表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/583

第53話の3『かっこ悪い』

 「あれ……?」

 俺はミルクの入った缶を右手に持ったまま、塩の入ったビンを左手で探している。いや、しかし……白っぽい粉の入ったビンが4つもある。どれに塩が入っているのだろうか。ジュースを取りに来たセガールさんを見かけたので、どれがなんなのか聞いてみた。

 「これ……4つもありますけど、どれがしょっぱい味の粉なんですか?」

 「あぁ~、どれだったかしらん。甘いのと、しょっぱいのと、とろみをつける粉と、にがい味の調味料って聞いたけど」

 砂糖と塩と小麦粉と……あと何か解らない苦い粉か。間違えてシチューに入れると問題だし、一つずつ舐めてみる方がいいか。と、そう考えた時、またしてもいらないことを思いついてしまった。

 「一人で何種類も舐めたら味が解らなくなりそうなので、一人一つずつ別の粉をとって舐めてみて、しょっぱいのを探してみませんか?」

 「あら、いいわよ」

 「私も手伝おう」

 ルルルも呼んで、セガールさんとゼロさんと俺の4人で別々の粉のビンを持つ。あわよくば、ゼロさんの少し渋った顔が見られるのではないかと思ったが、無事に俺が苦い粉を引き当てさせていただいた。

 「ごっ……ごはっ……ああああぁぁぁぁぁ!にがいいいいいいいいぃぃぃ!」

 あまりの苦さに悶絶していた俺だが、ゼロさんがジュースをくれたからジュースの甘さで苦みを緩和できた。まだ舌がピリピリこそしているが、ようやく声は出せるようになる。

 「お……おみぐるしいところをおみせしました。しょっぱい粉をください」

 「これだ」

 ゼロさんの舐めたものが塩であり、ルルルの舐めた小麦粉っぽいものも受け取った。きっと、意地悪な事を考えていたから、苦い粉の天罰を喰らったのだ。そう考え、俺は料理に専念すると決めた。

 「いい匂いがするぞおおおぉぉぉぉ」

 そろそろ料理の完成が近いと見て、ヤチャと仙人も焚火の近くにやってきた。具材に火も通っただろうし、もう食べても大丈夫だろう。俺はお椀を手に持ちシチューをつごうとしたのだが……そういや、おたまがない。

 「あ……」

 「テルヤァ……どうしたあぁ?」

 後ろではヤチャが腹を鳴らしている。お椀ごと鍋の中に入れてみるが、うまく具材が取れない。このままではお椀がシチューだらけ。皆さんに手に取ってもらうにもはばかられる。

 「……お兄ちゃん、何してるん?」

 「いや……ほんのちょっとの誤算だよ。うん」

 「……勇者。少し待っていてくれ」

 俺の醜態を見ていられないとばかり、ゼロさんより制止が入った。その後、ゼロさんは木の実を割ったり枝を割ったりしていたのだが、ものの一分くらいして何かをくれた。

 「不細工だが、これを……」

 それは割った木の実と枝でこしらえた、おたまのようなものである。それを使用すると、無残にも零れ落ちていたシチューは無事にお椀へとレスキューされた。今日はゼロさんの弱い部分を見たかったはずが、むしろ俺ばかり失敗を繰り返している……そんな恥ずかしい気持ちを含め、感謝の気持ちを言葉にする。

 「ゼロさん。ありがとうございました……」

 「気にしなくていいが……いや」

 「……?」

 「しょうがないなぁ……勇者は」

 わざわざ言い直されたが……そっちが本音なんだろうか。まあ……それはそれで、今まで見た事がないリアクションで……。


                                   第54話へ続く


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ