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第53話の1『調達』

 「あだたが、本物の勇者だったのね。とても、そうは見えない」

 本当のことを話したら殺されかねないと黙っていたのだが、仲間と合流した今となれば心配はないだろうと考え、俺はニセ勇者に自分の素性を明かした。なのだが、やっぱり俺に勇者の称号は似合わないらしい。

 「でも、あだたが勇者なのなら、この王様からもらった報酬も幾らかお返しするわ。森で助けてもらった恩もあるからね。でも、ここまで持ってきた配送料として、あちしが3割はいただいてよろしい?」

 「あ……ありがとうございます。いえ、悪いので5割でもいいですよ?」

 「ん。オッケー」

 多分、俺が勇者と名乗っても見た目が弱そうだから、王様からお金をもらうに至らなかったであろう。7割も貰うとバチがあたりそうな為、折半で了承をいただいた。まとまったお金こそ手に入ったが、俺たちは森の入り口でキャンプをしており、お金を使えそうなお店は近くに見当たらない。

 とりあえず、いただいた援助金を荷物の少なそうな仙人へと預ける。さっき森の番人に聞いてみたのだが、ここから街までは歩いて半日近くかかるらしく、街と森を朝一番に往復する乗り物が出ているらしい。森を抜けたばかりの今から出発する気も出ない故、今日は森の番人から借りたテントで夜を越そうと考えている。

 テントは仙人が張ってくれており、寝る時に使う毛布も俺が借りてきた。焚火はヤチャが不思議な力で起こしてくれているし、あとは……夕食だ!森番の小屋に何かないか聞いてみる。

 「モーリーさん。食べ物とか売ってもらえないですか?」

 「そんなら、森の近くを歩いてみいや。結構、いろいろ落ちちょるぞ?それで足りんもんがありゃ、また言っとくれ」

 そう言って、モーリーさんはバスケットを貸してくれた。言い出しっぺなので俺は食べ物を探しに行くとして、一人では全員分の食料を運ぶのに苦労するだろう。あと2人くらい来てほしいところである。

 「誰か、一緒に食料探しに行きませんか?」

 「食べられる野草は知っている。私が行こう」

 まず、ゼロさんが立候補してくれた。確か……に俺だけでは食べられるものと食べられないもののの区別がつかない。あとはヤチャが焚火をつけ終えたら来てくれるだろうとふんでいたのだが、意外にもルルルが一緒に行くと言い出した。

 「あたち、行く」

 「なんで?」

 「なんでってなんなんよ……」

 いつもは決まって『行かない』と言う子だからして、なぜかと質問を投げかけたのだが教えてくれなかった。大方、森の入り口で俺たちを置いていったのが後ろめたかったのだと思われる。ヤチャは火を起こしてくれた拍子に大爆発を起こしており、それの後始末の為にキャンプに残ることとなった。

 「あちし、ちょっとやることあるのよねー。モーリーさんから飲み物を買っておくから、あちしの分も食料を頼めるかしら?」

 「いいですよ」

 近くに川は見えるが、ちゃんとした飲み物があれば助かる。ニセ勇者の分も夕食の材料を承り、俺とゼロさんとルルルで森の入り口付近を散策し始めた。全員分+ニセ勇者の食料調達まで安請け合いしてしまったが、そんなにポンポン落ちてるもんだろうか。そう心配したものの、俺が予想した以上にはポンポン色々と落ちていた。

 「……これ、食べれます?」

 リンゴに似た赤くて丸い実が落ちており、それを拾ってゼロさんに見てもらう。

 「毒はないが……非常に硬いぞ」

 試しにかじってみたが、歯型の一つもつかない。中まで鉄が詰まってるみたいに硬い。でも、まあ煮込んだら柔らかくなるかもしれないし拾っておこう。あっ、キノコだ。

 「紫色をしてますが、これは毒キノコですか?」

 「それは食べられる」

 「お兄ちゃん。これも食べれるやつ」

 ゼロさんとルルルが次々と拾った物をカゴへと入れていき、それを俺は見ているだけである。何か役に立ちたいな……そうだ。森の中で拾った長イモがある。

 「これ、使えないですか?」

 「それは焼くと爆発する」

 そうゼロさんに忠告された為、俺は爆発物を森の中へと投げ捨てた。一時間もせずにカゴ2つ分の食料が手に入り、それを持ってキャンプへと戻った。ヤチャは無事に火を起こせたらしく、しゃがみこんで焚火に当たっている。半裸で巨体の人が静かに焚火で温まっている姿は、なんというか絶妙にシュールである。仙人はテントを張って疲れたのか、一足先にテントの中で休憩している。

 「おかえりなさい。勇者様!」

 ニセ勇者の声がして、そちらへ視線を移す。しかし、そこには少し背の高い見知らぬ女の人がいて、俺の持っているバスケットを自然な動作で預かってくれた。誰?

 「あっ。解んなかった?あちしよ。あちし」

 「……ああ、ニセ勇者さんですか」

 「本名はセガール。ガールって呼んで。明日になったら街の人が来るでしょ?そしたら、勇者の姿じゃマズイじゃなぁい?」

 そうか。明日の朝には乗り物が来るから、街の人に勇者の姿で見つかると面倒なんだな。しかし……その姿、やや大柄ながらも、女の人にしか見えない。メイク次第で、こんなに変わるものなのかと感心してしまう。そんなガールさんは飲み物の他、調味料も持ってきてくれたらしい。

 「飲み物と、調味料はもらっておいたわ。料理は……」

 「俺、料理やります」

 採取の工程で役に立たなかった分、ここくらいは恰好をつけたい。そう考え、俺は料理について引き受ける旨を伝えた。

 「得意なのね。任せたわ。ん~……夕食まで時間がありそうだし、あだたたちがよければ、メイクしてあげようかしら?」

 「私はいい……」

 「じゃあ、あたちやる」

 まだ日は落ち切っていないし、俺一人でも夕食までに作り終わる手はずである。ルルルとガールさんが遊びに行ったのを見送った後、俺は集まった食材と調味料を眺めた。牛乳に似たものがあるし、シチューのようなものなら作れるかもしれない。早速、食材を切るなり千切るなりし始めたところ、ふらふらとゼロさんが俺の隣に立った。

 「何かやることはないか?」

 「そうですね……」

 実のところ、そんなに急がずとも終わる作業なのだが……せっかくの気持ちを無下にするのも悪い。じゃあ、料理の準備を手伝ってもらおう。

 「鍋でお湯を沸かしてもらえますか?」

 「ナベ?」

 「……?」

 「……?」

 あ……。


                                 第53話の2へ続く

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