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第12話『試練(諦めなければなんとかなるもんだな…)』

《 前回までのおはなし 》

 俺の名前は時命照也。恋愛アドベンチャーゲームの主人公になるはずだったのだが、気づけバトル漫画風の世界に飛ばされていた。勇者として旅に出た俺は魔王四天王の一人・ワルダーの城へと侵入したものの、きっとあと数秒で死ぬ。


 『 1.あきらめる 』


 世界は俺を含めて一時停止していて、すぐ目の前に出現しているメッセージウィンドウには『あきらめる』の文字。その先にはドリルのように回転しながら突っ込んできている四本腕のデカブツ剣士。詰んだ……。


 今までの戦いだったら、少なくとも生き延びられる選択肢が1つは表示されていたはず。しかし、今回のは選ぶ余地すらない。つまり、さっきあった扉を選ぶ選択肢の時点で、チョイスを間違えていた可能性がある。


 時間が止まっているから悠長に思考を巡らせてはいるが、あきらめれば即刻、斬り刻まれて死ぬだけ。部屋のテーブルが細切れになりながら宙を舞っていて、それと同じ要領で俺も骨を砕かれて死ぬのだ。心境的に涙は出そうだが、まだ出ていない。けど、もうすぐ出る。


 でも、まあ……死んでもコンテニューできるかもしれないし、まだ希望はあるし、扉を選ぶ選択肢なんてノーヒントだったし、間違えるのも仕方ないし、こうなってしまったのもやむないし。まだまだ希望はあるし、間違えるのも仕方ないし、やむないし。


 『5……』


 時間が動き出すまでのカウントダウンが始まった。俺の命も、残り僅か。そもそも、どこにでもいる普通の高校生になるはずだった俺の筋力で、バトル漫画の敵と真っ向勝負できるわけもなし、ここは運を天に任せる他ないか。


 『4……』


 前に一度、死んだことはあるが……あの痛みをもう一度、体験するのは正直キツイ。吐きそうなくらいキツイ。しかし、世界を救うためには、これしかないんだ。


 『3……』


 ここは黙って、あきらめ……。


 『2……』


 あきらめ……。


 『1……』


 あきらめら……れるわけないだろうがあぁ!されるがままに死んでたまるか!俺は時間が動き出すと同時、手身近にあったイスを持ちあげ、じりじり迫りくる敵へと投げつけた。もちろん、そんなものは木っ端微塵になって散り散りになるだけなのだが、俺だって敵へダメージを与えられるだろうなんて浅はかなことは考えていない。やれることを最後までやる!それだけが俺の体を動かしている!


 「勇者、危ないから早く逃げるんよ」

 「あっ!一人だけ逃げてる!」


 抱えていた精霊様は部屋の右上へと飛んで勝手に避難しており、魔法の効果が消えた俺の体には本来の重さが戻ってきた。とはいえ、相手の攻撃範囲は横幅5メートル程度をカバーしており、かつ相手は目で俺を捉えている顔向きであるからして、走って逃げたとしても追尾してくるだろう。とすると、横に逃げるのは得策ではない。


 残るは……窓か。ガラスはハメこまれていて開かない。いや、開かないなら壊してしまえ!俺は所持品の中で最も硬い物……運命のペンダントで、ガラスをガンガンと殴打し始めた。


 「このガラス、かてェ!」


 ヒビは入っている。だが、パリンと気持ちよくは割れてくれない。必死に何度か叩くと、腕が通るくらいの穴が開いた。そこから覗くと……城の外側に2枚目のガラスが用意されていた……。


 「いさぎよく死ぬがよい!」

 「う……うわあああぁ!」


 乱舞している剣が俺に襲い掛かる直前で、手にしていたペンダントが輝いた。時間が止まらないまま、メッセージウィンドウが立ち上がる。


 『 試練を乗り越え、レベルが上がった! 』


 その後、見慣れない項目が追加で現れた。


 『 1.あきらめる 2.一つ前の選択肢に戻る 』


 これだ!すかさず、俺は2の選択に全てを託した。すると、視界が閉ざされ、静まりかえった暗闇の中から、誰かの声が聞こえてくる。


 「……勇者!こら、どうした!」

 「……え?」


 ぼやけた視界の中、次第に3つの扉が姿を現す。俺の背中には精霊様がいて、早く動けとばかりに喝を入れている。


 「急に足を止めるでない!驚くんよ!」

 「……ああ。すみません」


 魔法によって再び軽くなっている足取りを確かめるようにして踏み出すと、待ちかねたように時間がストップ。どの扉を開くかの選択肢が表示された。


 『1.左 2.中央 3.右』


 さっきだったら攻略の糸口もなかった選択肢だが、時間が巻き戻った今ならば少し状況が変わってくる。しかし、この選択肢に『一つ前の選択肢へ戻る』がないということは、いつでも発揮できる能力ではないのかもしれない。作戦事態は決めつつも、頭の中を一旦、クールダウンさせた。


 ……よし、『1.左』だ。開く扉を確定させ、時間が動き出したのを確認していると、空の方からアガンの声が聞こえてきた。


 「無駄無駄ァ!我のヨロイには傷の一つもつけることは無理無駄だ!」


 確か、この掛け合いが終わった時、この左側の扉がついている壁を破壊して、パワーアップの塔が落ちてくる。それまで壁際でウガンを引きとめれば、やつを下敷きにできるはず。あとは、どうやって足止めするかだが、それは扉の向こうで考える!


 「関係……ない!」


 今度はヤチャの声だ。俺は小脇に精霊様を抱えなおし、室内へ入ると同時に部屋の中を見まわしてみた。前に見た時は調理場のように見えたが、包丁や鍋に見えたものは刃物や盾だったらしい。その多くは兵士によって持ち出されており、残っているのはさび付いたものばかり。それでも、使えそうなものがあるのは好都合!俺は大きめの盾を手に取り、体勢を低くして扉に押し付けた。


 「ここに隠れたか!死ね!」


 ドアの向こうからウガンの声がする。すぐに扉を突き抜け、一本の剣が飛び出してきた!さすがに俺の力では耐え切れず、俺は面白いように軽く、盾ごと体は払い飛ばされてしまう。


 「なんだと?」


 今度は空からアガンの声。この後、必殺技の名前っぽいものが聞こえてくれば、それを合図にして上から塔が落ちてくる!でも、このままじゃウガンは部屋に侵入してくる。どうにかして止めないと。その時、停止した空間の中に新たな選択肢が出現した。


 『 1.部屋の奥へ逃げる 2.敵の剣に触る 3.剣で戦う 』


 部屋には敵軍の剣が保管されてはいる。ただ……俺は剣なんて使った事がない。剣道部に入ってる設定くらいはあったらよかったのにと悔やんでも、剣道部レベルで化け物と戦えるかは解らん。


 じゃあ、『部屋の奥へ逃げる』はどうだろう。と、時間を巻き戻す前に起こった事の二の舞になる未来しか見えない。残るは『敵の剣に触る』だが、敵の剣に……触る?あ……ああ!解った!これだ!


 『 2.敵の剣に触る 』


 急いで立ち上がると、俺はドアから突き出ている敵の剣の、刃になっていない方を持って引っ張った!


 「このぉぉぉー!」

 「……ぬ?なにが……剣が抜けん!」


 扉の向こうで、カンカンと軽い音が響いている。扉の亀裂から向こうを伺った限り、ウガンが残りの腕に持っている剣で壁を叩いていると見られる。それも虚しく、一向に壁はボロを出さない。それもそのはず、精霊様の魔法で体が軽くなっている俺が、ウガンの剣に触っているのだから、恐るべき剣さばきも恐ろしく軽くなってしまう。


 「秘技!大・惑星落としいいいぃぃぃ!ふははははぁ!」

 「おあああああぁぁあぁ!」


 ヤチャの必殺技が耳に届く。この後、上からパワーアップの塔が落ちてくるのだが……この場所にいると、俺も危ない!とはいえ、手を離したらウガンの剣にやられる!しまった!あとのことまでは考えていなかった!


 「……勇者!上から何か来るぞ!」

 「解ってますけど、それどころじゃああああぁぁぁ!」


 バリバリと頭上で岩の砕ける音がしている!恐らく、ここにいるとヤバい事実にはウガンも気づいていて、壁の向こう側からは「はなすのだ!はなすのだ!」と情けない声が聞こえてきている!ここは賭けに出て、ギリギリのところで逃げ出してみるか。そう考えていると、ドアの切れ目から突風が吹き出し、俺は後ろに体を飛ばされた。


 「うわ……ッ!」

 「ぐお……貴様、何をした……おおおおおぉぉぉぉ!」


 上からパワーアップの塔が落ちてくる。俺はウガンの剣から手を離してしまったのだが、ウガンはドアに体を押し付け、残りの腕に持っている剣で必至に壁を突いている。やつは不自由な態勢ながらドアを斬り刻んでいるが、もがきにもがいた末に塔の下敷きとなった。


 落ちてきた塔を改めて見てみたら、その上にアガンが寝そべっていて、やつがヤチャの攻撃によりダウンした衝撃で、城が崩れて塔が落ちてきたのだと解った。


 「……あれ。精霊様?」

 「生きておったか……感心感心」


 城の崩壊に伴って発生した土ぼこりの中から、髪を瓦礫の屑まみれにした精霊様が出てきた。今さっきの一瞬で何が起こったのか、俺は無言で答えを求める。


 「……勇者が事故で死んだら困るから、塔が落ちてくる前に風魔法で避難させたんよ」


 「ウガンをドアへ押しつけていた風も、精霊様が起こした魔法なんですか。でも、俺だけ吹き飛ばしたら、残った精霊様が剣でやられてたかもしれない……」


 「ああ。あたちは最初から魔法で姿を消してたから、狙われる心配は無用じゃ」

 「え……あ……う~ん。ありがとうございました……」


 ずる賢いな……そうも思いつつも、結果的に助かったわけだし、よしとしよう。精霊様の頭についたゴミをはらってあげつつ、ありがたみを言葉にした。すると、アガンとの戦いを終えたヤチャが天井の穴から登場し、不敵に笑いながら俺の隣に立った。


 「ふふふふふ……」

 「一人で倒したのか……ヤチャ。すごいな」


 なんと言葉をかけていいのか解らず、適当にヤチャとハイタッチ……しようとしたが強く叩き飛ばされそうだったから適当に肩を叩いてみた。やはり筋肉、硬い。そこで戦いが一段落したと見て、精霊様が仕切り直しのセリフを口に出す。


 「さて、勇者と筋肉ムキムキの力で、ワルダーの右手部下と左手部下を落としたわけじゃ。残りのワルダーも頼んだんよ!」


 「仙人の犠牲も忘れないであげてください……」 


 「そ……それはどうかな……」


 「……な!?やつら、まだ生きておったんよ!」


 塔と共に落下していったアガンが、ウガンを担ぎ上げて穴から這い上がってきた!さすが固有名詞をもつ敵!しぶとい!


 「「ここまで我らを苦しめるとはいい度胸!真の姿に震えよ!はああああぁぁぁぁ!」」


 アガン、ウガンの体が黒い輝きを帯び始め、周りにも思わせぶりな煙がモクモクしてきた!謎の光と煙の中、シルエットが巨大化していく!


 「……これが我々の本領発揮最終形態!合体将軍・アガウガン!」


 なんということだ!アガンとウガンの体が合成されて、四本腕の甲鉄ボディ将軍が誕生した!多分、戦況的には非常にマズい状況なんだとは思うが、それはそれとて合体将軍・アガウガンの名前も姿もダサすぎて反応に困った……。


13話へ続く

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