第54話の6『爆弾?』
気絶した黒服の男を受け付けカウンターのような場所へと隠し、俺たちは二階の通路の様子を確認する。二階の通路には2人の見張りがおり、やはり二人とも服装は黒服である。敵は腰にナイフを装備していて、素手で戦えば勝ち目はないが……こちらにはピストルがある。
「セガールさん。銃は撃てるんですか?」
「これ?黒服の服の中に隠してあったのだけど、ただの水鉄砲よ?見た目は本物っぽいけどね」
銃はニセモノか。まあ、俺だって銃の訓練なんてしてはいないから、本物だったとしても撃てはしない。それにしても、魔物の気配はどこにあるのだろうか。キメラのツーさんをコンパスのように動かしてみるが、壁の方を向いてしまったりして、いかんせんハッキリとはしない。
せめて下の階にいる黒服の男からペンダントを取り戻せれば、最悪の場合にも選択肢の能力に助けを求められるのだが……と思考をグルグルと巡らせている内、近くの壁からガタンと音が聞こえた。
「……?」
壁には荷物を収納できるボックスが設置されているらしく、戸を開いてみると中にはチケットを売っていたスタッフさんが隠れていた。セガールさんに黒服たちが来ないことを確認してもらいつつ、俺はスタッフさんに声をかけてみる。
「あの……聞きたい事が」
「ぼくは乗務員じゃない。鳥の丸焼きだ。あ……鳥の丸焼きだと食べられてしまう。いや、ぼくは木の置物だ。だから、気にしないで」
相当な怯えっぷりであり、収納棚から出てきそうな様子はない。しかし、今は少しでも助けがほしいところ。こういう時は、引いてダメそうなら押してみる。
「爆弾は、その中に仕掛けられているかもしれませんよ?」
「……ッ!」
スタッフさんは声も上げずに収納棚から飛び出し、がくがくと震えながら俺の肩をつかんだ。
「ばくだん……どこ?どこですかー?」
「もしもの話ですよ……もしも」
そう言った俺の目の前、スタッフさんが入っていた収納ドアの中からは何か、黒くて丸いものが転がり出てきたわけで……俺達3人は冷や汗をかきつつ謎の物体をのぞき見たのだ。
「……」
「お客様……これ、爆弾じゃないんですか?何か言ってくださいよ。ねぇ?さもないと、大声を出しますよ?」
「大声は出さないでください……爆弾ならば、赤と青のコードがあるはずです。それがないってことは、これは爆弾ではないんですよ」
「そ……そうなんですか。安心しましたー」
などと適当な理論でスタッフさんをけむに巻いたが、とにかく謎の黒い物体は放っておくにも危険そうである。スタッフさんをなだめるのはセガールさんに任せて、俺は中腰で黒い物体の観察を始めた。
赤と青のコードはないものの、体中には血管のようなものが浮き出ていて、どことなく生物的ではある。恐らく、これが魔物と考えてもいいだろう。それを持ちあげてみると、大きな一つ目がギョロリと開かれた。
「うわ……」
「……」
魔物は俺をまじまじと見つめていたが、俺の姿を上から下まで見回し、腕についているキメラのツーさんを見た後に目を閉じた。
「……なんだったんだ?」
「ねえ?それ、やっぱり爆弾?」
横からセガールさんが魔物をのぞき込む。すると魔物は驚いたように目を開き、セガールさんの方を見つめた後に何かを口から吐き出した。魔物が吐き出したものは黒くて丸い玉に導火線のようなものがついていて、火花を上げながら床に転がっている。それを見て、動揺していたスタッフさんが更に大混乱している。
「エッッ!お……お客様……それ……爆弾じゃないですか?何か言ってください!大声を出しますよ!?」
「違いますよ。これは……これ……いや」
フォローのしようもないくらい、これは……どう見てもアレですね。俺の迷いを振り切るレベルで、スタッフさんは物体の正体を言い当てた。
「やっぱり!ばっ……ばっ……ばばっば……爆弾だー!」
第54話の7へ続く