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第56話の2『居眠り』

 アマラさんは何を警戒しているのか、席には座らず戸口に立ったまま、女装した俺に向けて要件を告げた。

 「乗務員の方々より、君の話を聞いた。街へ到着したら後々、城へ来てほしい」

 「え……」

 どうして城に連れて行かれるのだろう……屋根の上で爆弾を使うと宣言した一件につき、爆発物所持の疑いで城へと連行されるのだろうか。ただでさえ、どうやってオーブとペンダントを穏便に返してもらおうかと模索している最中な訳で、これ以上は大事にしたくない……そこで、ここは率直に拒否してみた。

 「いえ、遠慮します……」

 「え……どうして」

 「知らない人にはついて行っちゃダメって、パパに言われてるので……」

 「大丈夫さ。私は国家権力なんだ。それとも、やましい気持ちがあるのかな?」

 「や……やましい気持ちなんてありませんよ。決して」

 最近、こうやって下手に言い訳をして墓穴を掘るパターンが多い気もするので、あえて覚悟を決めて罰を受けた方が女装および挙動不審についての逮捕は免れられるかもしれない。

 「そうよ!城へ入れる機会なんて、そうそうないわ。行ってみなさいよ」

 などとセガールさんは言っているものの、自分を勇者と偽り街の人たちを騙していた張本人が、なぜか国家権力を前に屈託なくて大胆不敵である。一応、なぜ城へ連れていかれるのか理由は聞いてみる。

 「俺、どうして城に連行されるんですか?」

 「連行よりかは、招待の方が適切さ。引き車ジャック事件での協力を表彰する」

 「……そ……そうなんですか。あ、この人も事件の解決に協力してくれたので、連れて行ってもいいですか?」

 「そうだね。本部へ連絡しておこう」

 城へ到着次第、ただちに収監される恐れはないと知り安心した。ただ、一人で城に行くのはイヤだったので、なんとかセガールさんを巻き込むことに成功する。

 「城へは私が案内しよう。では、失礼」

 アマラさんは爽やかに用を告げ終えると、踵を返して部屋の戸口から去っていった。車の窓からは街の姿が見えているけども、まだ到着までに何時間かはかかりそうだ。アマラさんが同乗している中で新たに事件は起こらないだろうし、ここは安心して眠りにつこう。そう考え、俺は硬いイスに座ったまま最大限にリラックスを始めた。

 「……ちょっと。テルヤ君……ちょっと、着いたわよ」

 随分と気持ちよく眠っていたのだが、肩を叩かれると同時にセガールさんの声が聞こえてきた。まだ夜にはなっていないようで、窓から差し込む光もあり部屋は明るい。寝ぼけまなこをこすりながら顔を上げる。すると、俺の前に誰か立っているのが見えた。

 「……」

 「……」

 ふと見上げた先にはゼロさんが立っており、なんともいえない無表情で俺を見下ろしている。怒っている様子ではないのだが、やけに動きがなくて物静かであるのと、人形のような揺らぎない視線が刺さり背筋がゾクッとしてしまう。俺も何を言ったらいいのか解らず女装の言い訳を喉に詰めてしまうが、そうしている内にもゼロさんは都合悪そうに声を絞り出した。

 「……なんだ……その」

 「……?」

 隣で真顔のまま立っているルルルをチラッと見てから、ゼロさんはなだめるような口調で続けた。

 「勇者も、女の子になりたかったん……だな?」

 「……いえ、そういうわけでは」


                                 第56話の3へ続く



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