第54話の4『……ええ?』
俺たちがいる部屋の前には黒い服の男が見張りとして立っており、他の部屋からも俺たちが聞いたのと同様の脅し文句が聞こえてくる。ペンダントとオーブを奪われた以上、取り返さねば今後の旅に支障が出るのは間違いない。だけど、この車には爆弾を仕掛けているとの事。ここからどうしたものか……。
『マモノ。マモノのケハイ!』
「うわ……お静かに」
急にキメラのツーさんが声を出した為、黒い服の男に気づかれないよう片手で声をふさいだ。その後、こっそりと小さな声で密談を始める。
「……魔物って、あの人たちの中に魔物がいるんですか?」
『チガウ。でも、ちょっと臭いはする』
黒い服の男たちが魔物でないとすると、どこに魔物がいるというのか。そういえば以前にも、仙人の昔馴染みが魔王側へと寝返っていたのを思い出した。つまり、あの人たちは人間だけど、魔王の配下について魔物を従えている可能性は大いにあるし、それが爆弾の仕掛けにも関係しているかもしれない。
「……あの、ちょっといいかしら?」
「どうした」
俺の隣に座っていたセガールさんが控え目に手を上げ、部屋の前に立っている見張りの男へと声をかけた。あちらはセガールさんのことを女の人だと思っているのか、微妙に俺への対応よりも優しげである。
「あたし、お花を摘みに行きたいの。ここから出てもいいかしら?」
「……仕方ない。だが、妙な真似をしてみろ。その時は……お仕置きだ!」
見事に許しが出て、セガールさんはトイレに行ける事となった。扉を開く際、セガールさんが俺に目くばせをしたわけで、これはチャンスを作ってくれたと見て間違いない。ただ、下手をするとお仕置きされてしまいかねないセガールさんのためにも、お仕置きして後悔しかねない黒服の男のためにも、何もない事を祈るばかりである……。
さあ、時間はない。行動しよう。今のうちに部屋の外へ出られないかと、俺は廊下を確認してみた。他にも監視の目があり、廊下へ出るのは無理そうだ。とすると、残るは……。
「……う~ん」
窓は……大きく開くみたいだな。でも、隣の部屋の窓に飛び移ったところで、そこに爆弾や魔物がいるとは考えにくい。車の自転車より少しくらいのスピードだが、ここから飛び降りたら足を骨折する高さである。
「……そうだ。ヤチャ。俺を乗り物の屋根まで投げてくれないか?」
「わかったぁぁ」
屋根に上がれば、魔物の気配が大きい場所の目星が着くかもしれない。その後、屋根から降りられるかは解らないが、まず三角屋根に敵がいるとは考えづらい。行ってみよう。
「頼む。ヤチャ」
「うおおおぉぉぉ!」
いつもよりも控え目な掛け声に合わせ、ヤチャが片腕で俺を投げ飛ばした。屋根へと上がり損ねたら死ぬ。そんな死に物狂いで俺は屋根のフチをつかみ、投げられた勢いに任せて足をかけた。
「危なかった……」
どうにかこうにか屋根へと体を乗せ、30度ほどの角度の屋根の上に立ち上がる。ふと正面を見つめる。
「……ん?」
なぜか……そこには黒服がいる。予想外の敵の出現に、俺と黒服の男は同じセリフを吐き出した。
「「……ええ?」」
第54話の5へ続く