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第55話の3『パン?』

 この町は農業が盛んであるらしく、遠い景色には大きな牧場や果樹園らしき場所がうかがえる。それらとは別に商店の立ち並ぶ大通りがあり、祭りでもしているのかと見間違うほど人の姿がある。いや、花火の音がパンパンと鳴っているから、なにかしらイベントはやっているのかもしれないが判別がつかない。

 「お兄ちゃん!これ買って!」

 ルルルがパン屋さんらしき建物を指さし、ガラス越しに見えているものをねだっている。さては、お菓子が目当てで町へ行こうと言い出したのだな。でなければ、この子が自分から行動しようなどと言うとは思えん。

 ねだっている商品は……見た目はリンゴっぽい果物に見えるけど、展示品を見る限りは剥いた皮の中がケーキになっているようだ。どうやって調理したのか解らないが、皮がついている分だけ持ち運ぶには便利かもしれない。他にも、レンガにしか見えない茶色いパンとか、シロップに浸かっている焼き菓子など、珍しい食べ物が色々と陳列されている。

 「えっと……ルルルは、これが欲しいのかな?」

 「あと、これとこれとこれ」

 「……一つでいいよね?」

 「一つじゃ足りない……」

 「では、私の分も一つ買う」

 俺とルルルの問答の末、ゼロさんの分という名目で二つ買う事となった。きっと、あとでゼロさんはルルルにあげるのだと思われる。あと、ヤチャたちの分も買おうと思うのだが……あの人たちの好みが解らないから、名誉ベストオブ無難パンであるジャムコッペさんを購入した。

 しかし、ゼロさんは食べ物にも頓着がないとなると、他に何なら興味があるのか。町には様々なものがあるから、それを知るには絶好の機会なのだけど……早いところ乗り物へ戻らないと置いていかれたりするかもしれない。そこのところ、ゼロさんに相談してみる。

 「そろそろクルマに戻った方がいいんですかね」

 「出発前に汽笛を鳴らすらしい。乗客の確認もすると聞いた」

 「そうなんですか。どこか見たいところあります?」

 「……ここは立ち寄ったことがないから解らない」

 「では、もう少し歩きますか」

 まだ時間はありそうだし、町の入り口から遠くない範囲でもう少し散策してみるとする。ルルルがお花屋さんで立ち止まった為、その間に俺は町の様子を眺めてみた。警備隊員の制服を着た男の人たちがパトロールさながら大勢で歩いており、しかし町の人たちは警戒するでもなく気軽に挨拶をしたりしている。その制服にはセントリアルと書いてあり、そちらの方が俺は気になった。

 「なあ。なんで、トチュウの町にセントリアルの警備隊がいるんだろう」

 「お客様、どうされました?」

 ルルルに話しかけたつもりだったのだが、大人の声で返事がきた為に俺はビックリして振り返った。その声の主は花屋の店員さんで、エプロン姿の女の人である。あと……美人の上にスタイルが良くて目のやり場に困る……。

 「いえ、セントリアルの制服を着た人たちがいるので、なんでなのかと思いまして……」

 「トチュウはセントリアル傘下となった町ですので、あのように定期的にセントリアル防衛隊の方々がいらっしゃいます。その際は、トチュウでも町を上げて歓迎するんですよ」

 どういう経緯で傘下になったのかは解らないが、それをトチュウの人たちは嫌がってはいないらしい。街に大きな闘技場があったり、近くの町を傘下にしていたり、セントリアル武闘派衆という謎のチームがあったり、未だかつてなく謎の多い街だ。お店のお姉さんにはお話を聞かせてもらった事だし、お花の一輪でも購入しようか。そう考えたのだが、お金を持っているゼロさんがいない。

 「あれ?ゼロさんは?」

 「お連れの方でしたら先程、あちらの宝石店にいらっしゃいますが……」

 それは宝石店といっても豪華なものではなくて、アクセサリーを売っている大きいテントのような風貌の店であった。そこにゼロさんの姿があったのだが……ゼロさんが何かに興味を持っているのも珍しい気がする。何を見ているのか気になりつつも、俺はルルルにお金の話を持ち出した。

 「ルルル。お金、持ってる?」

 「今は持ってないんよね」

 ということで、仕方ないけどアマラさんのお小遣いを使わせてもらおうかと思う……。

 「このコインなんですけど……使えます?」

 「あ……うちではお釣りが用意できませんので。申し訳ございません」

 額が大きいと大きいで不便だな……。


                                第55話の4へ続く


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