第55話の2『休憩』
「小休憩をはさんだ後、セントリアルへ出発いたしまーす」
すでに引き車はトチュウの町へと到着しており、スタッフさん達は降りるお客さんへの対応に追われている。強盗事件で財布を取られた人もいるだろうし、その辺りのケアも必要なのだと思われる。なんにせよ、その対応には相応の時間がかかると想像に容易い。
アマラさんからミカンだけをを預かり、俺は自分の部屋へと戻ってきた。すでに同室の三人も席についていて、セガールさんはアマラさんに叩かれた部分を撫でまわしている。もうセガールさんはメイクもなおしたようで、乗り物に乗った時と同じ女性っぽい姿なのだが……スカートに手を入れてケガした股下を撫でるのはオススメしない。
「いたた……酷い目にあっちゃったわ。あちし、なんにも悪くないのに」
「さっきの事件では、ありがとうございました。これ、返してもらったんですけど……食べます?」
「いいわ。あげるあげる」
ずっとむいてあったミカンなので食べたくはないが……まあ、いいか。窓から町の様子を眺めてみる。大都会……という訳ではないが、ちゃんと商店街通りがあるし、それなりに人口建造物もありつつ随所には自然の香りが強く残っている。町には警備団が設置されているとスタッフさんも言っていたし、バトルの要素もないくらい平和そうな雰囲気である。
「おーい!おにいちゃーん!」
部屋の外から声が聞こえ、窓を開けて下へと目を向ける。すると、ルルルとゼロさんが俺の方に手を振っていた。小休憩がてら、町を見に行くのだろうか。受付カウンターの混雑具合からして出発までに時間もかかりそうだし、ちょっと出かけてみるのもいいかもしれない。
「ヤチャ……は寝てるな。仙人とセガールさんも町に行きますか?」
「あちしは痛めた部分を休めておくわ。お金あったら、お土産ちょうだい」
(早起きして眠いからいい……)
予想通りの返事があった為、俺はキメラのツーさんだけ腕につけて引き車から降り、いい天気の下でグッと太陽に向かって背伸びをしてみた。アリさんたちも休憩中なのか、みんな自分の体よりも大きなおにぎりを食べている。
「お疲れ様です。少し町を見てきます」
「おお!トチュウの町といやぁ、ポリコピコンさぁ!食べてこいや!」
謎の食べ物をオススメしてもらったが、名前からして食べ物の姿が全く想像つかない。そんな未知なる食べ物を記憶に収めながらも、俺は小走りでゼロさん達の元へと向かった。
「勇者。他の人たちは?」
「疲れるから行かないらしいです。ヤチャは寝てました」
「騒がしいけど、なんかあったのん?」
「うん。強盗事件があったんだけど……解決したから問題ないよ」
他の仲間たちは来ないとゼロさんに伝言する。また、ルルルが引き車ジャック事件を知らなかった為、女性専用車両にまでは話が通っていないと考えられる。ゼロさんは仙人から預かったお金を幾らか所持しているだろうし、アマラさんに借金を作らずには済むかもしれない。
まあ、お金がなくとも知らない町を散策するのは楽しみだ。人混みではぐれないようルルルと手を繋いでから、俺たちは町の名前が書かれている大きなゲートをくぐった。
第55話の3へ続く