◆プロローグ◆
ある時期からふと、奇妙に白い蔓状の植物が全国の至る所で目撃されるようになった。
それは美しい植物で。
真珠のように滑らかで清い光沢を持ち。
どこか生まれ立ての赤ん坊を連想させる、濁り無く汚れを知らない純粋さを纏っていた。
当初、その見た目の美しさから“Angel Heart”なんてチープな名前を付けられ、ちょっとしたブームにさえなったものだ。
テレビや雑誌が突然現れた新植物を面白がり、神話になぞらえた美談や怪談、様々な憶測を発信しては世間を沸かせた。
そんなだから、一部の植物学者達が研究に乗り出したのも、最初はただの興味本位に過ぎなかったのだと思う。
あわよくば新植物の未知の生態を説き明かし、学者として一歩先に進むことを夢見た者もいるかもしれない。
しかしながら。
“綺麗な華には刺がある”
この言葉の示す通り、蔓植物のまばゆい美しさの反対側に、強い悪意が含まれていたとしても何の不思議があったろう。
研究が進むにつれ、学者達は驚愕し、放心し、みっともなく狼狽することとなった。
もっとも、学者達がデータ上でその事実を突き止めるよりももっと早く、人々のリアルな悲鳴は街のあちこちで上がり始めていたのではあるが。
澄んだ真水のような、陽に煌めく樹液は猛毒。
伸び伸びと急成長を遂げる蔓は、触手のように絡んで締め上げ、巨木すらも枯らし。
地中を這い進む根は、あらゆる養分を貪って土を空にしていった。
そう。美しい蔓植物は、純白の天使などとは程遠い悪意の塊。
人々の生活に爪を立てる、邪悪な災いそのもの。
すぐに駆除隊が結成され、学者達はそれに従い研究内容を改めた。
混乱。焦り。パニック、パニック、パニック。
ニュースで流れるのは、奇異な植物の被害に関する話題ばかり。
そんな最中に、追い撃ちをかけるように現れた、もう一つの大きな苦難。
治療方法不明の病が蔓延し出した頃には、誰もがすっかり疲れ切っていた。