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第53話の2『かわいい』

 ゼロさんは以前、『料理は大して作れない』と自分で言っていたが、鍋という器具が解らないレベルだとは予想していなかった。うってかわって食材については詳しいようだが……今まで、どうやって旅をしていたのか気になる。聞いてみよう。

 「旅の途中、食事はどうしていたんですか?」

 「大抵、串にさして焼けば問題なかった」

 「それは間違いないですが……」

 すると、炒めるとか煮るとか、そういったことに関しては疎いと考えていいだろう。ちなみに……じゃあ、どうやってお湯を沸かしていたのだろうか。

 「今まで、どうやってお湯を沸かしてたんですか?」

 「鉄瓶というものがある。便利だ」

 この世界、やかんみたいなものはあるのか。しかし、鍋を知らないゼロさんは何故だか可愛らしく感じる。なんだろう。この気持ちは。いかん。とりあえず、作業を進めねば。

 「食材を焼くので、そのフタがついている筒状の入れ物を温めてもらえますか?」

 「了解した」

 鍋を火に直接かけるとススだらけになる予感はしたが、どうも鍋は薄水色をしていて素材は鉄ではないと見られ、その耐久性たるや未知数である。ゼロさんは鍋を知らなかった人だから、どうやって鍋を火に置くかなど詳しく説明した方がいいかと危惧したものの、俺が何か言わずとも事前に焚火から火をもらって小さな焚火を別に作り、鉄網のついた台を使ってそつなく鍋を火にかけていた。

 俺が知っている典型的なヒロインといえば、鍋に食材を入れて爆発させたり、かたや何も入っていない鍋の中をかき混ぜてみたり、料理が上手にできても膨大な量を作ったり、どこかでへまを見せてくる人が多いのだが、ゼロさんは鍋が解らなかったことを除けば特に問題のない人である。

 「俺が食材を細かくしたので、これを鍋で焼きます」

 「そうか」

 調味料の群から油っぽいものを探し出し、それを流し入れてから俺はキノコやら野草やらを鍋に投げ込む。穀物系の野菜を多く入れておけば、ご飯がなくても満足感は出るだろう。

 「勇者。何かすることはないだろうか」

 「えっと……いえ。今は特にありませんが」

 何か解らない棒で俺が鍋の中をかき混ぜていると、ゼロさんは鍋の中を不思議そうに見つめながら仕事がないかと尋ねた。このまま具材を炒めたら、水とミルクを入れて煮込んで、あとは味付けすれば夕食の完成だ。特に何もない。

 手伝ってもらうことは至って無い……のだけど、ふと俺は『ゼロさんが何か失敗しているところが見たい』、という衝動にかられてしまった。そんな人を試すようなことはいけないことなのだろうが、こうしてゼロさんが不得手な事をしている状況じゃなければ、オロオロする姿は見られないかもしれない。

 「では、鍋に入れる水を持ってきてもらえますか?重ければ手伝いますが……」

 「ああ、問題ない」

 水は調理台の横に置いてあるバケツに用意してあるのだが、さっき見たら僅かにバケツの上の方が裂けていて、持ち上げたらこぼれそうな様子であった。ちょっとでも慌てる姿が見られるかと期待したのだが、ゼロさんはバケツの裂けている部分を手で塞ぎ、こぼすことなく持ってきてくれた。

 「これを入れればいいのか?」

 「そうですね。お願いします……」

 痛め終わった具材たちが、流し込まれた水の中でコロコロと転がっている。う~ん。料理は順調だ。そう思いつつミルクを取りに行くべくして立ち上がると、セガールさんと一緒に遊びに行ったルルルがやってきた。

 「見てみて。あたち、美人?」

 そう言って見せたルルルの顔といえば、元から長いまつげが更に二倍くらい盛ってあって、頬もリンゴのように赤く色づいていた。幼い見た目に過剰なメイクが似合っていなさ過ぎるので、それについても感想は一言で済んだ。

 「ルルル。気持ち悪いぞ」

 「気持ち悪いってなんなんよ!ひどい!お兄ちゃん、きらい!」

 などと言い残しつつも、ルルルは楽しげな様子でヤチャにも顔を見せに行った。過剰にメイクされて遊ばれてしまうポンコツっぷりを見るに、ルルルのヒロイン力は実は意外と高いのかもしれない。なんというか、そういうダメそうな部分がヒロインらしさの正体と言えるやもしれん。そう。それこそが、俺の中に芽生えた可愛いという感情の正体と思われた。


                                     

                               第53話の3へ続く

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