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第54話の7『間一髪』

 「何やつ!曲者か!」

 しまった!二階にいた黒服の男が、スタッフさんの大声を聞いて駆けつけてきた!下の階からも別の黒服の男がやってくる!黒服たちは俺達の姿を見つけたものの、それより先に点火している爆弾の処理を開始した。

 「ガラム!まだ爆発させるな!爆弾を濡らせ!」

 「わ……悪い。すぐに消す」

 「スタッフさん!逃げますよ!」

 「ぜ……ぜひに!」

 まだセガールさんの変装はバレていないようで、すぐに皆で爆弾へ水鉄砲をかけ始めた。変装しているセガールさんはともかく、俺達は捕まったらボコボコにされるに違いない。逃げ道は上にしかない訳で、俺はスタッフさんをつれて屋根の上へと逃げ戻った。

 屋根の上に来てみたはいいものの、この先は行き止まりだ。屋根の上へ続く階段からは足音が聞こえてくる。よもや、ここまでか。俺は屋根の先の方へと立ち、敵が現れるのを待ち構える。スタッフさんは森の向こうに何かを見つけると、苦しそうに声を振り絞った。

 「見てよ!あの長い橋を渡ればトチュウの町!警備団が控えているところまで行けば……隠れていられれば、殺されずにすんだのにー!あー!不幸だー!」

 言われてみれば、森の先には大きな川……湖……いや、海のような水面が広がっていて、薄い霧のせいで長さは解らないが、そこには細い橋がかかっている。すると、セントリアルの街へ戻る前に一つ、別の町を経由するという事か。そういえば、さっきの黒服のセリフも気になる。『まだ爆発させるな』ってのは、自分たちが乗っている内には爆発させないってことなのか?

 「いたぞ!おいっ!そいつを返せ!なくすと魔王軍に怒られる!」

 4人の黒服が屋根の上へと登ってきており、その中の一人はセガールさんだ。魔物を取り返そうと黒服たちは俺たちを囲い込み、もはや引き車から飛び降りる以外、俺たちに道はない。そんな状況下の中……。

 「動くな!爆弾を起動させるぞ!」

 「!!!!」

 と言ったのは、にじり寄ってくる黒服たち……ではなく、俺の方である。実際のところ、爆弾の爆発力も、爆弾の取り出し方も全く解らないから、これはまさしくブラフである。そんな俺の咄嗟に放った脅しを受け、どよめきの声こそ上がるが、すぐに黒服たちは大笑いを始めた。

 「ははぁ!そいつから爆弾を出させられるのは俺達だけだ!」

 「お前には制御できん!さあ、返せ!」

 ……カマをかけるのにも自信がついてきたんだけど、今回はしくじったな。しかし、ゆっくりと近づいてくる黒服たちの中において、とぼけた口調でセガールさんが声を出した。

 「でもよ。じゃあ、さっきの爆弾、どうやって出したんだ?」

 「……あれはガラムじゃないのか?」

 「違う」

 「あいつの服は真っ黒くないのに、どうやって爆弾を吐き出させた?」

 そうか。全身を黒い服でかためている人を見て、魔物は言う事を聞くか聞かないか判断しているのか。だから、セガールさんの声と姿に反応して爆弾を出したんだ。そして、これから進む橋の近くには船が浮かんでいる。こいつらの目的が読めたぞ!すぐさま、俺は魔物を車の上から近くの森へと投げ捨てた!

 「あっ!こいつ!なんてことを!」

 「これで橋は封鎖できないぞ!観念しろ!」

 黒服たちは爆弾で橋を壊して警備団の到着を遅れさせ、そのすきに船へと降りて霧の中へと逃げる予定だったんだろう。爆弾がなくなった以上は、高い橋から降りて船へと乗り込む時間が稼げない。こうなると、相手も非常に困るはず。黒服の男も声を荒げて怒っている。

 「てめぇ!魔王軍からのお仕置きも避けられん!だが、俺達の作戦に、不備はなし!」

 「……?」

 「なぜなら……もう一体、ここに魔物がいる!」

 「な……なにぃ!?」

 黒い服の男が帽子を取ると、そこには俺が持っていたのと同じ形の魔物が隠されていた。しまった!予備員がいるとは思わなかった!脅しの材料を失った俺は、もう黒服たちへの対抗策がない。とどめをさそうと、黒服たちはナイフを取り出し攻撃の構えをとった。

 「ここでお前たちを亡き者にすれば、他の乗客には爆弾の在りかは解らない。俺たちの作戦にぬかりはない」

 よもや、ここまでか。でも、最後まであがいてやる!俺が黒服たちへと殴り掛かろうとした……次の瞬間、黒服たちは悲痛な声を上げて膝をついた。

 「ぐっ……な……なぜ。誰……だ」

 「少年。ケガはないか?」

 うずくまる黒服たちの中、細くて光る剣を持った背の高い男の人が立っていた。どこから現れたのか、攻撃の太刀筋すらも見えなかった。俺が何か質問を投げようとすると、その人は剣を収めつつ自己紹介を始めた。

 「セントリアル武闘派衆5光強の一人・アマラだ。君の安全を保証する」

 「セントリアルの……?」

 「怪しい男たちが犯罪をほのめかしていると噂に聞き、引き車とは逆のルートを辿り警備にあたっていた。こいつらは、すぐに片付ける。中へと入っていなさい」

 そう言いつつ、アマラさんは黒服たちをテキパキとワイヤーで縛り付ける。その一瞬一瞬、俺に爽やかな笑顔を向けて余裕のアピールをしており、非常に調子がよさそうである。ワイヤーをキレイに巻き付けてくれた後なので、とても言い出しにくいのだが……ただ、これだけは言っておかなければならない。

 「大変、申し訳にくいのですが……」

 「……ほら、こんなにキツく縛ったよ。安心だろう?」

 「いえ……その」

 「……?」

 「その中の一人だけ、俺の仲間です……」

 「……ああ」


                               第55話へ続く


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