第53話の3『かっこ悪い』
「あれ……?」
俺はミルクの入った缶を右手に持ったまま、塩の入ったビンを左手で探している。いや、しかし……白っぽい粉の入ったビンが4つもある。どれに塩が入っているのだろうか。ジュースを取りに来たセガールさんを見かけたので、どれがなんなのか聞いてみた。
「これ……4つもありますけど、どれがしょっぱい味の粉なんですか?」
「あぁ~、どれだったかしらん。甘いのと、しょっぱいのと、とろみをつける粉と、にがい味の調味料って聞いたけど」
砂糖と塩と小麦粉と……あと何か解らない苦い粉か。間違えてシチューに入れると問題だし、一つずつ舐めてみる方がいいか。と、そう考えた時、またしてもいらないことを思いついてしまった。
「一人で何種類も舐めたら味が解らなくなりそうなので、一人一つずつ別の粉をとって舐めてみて、しょっぱいのを探してみませんか?」
「あら、いいわよ」
「私も手伝おう」
ルルルも呼んで、セガールさんとゼロさんと俺の4人で別々の粉のビンを持つ。あわよくば、ゼロさんの少し渋った顔が見られるのではないかと思ったが、無事に俺が苦い粉を引き当てさせていただいた。
「ごっ……ごはっ……ああああぁぁぁぁぁ!にがいいいいいいいいぃぃぃ!」
あまりの苦さに悶絶していた俺だが、ゼロさんがジュースをくれたからジュースの甘さで苦みを緩和できた。まだ舌がピリピリこそしているが、ようやく声は出せるようになる。
「お……おみぐるしいところをおみせしました。しょっぱい粉をください」
「これだ」
ゼロさんの舐めたものが塩であり、ルルルの舐めた小麦粉っぽいものも受け取った。きっと、意地悪な事を考えていたから、苦い粉の天罰を喰らったのだ。そう考え、俺は料理に専念すると決めた。
「いい匂いがするぞおおおぉぉぉぉ」
そろそろ料理の完成が近いと見て、ヤチャと仙人も焚火の近くにやってきた。具材に火も通っただろうし、もう食べても大丈夫だろう。俺はお椀を手に持ちシチューをつごうとしたのだが……そういや、おたまがない。
「あ……」
「テルヤァ……どうしたあぁ?」
後ろではヤチャが腹を鳴らしている。お椀ごと鍋の中に入れてみるが、うまく具材が取れない。このままではお椀がシチューだらけ。皆さんに手に取ってもらうにもはばかられる。
「……お兄ちゃん、何してるん?」
「いや……ほんのちょっとの誤算だよ。うん」
「……勇者。少し待っていてくれ」
俺の醜態を見ていられないとばかり、ゼロさんより制止が入った。その後、ゼロさんは木の実を割ったり枝を割ったりしていたのだが、ものの一分くらいして何かをくれた。
「不細工だが、これを……」
それは割った木の実と枝でこしらえた、おたまのようなものである。それを使用すると、無残にも零れ落ちていたシチューは無事にお椀へとレスキューされた。今日はゼロさんの弱い部分を見たかったはずが、むしろ俺ばかり失敗を繰り返している……そんな恥ずかしい気持ちを含め、感謝の気持ちを言葉にする。
「ゼロさん。ありがとうございました……」
「気にしなくていいが……いや」
「……?」
「しょうがないなぁ……勇者は」
わざわざ言い直されたが……そっちが本音なんだろうか。まあ……それはそれで、今まで見た事がないリアクションで……。
第54話へ続く






