔をしているが、俺達へと手招きしつつ静かに歩き出した。

 鉄板をパッチワークしたような見た目の通路は幾重にも分かれていて、シュッパさんは徐々に下る道を選んで進んでいく。通路の途中には丸い部屋のようなものが設置されていて、その中へと俺たちは通された。外から見ると球体だったが、室内は四角い普通の部屋で安心した……。

 「ここで待て。以上」

 「ありがとうございました」

 シュッパさんは俺たちを部屋へ案内すると、腕組したままドアの前で仁王立ちを始めた。俺はテーブルのペン立てから書くものを手に取ると、広げた被害届の文面へと視線を落した。

 「被害者の氏名……名前は……時命照也」

 「トキメイ?」

 「苗字といいますか……名前の身元みたいなものですね」

 「知ってる~。でも、トキメイは聞いた事がない苗字だわ」

 セガールさんの反応を見るに、この世界にも苗字というものはあるらしい。そういや以前、カルマさんという人とレジスタで会ったが、彼だけはカルマ・ギルティと名乗っていたな。ヤチャたちにも実は、名前の他に苗字があったりするんだろうか。

 「テルヤ君。あちしの苗字、知りたい?知りたい?仲良しの証に教えてあげよっか?」

 「いいんですか?じゃあ、教えてください」

 「あちしの苗字は……ニよ」

 「……に?」

 「ニ・セガール」

 ニ・セガール……ニセガール……偽ガール。ああ、男ですからね……。


                                   第56話の7へ続く



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