第51話の3『宴』
「王子。よろしいのですか?」
「そうする他ないのだから、あれで良い。父上母上にも、僕が説明しよう」
ジ・ブーンさんを見逃した件について後悔はないと言い切る王子様だが、ルッカさんは取り決めの一つでもしたかった様子である。しかし、ジ・ブーンさんがいなくなった今、ルッカさんとしては別のことが聞きたくなってきたらしい。
「……王子様。どうして生きておられるのですか?」
「逆に聞こう。どうして、僕が死ぬと思ったのかな?僕だぞ?」
「……この度の事件は我々としても多大なる心労を伴いました為、ギザギザと王子様には謝罪を要求いたします。さぁ、姫様も、こちらへ」
「なっ……全員無事だったのに!どうして僕が!」
「そうそう!ギザギザたち、生きて戻った!ほめられる方が自然!」
ルッカさんが二人に謝罪を要求していて、それに姫様も同意の頷きを見せている。ただ、ギザギザさんに関しては他に謝る人がいる訳で……と考えていたら、やっぱりルッカさんも憶えていた……。
「ギザギザに至っては、村の人々を脅迫した件を解消するまで、入国する権利はないと私は考えております」
「脅迫じゃない!ギザギザ、食べ物がないと皆、死ぬって言っただけ!」
「魚を出さないと村は血祭り、とか言ってなかったですか?」
「勇者!余計なこと言うな!あれ、お前をおどすために言っただけ!」
「勇者様。お仲間の皆様。急ぎの旅ではないようでありましたら、王国にてお休みいただければ幸いです。どうぞ、おもてなしをさせてください」
と……そんなルッカさんの言葉に甘えて、今日は王国に宿泊させてもらうこととなった。クジラ丸さんに乗り込んで海の王国へと向かう途中、ジ・ブーンと戦った王城の姿を薄暗くも見る事ができたのだが、それは既に上側3分の2ほどが爆発により吹き飛んでいて、元の形が全く把握できなかった。
まあ、王城に壁に穴を開けたところまでは俺が原因のため、ここまでやってくれると罪悪感は減る気がする……なんて考えを巡らせていた矢先、王子様に後ろから声をかけられて少々ビビった。
「君を送り出した後、ものすごい輝きと共に城が爆発したんだ」
「お……俺が青のオーブをとったからですかね……」
「城の上側がなくなった分、解体して元の場所へ運ぶ手間が省けたね」
「お言葉ですが、王子。破壊された分、修繕の手間が増えました件、いかがお思いですか?」
「前よりもオシャレに作る努力をしたいね」
城を壊されたからと言って、王子様もルッカさんも怒ってはいないようである。ジ・ブーンと戦う前に王子様を発見していなければ、色々と結果は変わったかもしれないし……いや、なんだかんだで変わらなかったかもしれない。
その後もクジラ丸さんは潜水を続け、半日もかからず王国へと戻ることができた。人間にも食べられそうな食事を用意してもらったり、王様から直々に感謝の言葉をもらったりもした。ただ、国民としては王子様の生還やギザギザさんの帰還の方が興味は大きく、その大騒ぎな様子を俺たちは遠目に見ている形となった。
「……寝に行こうかな。すみません。俺は先に失礼しますね」
「そうか。一緒に行こう」
海の中のカーニバルを見る機会なんて二度とないかもしれないが、その興味を打ち消すほど精神的に疲れていた。能力を酷使したせいもあるかもしれない。先に休む旨をゼロさんに告げるも、あまりに水中での動きが不自由な為に手をとってもらい、結局は2人で一緒にホッキ貝会の中へと入った。
確か、寝室は前と同じ場所に用意してくれていたはず。そうして探索ながらに廊下を進んでいる内、ふと聞き覚えのある声を背後に聞いた。
「……勇者様!おお……お待ちください」
俺たちが振り返ると、そこには派手なドレスを着た姫様が一人でいて、なんとなく居心地悪そうに俺とゼロさんの顔をのぞき見ていた。この感じは……感謝されるのか、はたまた怒られるのか予想もつかず、微妙に俺も緊張しながら相手の出方を待った。
「ここ……今回の件、王子様を、ギザギザさんを助けてくれて、あぎ……ありがとうございました。『ジ・ブーンじわじわ懲らしめ大作戦」も、お見事でございました!」
「いえ……むしろ、助けてもらったのは俺の方です……」
とりあえず、物騒な話でないことが解ったのと、俺達がジ・ブーンを倒した戦いに作戦名があったことを初めて知った。多分、その作戦名はルッカさんが考えたものだと思われる。
「あと……すみません。勝手に魔法を使ってしまって」
「……え?」
姫様の魔法というと……俺が水中でも呼吸できるようになった魔法のことだろう。それに関していえば感謝こそすれど、姫様に頭を下げてもらうには至らないと思われる。
「……申し訳ございません」
ただ、謝った後の姫様といえば、俺……というよりはゼロさんの顔色をうかがっていて、自分のクチビルを両手で隠したままモジモジしているのだ。俺は魔法を使ってもらった場面で気絶していたから知らなかったが、これは……つまり、そういうことなのかもしれない。口にまつわる魔法だし、その線が有力と見ていい。
「私は構わない。私や勇者を助けてくれたこと、感謝している……」
「……えっと……はい。失礼します!」
それだけゼロさんから聞くと、姫様はペコペコと頭を下げながら退却していった。その後、俺たちは何も話さずに寝室へと向かっていたのだが、今度はゼロさんの機嫌が気になってしまい、俺の方から話題を絞り出した。
「……姫様の魔法って……口移しで使うんですね。知らなくてすみません」
「構わない。勇者が謝る必要はない」
「……」
怒っている様子ではないが、そもそもゼロさんは感情の表現と起伏がないから解らない……。
「救難とはいえ、先に口をつけた……こちらこそ、すまないとは思っている」
「……?」
そう言って、今度はゼロさんに謝られた。ゼロさんに水中から助けてもらった場面、それを記憶の中から探り出してみる。確かに……そんな場面はあった気がする、そのシーンを想像してみたら、今度は俺が恥ずかしくてゼロさんの方を見れなくなってしまった……。
第51話の4へ続く