上
きっと、花が一気に二つ咲くことなんてない。
もし、同じくらいに咲くとしたら、きっと、それは、片手の指を折る数よりも遥かに、少ない数だろう。
奇跡である。
しかし、それでも、私達は、願ってしまうのだ。
二つの花を一気に咲かせたいと思うことを。
16歳。
高校を入学したばかりの私、友梨である。
私には、10年間、好きな人がいた。
幼馴染で、小さい頃から、お互いの家に行き来することは、当たり前のようだった。
「悠真!」
「何?」
「今から、そっちに行ってもいい?」
「あー」
家がしかも隣であり、窓のところから彼が手を伸ばしてくれ、そこから行く。
そんな近いようで、遠い彼なのだ。
私は、そんな彼に、密かに想いを抱いていた。
しかし、彼には…
彼女がいたのだ。
それを知ったのは、高校1年生の16歳の夏である。
「ねえ、悠真!」
「うん?」
「今年の夏も一緒に行くよね?花火大会!」
まだ、その時の私は、知らなかった。
掲示板に貼られたチラシを見て、聞いたのだ。
正直、期待していた。
しかし、
「ごめん!その日は…」
「え?」
驚いた顔をしている私。
「ごめん!」
「…」
気まずい空気が流れる。
彼は、下を俯いている。
その中でも、暫くして、口を開いた。
「そっか…」
そう言うと、
「うん…ごめん…」
下を俯いたまま、申し訳ないというような気まずさが消えない。
それでも、私は、その場で、
「そんなに、暗い顔、しないでよ」
明るく振る舞った。
「うん…」
彼の俯いていた顔が少し上がる。
正直、期待していたから、私は、ショックは受けていた。
でも、仕方がない….
そう割り切って、
「じゃあ、杏奈と悠香と行こう!」
再び、彼は、下を俯く。
「だから、そんな顔しないでよ!」
微笑んで見せた。
そして、その日は、来た。
杏奈と悠香と3人でお祭りへ。
「そう言えば、悠真は?」
「なんか、聞いたら来れないって」
「そうなんだ…」
ふわふわと真っ白の新鮮そうな見た目がさらさらのかき氷。鼻に匂いがつくかりかりと唐揚げ。優しそうなお姉さんがやっている、落書きせんべい。
全ての屋台を回りそうな勢いのある、全屋台をクリアしそうなくらい、回った。
とにかく、あっちこっちと動く。
「友梨、あれやろう!」
「うん、やろう」
悠香に引っ張られ、
「ちょっと、待ってよ!」
杏奈が付いてくる。
3人で笑い、微笑み、楽しんでいた。
突然、
「たまには、いいね!3人も」
悠香がそう言う。
「そうだね」
杏奈が続けて口を開いた。
「うん!」
そして、私。
3人で、ワイワイと話しながら歩いていた時である。
右手には、りんご飴を持っていた。
私の目には、その短い整った髪の後ろ姿が入った。
ちょうど、意識的ではないのに、一瞬だけ、真正面を見た時だった。
悠真…?
着てたんだ…
そんなことを私は思っていた時である。
「あれ、悠真じゃない?」
その姿に気が付いた杏奈。
「あっ!本当だ」
悠香が続けて言う。
「悠真!」
杏奈が彼を呼ぶ。
しかし、彼の耳に入っていないようだ。
「友梨!あれ、悠真だよね?」
その杏奈の発したことに対して、耳を傾け、
「ちょっと、行ってくる!」
そう2人に言い、私は、彼に少しずつ近づいていく。
「悠真!悠真!」
私は、呼び続けた。
その時だった。
彼の目と合った気がした。
「悠真、来てたの…?」
まだ、言いかけている途中、目を見開いた。
「悠真くん!」
女の人の声。
え?
彼と目が合ったと思ったが、彼の目には、私ではない女の人が彼の視界には、入っていたのだ。
「買えた?」
「うん!」
「持つよ」
そんな会話が聞こえた。
……
咄嗟に私は、隠れた。
「ありがとう、悠真くん」
「うん」
微笑んでいる二人。
女の人は、右手に綿飴を持っている。
え?
「悠真…?」
ドンと一気に何かで私の心が落ちてきた岩で、潰れたような重い感覚。
う…
私は、右手に持っていたりんご飴を地に落としてしまった。
そして、そんな隙に、二人は、行ってしまった。
え?
誰だろう…?
友達かな?
それとも…
私は、翌日、聞いてみることにした。
あっ!
地に落ちたりんご飴を見て、モヤモヤとした。
翌日。
目覚まし時計がビリビリと鳴っても布団の中。
下から、
「友梨!起きなさい!遅刻するわよ!」
「うーん….」
いつまでも鳴り続ける、目覚まし時計を止め、再び、布団に潜った。
すると、
「早く、起きなさい!友梨!遅刻しても知らないからね!」
「…」
結局、いつも通りに、布団を剥がされ、丸くうずくまる私。
「友梨!」
母の大きい声でやっと、私は、布団の上で、目を開く。
そして、上半身だけを起こした。
「早く、起きなさい!」
「うーん….」
ベットから、足を地につかせ、支度をゆっくりとし始める。
髪を整え、制服に着替え…
「行ってきます….」
「友梨!パン、加えて行きなさい!」
言われた通り、苺のジャムの塗られた食パンを加え、自転車に跨り、家を出た。
いつも通りに、自転車を漕ぎながら、登校していると、
「おはよう、友梨」
「おはよう….」
微笑む彼。
同時に学校に着き、いつも通り、教室まで行く。
すると、
「おはよう、悠真くん」
「おはよう」
彼女は、かわいいらしく、私とは違って、お淑やかである。
女の子ぽっい。
黒髪で、髪は短く、つやつやとしていそうな見た目の髪。
顔立ちも整っている。
美人とは、言い難いが。
声も優しい。
私にも、彼女は、お辞儀をして、
「悠真くん、また、お昼に」
そう言い、微笑みながら、彼を振り、行ってしまった。
それを見て、咄嗟に私の口は動いた。
「悠真!」
「あー?」
「あの子とお祭りにいた?」
それに対して、
げほげほ
咳き込む。
「汚い」
「…」
「もしかしてだけど….」
私が言うよりも前に、
「まだ、言ってなかったけど…」
「…」
「俺、あの子と付き合ってるんだ….」
「えーーーーーー!」
思わず、大声で叫ぶように発する。
それに対して、彼は、
「おっ!お前、声大きい!」
シーッというように、私の口元に、人差し指を立てる。
「あっ…ごめん….」
彼は、止めていた足を、動かし、再び、廊下を歩き出した。
そして、私達の間に、冷たくて、気まずい空気へと変わった。
私の心の中に、ぽかんと穴が空いた気がした。
彼女ってことだよね?
え?
いつからだろう…
え?いつの間に…
……
それ以上、言葉は出なかった。言葉を失っていたのだ。
知ってしまった私。
突然、崖から、海へと、突き落とされた気分であった。
そして、それを知ってから、彼といることは、少なくなった。
なんか、気まずいし…
気を使うことしか、私には、出来ないから。
この想いは、どうしたら良いのだろう…
今にも崩れそう心である。
なんか…
彼と彼女が一緒にいるところに、会う度に、心臓が苦しくなった。
キューって!
彼女と笑う彼の姿を目撃した時、彼が余計に無駄に、きらきらとして見えた。
それから、17歳になってしまった。
彼と彼女の恋愛は続いていた。
私は、苦しくて苦しくて仕方がなく…
なかなか、うまく、立ち直れずにいた。
そんなある日。
「友梨、大丈夫?」
「え?」
「なんか、最近、元気なくない?」
「え?そう?」
「私もそう思う」
杏奈も言う。
私は、何度も否定した。
しかし、漸くして、彼女達もその理由を知った。
そのせいか、突然、
「友梨!」
「何?」
「お節介かもしれないけど、新しい恋、したら?」
悠香が言う。
「え?」
突然、それを、提案された。
「じゃあさ、合コンしようよ」
張り切った杏奈が出てきた。
「そうしてみようか」
「え?ちょっと、待ってよ!」
私の動揺している姿に、悠香は、私の肩を優しく叩き、
「しよう!」
「うんうん」
杏奈も頷き…
結局…
二人に引っ張られながら、無理矢理、連れていかれ、それは、行われた。
私の今までの10年の恋は…
そんなもんなのだろうか…
複雑な心境を抱えながら。
私達は、そのレストランに集まり、相手側を待っていた。
まだ、相手側が来る前である。
「やっぱりさ….」
席を私が立ち上がろうとすると、
「ダメ!帰っちゃダメ!」
止められ、遂に
カラン、カラン
店のベルの音は鳴り、来てしまった。
「こっちです!」
杏奈。
呼び寄せ、相手側も席に着く。
そして、始まってしまった。
「まず、自己紹介から」
「俺からするよ」
「高橋ゆうです、△△高校です、趣味は、サッカー、よろしく」
「田口剛志です、△△高校で、趣味は…」
男性陣から順に自己紹介が始まり、優衣、杏奈、悠香…そして…
遂に私の順番は、来てしまい、ガタガタである。
「私は…葉山友梨です…〇〇高校…趣味は….」
ガタガタの私。
自己紹介は、終了し、自由になる。
それぞれに楽しそうだ。
私は、とにかく、一人で、食べていた。
すると、
「ねえ」
「友梨さんだっけ?」
「…はい…」
「今、付き合っている人、いるの?」
「あ….いいえ…」
彼は、私に声をかけ続けて来た。
そして、
「二次会、行くぞ!」
みんな、楽しそうだ。
そんな中、
「私は、帰ります….」
「え?帰るの?友梨…」
「うん….」
「わかった…じゃあ…気を付けてね」
それに続けて、
「じゃあ、俺も帰ろう、じゃあ」
「おーう」
私は、あっさりと別れ、暫く歩いていた。
すると、
「ねえ!」
その声に振り返る。
「二人で、話そうよ、もっと、君と話したいと思って」
「え?」
「時間ない?」
「…いいえ…」
「じゃあ、少しだけでいいから、いいよね?」
別にこの後何もないし…
「…うん…」
最初は、全然、会話が弾まず、彼からの一方的だった。
しかし、ある話題を話し始めているうちだった。
あまり、弾まなかった会話が、何故か、だんだんと彼に心を許していき、気が付いたら、会話は自然と弾んでいった。
そんな楽しく話していると、突然、
「ライン、交換しない?」
「え?」
「嫌だ?」
「別に良いけど….」
「やった!」
彼は、持っていたスマホを開き、準備をした。
そして、彼とラインを交換し、
「送るよ!」
「え?」
「いいから」
「…」
結局、家まで送ってくれた。
家の前まで来て、
「じゃあ」
直ぐに、振り返ってしまい、歩き出して行く。
「…あり….」
御礼を言う間も無く、彼は、行ってしまった。
それから、夕食を済ませ、お風呂から上がり、ベッドにごろんとした。
そこに、
トゥントゥンと鳴るスマホの音。
その音に反応して、スマホを手に取る。
ラインアプリに、①と付いていた。
ラインをクリックして、メッセージ欄を開いた。
すると、そこには、
"そう言えば、先ほどは、ちゃんと、名前、言ってなかったなと思って…
"僕は、高木俊です"
"今日、友梨さんとお話できて、楽しかったので、また、良かったら、ぜひ、お会いしたいです"
"友梨さんが嫌ではなかったら"
"あと、僕のことは、俊と呼んでくれるとうれしいです"
"もし、また、会ってくれるなら、映画館でもどうですか?"
"俊より"
そのメッセージを私は、読んだ。
そして、彼に、私は、返した。
"高木俊くんへ"
"私も、ちゃんと、言ってなかったので…
"私は、葉山友梨です"
"今日は、家まで、送っていただき、ありがとうございました"
"私は、最初は緊張ばかりだったけど、私も今日、楽しかったです"
"えーと…ぜひ、また、お願いします"
"友梨より"
既読にしてから、私は、30分後に、迷いながらも送信ボタンを押してしまった。
「送っちゃった…」
そう呟き、スマホを投げた。
すると、直ぐに、
トゥントゥン、ベットに振動する。音を響かせる。
投げたスマホを手に取り、ラインのメッセージ欄を開く。
"また、今度の日曜日、会える?"
"良かったら、映画にでも、どう?"
「早っ!」
そう呟き、メッセージを読んだ。
"はい、ぜひ"
"楽しみにしてます"
送り、そのまま、手にスマホを持っていると、即座に鳴った。
"僕も楽しみにしてる"
ドキドキする心臓の音。
10年間の片想いの苦しさが薄っすらとしていた。
翌日、朝、自転車に跨り、漕いでいた。
「おはよう」
自転車が隣に並んだ時、聞こえた。
「おはよう…」
大欠伸した。
「眠そうだな」
再び、答える前に大欠伸の私。
「寝不足か?」
「うん…なかなか、寝れずにいたら、朝なってた…」
「珍しいな、お前、大丈夫か?」
「うん…」
そのまま、足は、漕ぎ続け、学校に到着した。
駐輪場に自転車を止め、彼と並びながら歩いていると、
「おはよう、悠真くん」
優しい声が耳に入る。
「おはよう、舞ちゃん」
微笑む彼女。
その微笑みに彼も微笑んでいた。
そんな二人の姿を目の当たりにしていた時である。
トゥントゥンとスマホが鳴り響いた。
「びっくりした…」
スマホを手にし、ラインを開く。
すると、
"おはよう!"
"あのさ…サッカーの試合が1ヶ月後にあるんだけど、良かったら、見に来てくれませんか?"
メッセージを読み、思わず、微笑む。
「なんか、良いことでも、あったのか?」
「いや、別に?」
「ニヤニヤしてたからさ」
「そんなことないし!もし、良いことがあったとしても、悠真には、教えないー!」
私は、彼を越し、早歩きで、教室に向かった。
「待てよ!」
教室に着くと、
「おはよう!」
杏奈と悠香。
「おはよう!」
そして、席に鞄を置き、二人のところに行った。
「ねえ、聞いてよ!友梨!」
「どうしたの?」
「昨日さ、合コンでさ、二次会あったじゃん?その時にさ….」
杏奈が抱き付いてきながら。
「そうなんだ…」
話を切り替えようと、
「友梨は、どうだったの?」
「え?」
「なんか、収穫あった?」
「うーん…」
「あったんだ?」
「収穫っていうか…」
「うん?」
興味深々の彼女達。
はぶらかそうとする私に、
「怪しいな」
迫ってくる彼女達。
「実は….」
話した。
すると、
「おー!」
「おめでとう!友梨!」
二人して、口合わせのように行った。
「いいなー」
それから、杏奈が言う。
「でね….」
「いいじゃん!」
「収穫ありね」
「うん….」
二人とも、もううれしそう。
「まだ、気が早いよ」
「わかんないよ、もしかしたら…」
「やーん」
騒ぎ出す二人。
それから、暫くして、先生が教室に入って来た。
その話が聞こえていたのか、彼は、席が隣であり、
「合コン、行ったの?」
呟くように、私に言った。
「え?」
「よかったね」
心のどこかで、悲しくなった。
でも、
「何が?」
「いや、別に….」
その話は、直ぐに、途切れた。
頭の中で、今までの10年間は、何だったのだろう…
悲しい気持ちが少し残っていた。
モヤモヤとする。
彼は、私のこの気持ちがわかってないだろうな
彼の顔に見惚れてしまった。
すると、
「どうした?」
動揺したように、
「いや…別に…」
彼と目が合った時、
「何でもないよ」
微笑みながら言った。
胸がきゅっと苦しくなった。
お昼休みになった。
スマホを取り出し、手にした。
すると、ラインに①と付いていた。
私は、それを見て、ラインを開く。
"なんか、待ち遠しいな"
"何の、映画、見たいのとか、あったら、言ってね"
"うん!わかった!"
即座に返信は、返ってきた。
"今、お昼休み?"
"うん、そうだよ!"
なんか、やり取りが楽しい。
こんなの初めてだ。
特に、何か、特別なことがあるわけでもないのに、友達と話すようなことなのに。
"お昼、食べてる?"
"うん!俊くんは?"
"今日は、購買のパンだよ"
"私は、お弁当だよ"
"自分で作っての?お弁当"
"そうだよ"
"友梨さんと、同じ学校だったら、良かったのにな"
"そうしたら、一緒にお昼、食べられるし"
"そうだね"
その返信を送った後、チャイムが鳴った。
「友梨、チャイム、鳴っちゃったよ」
「やばい、やばい」
急いで、私は、口に運んだ。
「彼氏?」
ぷっ!
げほげほ
「冗談だよ」
げほげほ
「友梨、かわいい」
杏奈がそう言う。
そんな時、
トゥルトゥル
音が鳴り響く。
杏奈がその音に反応する。
スマホを見る彼女。
そのスマホを見た彼女は、
「え?」
「どうしたの?」
「…」
うれしそうな顔。
ニヤニヤへと変わった彼女の顔の表情。
ばたばた
「来たよ!私にも!」
「え?」
「合コンの山田くんから」
「おー!良かったね」
ばたばた
「良かったね、杏奈』
「うん!」
目から涙が出そうな感じの彼女に私は、微笑んだ。
彼女は、本当にうれしそうだった。
一瞬にして、きらきらと見えた。
放課後のことである。
「今日、私、バイト!」
悠香ちゃん。
「私はね….」
顔を抑える杏奈。
「会うことになったの….」
「そっか!」
「うん….」
「ってことで、ごめんね、友梨」
「いいよ、私のことは、気にしないで」
そう言い、それぞれに分かれた。
帰る支度をして、駐輪場に行き、自転車に跨る。
そして、学校の敷地内から出る時、校門の前で、
「友梨さん!」
その声に私は、ペダルを漕ぐ足を止める。
「え?」
「きちゃいました」
微笑みながらの彼。
彼と私は、それぞれに自転車を押しながら、歩いた。
沈黙が続く空気の中、緊張していた。
しかし、なんか、話さないと…
そう思っていた。
「あっあのさ…」
二人して、口を開き、息がぴったりだった。
思わず、二人して笑っていた。
「あのさ…」
「うん?」
「僕のこと、俊って呼んでくれるとうれしいな…」
「俊….」
照れる。
彼も照れている。
暫く、彼のほうを向けずにいると、
「あの…まだ、日は、浅いけど…僕と…付き合ってくれませんか?」
「え?」
動揺している彼。
その彼を見て、かわいいと思ってしまった私。
少し間が空いてから、
「あっあの…私….」
「…」
「実は…」
話してみると、
「そっか…」
「….」
少し間が空く。
それから、
「それでも、いいです…」
「…」
「それでも、もしかしたら、付き合ったら、何か、変わるかもしれないし」
「…そっかな?」
「取り敢えず、付き合って見ない?」
彼の真剣なまざなしに、
「よろしくお願いします」
伸した彼の手を私は、握った。
彼は、
「やった!やったー!」
とても、うれしそうにはしゃぎ回るように喜んでいた。
私は、その彼の笑顔を見て、微笑んだ。
そして、私は、彼と付き合うことになった。
その翌日。
キンコーンカンコーン!
キンコーンカンコーン!
放課後のチャイムが鳴った。
「では、これで、終わりにします!」
「起立、礼!」
一切行進。
クラスメイト達がバラバラと動き出す。
「友梨!」
その声に私は、振り返る。
「うん?」
だんだんと近付いて来た杏奈。
「今日、パンケーキ、食べに行かない?新しい店が出来たんだって」
「そうなんだ…」
そこに、
「ねえ、パンケーキ…」
杏奈が持っていたチラシが目に入ったのか、悠香は、言おうとしたことを止め、
「行くか!」
悠香は、言う。
その言葉に反応した杏奈。
「行こう!行こう!」
さらに、はしゃぎ出す杏奈。
二人は、私の顔を見た。
「うん!」
頷きながら微笑み、そう私は、答え、
「行こう!行こう!」
杏奈は、私の肩と悠香の肩を組んで、三人で微笑み、歩き出した。
それから、話しながら、駐輪場に向かい、構内から、自転車のタイヤが一部出た時、
「友梨さん!」
横を振り向く。
門のところに立っていた彼。
「俊くん…」
一瞬、時は、止まった。
「友梨」
「また、後で一緒に行こう?」
「え?」
そう言い、杏奈と悠香は、私に手を振って行ってしまった。
残された私は、
「友梨さん、用事とか、あった?」
「え?」
「さっきの友達?」
「うん…」
「なんか、悪いことしちゃったかな?」
「え?」
杏奈と悠香が行ってしまった道のほうを見ていた。
その彼の姿を見て、
「そっ…そんなことないよ…」
「そう…」
気まずい空気が流れていた。
「友梨!」
大声で呼んでいるみたい。
でも、私の耳には、入っていなかった。
「友梨…」
彼は、歩いていた私を見つけた。
私と彼にとって、知らない男の人だろう。
「取り敢えず、歩こうか…」
「うん…」
私は、自転車を押しながら、彼と歩き出した。
少しわずかな、斜め後ろを。
どきどき
心臓がうるさい。
高鳴りっぱなし。
暫く、沈黙の中、歩いていると、彼から、口を開いた。
「あのさ…」
「…うん?」
自転車のハンドルを持った左手に触れた。
二人の足は、止まった。
そして、
「自転車、僕が漕ぐから」
「え?」
「いいから、いいから」
ハンドルから手を離され、彼の手が交代する。
そして、
「後ろに乗って」
「え?」
「いいから」
「きゃっ!」
私を荷台のところに載せ、彼は、自転車を跨り、動き出した。
「ちゃんと、俺を掴んでて!」
自転車は、だんだんと速度もペダルの回す速さも加速していく。
その勢いのせいか、風が吹く。
その中、
どきどき
心臓の音は増していく。
彼に聞こえてないかな?
口元が自然と上がった。
「友梨さん!」
その声が風の音と共に重なった。
「え?」
ぼーっとしていた声。
「好きです…」
風の音で、その声は、消えていた。
「うん?」
「…」
彼の横顔が赤くなっていた。
その横顔を見て、私の頰も赤くなる。
どきどき
「好きだよ!」
その言葉に、
どきどき
心臓の音が激しくなっていく。
それか、沈黙は、続いた。
彼のペダルを漕ぐ足が止まる。
「着いた…」
「…」
私は、足を地に着かせ、降りる。
「ありがとう…」
「うん….」
下を俯いた私。
「また、明日!」
そう言い、後ろを振り返り、歩き出していく彼。
その後ろ姿。
手を振っている。
出かけそうで、出ない言葉。
「俊くん!」
思わず、呼んでしまった。
彼は、足を止め、振り返る。
気が付いたら私は、彼の近くにいた。
「ありがとう…」
「私も…」
「え?」
「好き」
私は、彼に心を徐々に惹かれていたのだった。
彼と付き合い出してから、1ヶ月が経った。
彼のサッカーの試合を見に行った。
どきどき
応援団の声の迫力がすごい。
「おー!」
ゴールを決めた選手に出しての声。
「次も次も!」
歓声の声。
その中で、私は、彼を目視していた。
彼がゴールに入れた時、素直に喜ぶことが出来た。
試合が終わり、
「ありがとうございました!」
その後の喜びの声。
その中で、感動した涙を流す人。
その逆で、相手チームの悔し涙。励まし。
「友梨さん!」
その声に振り返る。
「どうだった?」
「おめでとうございます!」
続けて、
「かっこよかったです…」
少し小さな声。
彼は微笑んでいた。
キラキラと彼が輝いているように見えた。
大会も終わり、さらに、1ヶ月が経った。
映画館で映画を見たり、遊園地に行ったり、ただ、街で、隣を歩いたり…
こうして、デートを積み重なっていった。
映画では、意外な彼の感動する涙の彼の面を見たり、観覧車の中で、隣に座る彼は、天辺まで来ると、私の唇に触れたり…
幸せという気持ちが広がっていたのに…
彼に、私は、だんだんと徐々に、惹かれていたのだ。
しかし、それは、いつまでも長くは、続かなかった。
さらに、3ヶ月が経っていった。
放課後、いつものように、彼は校門で私を待っていた。
「行くか…」
「うん!」
微笑む私。
彼の顔は、いつもとは、違っていた。
たわいのない話をしながら歩いていた時だった。
「それでね…」
話を続けようとすると、
「友梨さん!」
少し離れたところに彼は立っていた。
「俊くん?」
「…」
彼は、私にゆっくりと近付いて来る。
少し幹にシワを寄せている。
「どうしたの?」
私は、問いた。
暫く、間が空く。
しかも、彼は、下を俯いていた。
「どうしたの?」
口を噛みしめる彼。
私が口を開こうとした時である。
「友梨さん!」
「はい…」
間が空く。
しかし、暫くして…
私は、耳を疑った。
「え?」
間が空く。
暫くして口を開いた彼。
「ごめん!」
「…なっ…なんで?突然…」
「…本当に、ごめん!」
彼は、ごめんとしか、言わず、走ってその場から去って行ってしまった。
え?
そこから、一人、ポツンと取り残された。
あの時みたいに。
ずっしろとゴロゴロとした岩が突然落ちて来て、潰されたような、
突然、高い崖から、突き落とされたような、
彼との時とは、またちょっと違う感覚だが、
それよりも、頭が真っ白になった。
え?
私…
その時の私は、まだ、彼のことを何も知らなかった。