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第56話の3『検査』

 駅らしき場所のお手洗いを借りてメイクを落とし、無事に男の子に戻った俺は急ぎ足で仲間の元へと戻った。アマラさんは乗客が全て降り終わるまで車内を調査し、外で待機していた警備隊の制服を着た人たちと入れ替わりで車外へと出てくる。

 「待たせたね。君、まだまつげが長いよ?」

 「いえ……これだけ、どうしても取れなくて」

 他のメイクは簡単に水洗いで落ちたのだが、なぜかマスカラまつげだけは取るのに苦戦したのだ。そのせいで微妙に中性的な顔になってしまった為、いっそ落とさない方が良かったのではないかとも後悔している。

 それはいいとして、ここがセントリアルの街か。俺たちが引き車から降りた場所は大きな建物の中だったのだが、そこには他にも車が20台ほど待機しており、切符をスタッフに見せたお客さんたちは行き先の書かれた車へ次々と乗車していく。俺たちが乗った車は日中の便だったが、夜に出発する車もあるようだ。

 「アマラ様。強盗事件の迅速なる解決、見事なお手並みでございました。ワタクシが捜査を引き継ぎます故、資料を頂戴したく存じます」

 「被害にあった乗客の氏名、住所、強奪されたと思しき所持品のリストだ。なるべく早く返してあげてね」

 帽子を深く被った背の低い男の人がアマラさんへ近づき、無駄のない動きでリストを受け取ると俺達に会釈をして引き車へと入っていった。彼の着ている制服はアマラさんの着ているものと似ているのだが、アマラさんのものよりも少しだけ色が薄くて灰色っぽい。階級や役職によって違うのだろうか。それと、彼らの制服はレジスタの人たちが着ているものともデザインが似ている。

 「ゼロさん。ここって、レジスタと関係があるんでしたよね?」

 「レジスタはセントリアルに属する都市だ。私はレジスタで作られた。ここは来た事はあるが馴染みがない」

 なるほど。すると、レジスタはセントリアルが保有する空中要塞のようなものなのかな。ただ、レジスタの防衛隊の人たちが全体的に朗らかであったのに対し、セントリアルの隊員たちはなんというか……見ていると背筋がピリッとするような緊張感を持っている。それは特に武器の持ち方へ顕著に表れていて、セントリアルの隊員はあえて見えるように剣を下げているのが印象的だ。

 アマラさんも口調や笑顔は穏やかなのだが、たまに目が合うと視線に鋭さがあるのが解る。こういう優しそうな人が怒るとギャップで特に怖いので、なるべく怒らせないように努めたい。そんなアマラさんは俺達の準備が終えているのを確認すると、両手を愉快に動かしながら駅の出入り口へと歩き始めた。

 「では、城へとご案内しよう。そうだ……先程から、ちょっと気がかりだったんだけど、君たちはなんの集まりなのかな?」

 「……え?」

 「家族ではないようだし、何かのチームにしては統一感がない。いや、興味本位だよ。答えなくてもいいけどね」

 言われてみれば俺達って……ムキムキマッチョの男と仙人風の老人、女装している男と女児、キメラのツーさんを一人と認識しているかは別として、中でも補修した変なデザインの学生服を着ている俺と、どこか人間離れした雰囲気のゼロさんが異彩を放っていると思われる。

 アマラさんは良い人そうだし、本当のことを言っても問題はないかもしれないが……一応、ルルルにアイコンタクトをとってみる。そうしたら……しかめっ面でノーの答えが返って来た。なので……。

 「バードウォッチング愛好会です」

 などと、俺は臆面なく返答してしまう。嘘をつく事に慣れてしまうって悲しい事なの。

 「ああ……いいよね。鳥の観察」

 などと、とても純粋な答えが返ってきて、更に胸がいっぱい痛い。そうは言いつつも、アマラさんは振り向き際に少しだけゼロさんの顔を見て、笑うでもなく不思議がるでもない掴みどころのない表情を見せた。なんだろう……。

 「ほら、着いたよ。ここが街の王城にして、セントリアル防衛隊の本部・バトルマスターズだ」

 駅を出る。その正面には巨大な剣が地面に突き刺さったような形の建物があり、その柄の部分は天高くまで枝分かれしながら伸び、上層部は引き車の中から見えていた鉄のカタマリに似た城と化していた。そこがアマラさんいわく、防衛隊の本部であり王城でもあるという。街の入り口に城があるとは、なかなかの強気である……。

 「城の中へとお招きする前に……所持品の検査をさせてもらおう。ご協力を願う」

 アマラさんが丁寧に頭を下げて言うと、男女何人かの隊員たちが俺達の服を上から触り、武器などを持っていないか確認を始めた。俺を始めとした男には男の隊員が対応し、女の人には女性隊員が当たってるのだが、セガールさんだけは性別が解らなかったからか、女の人の隊員が検査を行っている。そんな検査の結果が、これである。

 「アマラ様!全員、武器はありません!」

 「え?外には魔王軍とかいるんだけど、君たち……どうやって旅行してたの?」

 肉体が武器のヤチャはともかく、確かに他のメンバーは丸腰が過ぎる。まずい……怪しまれると困る。そう悩んだ末、俺の出した答えが……これである。

 「武器はなかったですが……ど……どうにかなっちゃいました」

 「そうか。どうにかなっちゃったか。なら、しょうがないね」

 ほんと、アマラさん優しい……。


                               第56話の4へ続く


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