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第51話の4『送迎』


 眠れない……。


 寝室には貝殻の形をしたベッドが二つあって、一つにはヤチャが大いびきを立てながら寝ている。いびきが聞こえるせいで寝付けないのもあるにはあるのだろうが、それ以上に胸がドキドキして眠れない。まさか、知らない内に女の子2人からキスされているとは思わなんだ。


 恋愛アドベンチャーゲームでキスシーンといえば、エンディング前の盛り上がり最高潮で描かれたり、告白の末に描写される流れが定石であろう。それも、主人公がリードしてあげてヒロインとの信頼関係を明確にする重要なシーンだと思われる。


 「……」


 でも、ここって……絶対に恋愛アドベンチャーゲームの世界じゃないし、かといってラブコメって空気でもない。バトル系の漫画だと、恋愛要素って淡泊だったりするのか?まあ、読者や視聴者の子供たちだって、恋愛模様より必殺技の応酬が見たいのは間違いない。


 「ギザギザ、明日、脅した村に謝りに行くぜ」

 「お詫びの品として、国宝である金の黒真珠を差し出すのはどうだろう」

 「王子……国宝の意味をお考え下さい」


 廊下の方でギザギザさん、王子様、ルッカさんの声がする。そろそろ外もお祭りムードが終わり、国の人々も撤収したのかもしれない。


 「ホッヒョッヒョ!」

 「昆布巻き、美味しかったんよねー」


 ギザギザさんたちが通り過ぎていって、今度は仙人とルルルの声が小さく聞こえてきた。昆布巻きとかあったのか……明日、まだ残ってたら食べたい。などと色々な人たちの呑気な会話を聞いている内、なんだか考え事も捗らなくなってしまった。もういいや。気持ちを改めて目を閉じたら、知らない内に眠ってしまっていた。


 次の日、クジラ丸さんに乗せてもらいカイガンの村まで送ってもらうこととなった。なお、食料として缶詰をもらったが、開けたら悪臭がもれだすのではないかと不安で開けられない。


 「ルルル……缶詰、いる?」

 「……まあ、好きなものを奪い取っちゃダメですよ。守ってあげないと。キリッ」

 「ルルル……やめなさい」

 「オーブをとった時の決め台詞は言わないのん?」

 「あの……ほんと、やめて?」


 クジラ丸さんに乗り込んでの移動中、やけにルルルが煽ってくる……が、その隣でロープを長々と引っ張っているギザギザ海賊団も気になってしまう……。


 「皆さん、何をしてるんですか?」

 「勇者、気にするな!ギザギザたちのこと!」


 その後、クジラ丸さんは村の埠頭へと到着。クジラ丸さんの姿が黄金に輝いているため、怪しんだ村人たちが自然と集まってきた。ギザギザさんたちは俺たちと一緒にクジラ丸さんから降りると、体中をロープ巻きにしたままゴロンと倒れ、非常に怪しい演技力で声を荒げ始めたのだ。


 「あー!ギザギザたち、勇者に懲らしめられた!反省しているー!海の化け物も勇者にやられてもういないー!」


 「おぉ、勇者よ!よくぞやってくれた!これで村は救われた!村長の私が代表して感謝いたし申す!」


 「わあ。よかったですね」


 村の人たちとギザギザさんたちは和解し、俺たちは村を救ったこととなった。その人たちは置いておくとして、村の出口まで王子様とルッカさんが見送りに来てくれた。


 「勇者よ。次は、どこへ行くんだい?」

 「……えっと、どこに行きます?」


 王子様に尋ねられ、そういえば行き先すら決まっていないのに気がついた。ゼロさんに聞いてみたところ、辺りの地形をながめながら答えをくれた。


 「セントリアルの街が近い。なお、レジスタの本部がある街だ」


 「セントリアルでしたら、空を覆う形で作られた闘技場イキョーが見所でございます。私も一度、拝見いたしました」


 と言うルッカさんは他の魚の人たちよりも足がしっかりしている為、内陸の地へも足を運んだ事があるらしい。にしても……闘技場か。見学する分にはいいが、参加はしたくない。そんな観光情報に続けて、王子様が別れの言葉をくれる。


 「海辺で大きく口笛を吹いてくれれば、僕たちも急いで駆けつけよう。王子権限で、クジラ丸を出動させるぞ」


 「ありがとうございます。姫様や、エビゾーさんにもよろしくお伝えください」


 「妹も来たいと言ったのだけど、人間に食べられると心配されて止められたからね」


 そういう事らしい。村人に襲われない……可能性もなくはないから、それが賢明かもしれない。行き先も決まったところで、俺は村から山の方角へと視線を向けた。どことなく、緑に活気が戻っているようにも感じられる。そこから左の方へと顔を動かすと……なんだか、やけに黒みがかった森が発見され、俺は思わず後ずさってしまった。


 「なんだ……あの森」


 「あちらは、彷徨いの森と呼ばれております。なんでも、入った者は二度と出られないとか……しかし、私どもも応援しております」


 ルッカさんからイヤな情報が発進され、すぐに俺は別の方法を模索する。


 「避けて通れないものですか?」


 「一帯は高い山に囲まれており、海には超える事の出来ない無の領域がございます。迂回するのは難しいでしょう」


 「勇者ならば問題ないだろう!さらばだ!」


 送り出す二人の声は非常に頼もしいが、先行きは怪しいようである……気乗りしないが、俺たちは森へと歩き出した。

                                      

 第52話へ続く

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