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第56話の1『黒髪ロング美少女とは』

《 前回までのおはなし 》

 俺の名前は時命照也。恋愛アドベンチャーゲームの主人公なのだが、気づけばバトル漫画風の世界に飛ばされていた。赤のオーブ、青のオーブを手に入れた俺たちは、次の魔王四天王の情報を探しつつ、セントリアルという街へと向かっているところ。

 

                 ***


 引き車がトチュウの町を出発してから少し経ち、随分と日も高くなってきている。のどかな風景は見ていて飽きず、野菜畑の次は花畑、その次は水田、途中には何か解らないが穴がたくさん開いている謎の場所もあった。湖の澄んだ水色は空の色を映していて、清涼感のある景色が窓の外いっぱいに広がっている。

 そんな豊かな自然の向こうには……妙に鉄鉄した外装の巨大建造物があって、あれがセントリアルの城なのではないかと思われた。街は上空へドーンと高く伸びており、上側にあるドームのようなものが闘技場イキョーかと予想される。そうして、俺がスローな時間を過ごしていると、セガールさんは暇を持て余した様子で声をかけてきた。

 「勇者君は、名前なんっていったっけ?」

 「俺、時命照也です。テルヤでいいですよ」

 「それ、トチューで買ったんでしょー?何に使うの?お姉さんに言ってみ?ん?」

 『それ』というのは俺が持っている髪飾りで、トチューの町で知らない人から譲り受けたものである。見るからに男がつけるものではない装備であるが故、女装したお兄さんは用途が気になったのであろう。

 「誰かにあげるのかしら?もしかして、あちし?」

 「違いますよ……」

 「じゃあ……あの子?」

 「……いやぁ。綺麗だったので、ついつい自分用に」

 「えー?テルヤくん、女装に興味があるのー?じゃあ……暇だし、やったげるー!」

 ゼロさんにあげるなどと言ったら追及されそうなので適当な嘘をついたところ、なぜか女装メイクを施される事となった……断る上手い口実も見つからなかった為、ここは素直に受け入れるしかない。

 「テルヤくん。服も着替えちゃう?」

 「いえ……俺、この服じゃないと誰だか解らなくなるので」

 元々、俺は体形が筋肉質ではないから、女性ものの服も入りそうではあったが……学生服という俺の唯一のアイデンティティが失われかねないので着替えは遠慮した。顔も特徴がないからメイクしがいがあるのかないのか解らないものの、セガールさんは自分のメイク以上に時間をかけて一時間近くも頑張ってくれた。

 「あとは……ウィッグに髪飾り!できたわ!清楚な女の子よ!」

 「え……終わったんですか?」

 女の子にあげようと思っていた髪飾りを自分でつけることになるとは思わなかったが、地毛じゃないからノーカウントということにしておこう。長丁場のメイクを受けて眠くなっていた眼で、セガールさんが持っている手鏡の中を見る……。

 「うわぁ……これ、俺ですか?」

 女装メイクをした俺の姿といえば、美少女が大勢でてくる作品において高確率でセンターにおさまっている茶髪の女の子……の左隣あたりにいそうな黒髪ロングな少女の風貌であった。しかも、黒髪ロングはクールキャラじゃないと本領発揮できないイメージがあるのに、どう見ても良い子ちゃん顔なのも辛い……。

 「解りました。俺……ヒロインには向いてないですね」

 「いえ、超かわいいから、そのまま一日はメイクおとさないでね?」

 そう言われたが為に俺は女装姿のままセガールさんに可愛がられていたのだが、ルルルに見られると絶対にバカにされるから降車までにはなんとかしたい。あと、仙人のドン引きしたような視線にも理解を求める……。

 「うご……おおおぉぉぉ。うごっ!起きたぞおぉぉぉ!」

 「……ヤチャ。起きたのか。パン、買ってあるぞ」

 「おおぉ……テル……おおぉ!テル……ヤァ?」

 深い眠りから覚めたヤチャにパンの話をするも、ヤチャは俺の姿を見て硬直してしまった。あのヤチャが珍しく動揺している……俺、そこまで酷いか?

 「……失礼。君たちに話が……あっ」

 今度はアマラさんが扉を開き、俺と目が合った。そのまま、ゆっくりとアマラさんは扉を閉めた。

 「……すまない。すまない」

 「待ってください……全然、すまなくないので」


                                 第56話の2へ続く



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