第56話の4『宿屋』
持ち物検査を終え、俺たちは城の入り口を見上げている。両開きの大きな門は高さも幅も30メートルくらいありそうで、家すら運び込むのも容易いだろう。今は開きっぱなしになっているが、さすがに夜は閉鎖されるのだと思われる。しかし、何人がかりで扉を閉めているのかは疑問である。
レジスタでは危険人物との疑いにつき入り口で足止めされたヤチャだったが、ここでは監視なしで城に入れるとは思わなんだ。ただし、通路を行き交う隊員らしき人々は男女を問わず屈強そうで、俺が入隊志願しても面接で落されるのは間違いない。
「君たち、これからどうする予定だった?」
あらゆるオブジェクトがデカい城内を見学していると、道を案内してくれているアマラさんに今後の予定などを質問された。とにかく、寝る場所を確保しておかないと安心できない訳で、どこか知り合いの宿でも紹介してくれないかという期待も含め、その旨を明かしてみる。
「とりあえず、泊るところを探そうかと……」
「ならば、そことかどうかな?」
そこ……と指さされた方を見てみると、城の中にホテルらしき看板が張り付けてある。よく見ると他にもレストランや洋服店など、様々なお店が地下街の如く城内に並んでいる。そうか。城の一階部分が街の体を成していて、上の部分が本来の城の役割を果たしているのか。それで、城の中だというのに一般の人が大勢いるのだろうと合点がいった。
「私が仲介してあげるよ。保護者は……あなたでいいかな。ご同行ください」
そう言うと、アマラさんは仙人と一緒に宿屋の中へと入っていった。実際に泊まる人が誰かいないと話が進まないのは解るが、仙人は入れ歯がないからロクに喋れないからして、俺が一緒に行った方が良かったかもしれない。
それはともかく……前々から俺には気になっていたことがある。それはバトル漫画的な作品において、仲間キャラとして老人が、それも言葉を発音できない老人が、レギュラー登場キャラとしているのは普通のことなのだろうか。老人がいたとしても、師匠とか技を伝授してくれる人とかであって、旅に同伴しているのは珍しいのではないかと思う。まあ……俺自身が様々な面において未熟なのも否定できないからして、あのような大人が近くにいてくれる事はありがたくて違いない。
(部屋を貸してください)
仙人はテレパシーが使えるので、それで店の人と話をしているらしい。テレパシーは全方位発信なので、俺たちの脳内にも届いている。
(2人部屋が4つあれば足りると思います)
(まずは二日くらい泊まります)
(……いいえ。私は妖怪ではありません)
(……髪は少ないです)
などと仙人のテレパシーだけが外に聞こえてくるが、どんな話をしているのかは謎である……。
「やあ。待たせたね」
それから数分が経って、アマラさんと仙人が宿屋から出てきた。テレパシーを酷使したせいか、仙人は微妙に汗をにじませている。結局、部屋は貸してもらえたんだろうか。アマラさんに尋ねてみる。
「……部屋、空いてましたか?」
「うん。全部、タダでいいって」
「えええ……」
……さっきの会話の中で、何があったというのか。でも、チラッと覗き見えた宿屋の亭主も髪が少なかったから、ちょっとだけ概要は理解できてしまったかもしれない。
第56話の5へ続く