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薬物テロ

作者: 丘間由紀恵

なし


「これより、工作員活動報告会を開催する。全員起立、元首様に敬礼」


国家元首公邸の中にある会議室に5名の軍服姿の工作員が集結していた。

リーダーの号令とともに、全員直立不動で敬礼する。

白いものが混じった長い髭をたくわえて、同じく軍服姿の国家元首がゆっくりした足取りで、会議室に入って来た。


「では、始めてくれ。」


深くお辞儀をした、工作員の一人が口火を切った。

「薬物テロ主任、工作員番号1014より、偉大なる国家元首様にご報告申し上げます。

本作戦では、苦しみを味わうことなく、死に至ることが出来る薬を我が国家にて発明致しました。敵国に蔓延させて国力を衰えさせることを目的として使用する予定です。今回は実験段階として、手始めに、隣国である敵国日本に対しての実験として、日本国内のインターネット販売会社に工作員を紛れ込ませて、販売を始めました。

本薬は個人のDNAに反応して死に至らしめるため、他人の直接的な殺人には適用不可となります。あくまで、個人の責任で自殺をすると言う場合に使用するものとなります。インターネットの宣伝文句はこちらのとおりです。」


プロジェクターの画面が切り替わった。


「朝起きるとそこは天国。たったの1錠で眠るように快適に来世にご案内します。現世で粘る必要はありません、人生うまくいかなくなったら来世に行くというのも選択肢の1つですよね。

我々の工場に髪の毛を送ってもらい、1週間後には本人のお手元に製品が届きます。」


「それで、効果はどうだったんだ?」


プロジェクターが円グラフと棒グラフのデータを写し出した。


「ご覧のとおり、実験は予想以上のスピードで結果を挙げました。まずは、若年層、特に中高生の間で流行し、学校でイジメの被害に遭っている生徒の自殺が続出しました。イジメに遭っているものが消えた後は、また別の者がイジメのターゲットになり、連鎖的に自殺者が増加しました。その責任を問われる教師も自殺し、日本国の学校数が半減しました。


「ただでさえ少子化なのに、これで拍車が掛かったわけだな。これで国力もますます衰退しそうじゃわ。」と、国家元首は大きな体を揺らして不適な笑みを浮かべた。


「自殺しても死顔が安らかで、外観にダメージのない清潔な状態なので、評判を呼んだのでしょう、次はサラリーマンと呼ばれる、会社勤めの成人男性の自殺が相次ぎました。学校だけでなく、会社や役所でもイジメやハラスメントが横行していることが主な理由です。中には寝坊して会社に遅刻する、連休明けで会社に行くのは億劫、残業が多すぎると言うような、安易な理由で簡単に自殺する者もおりました。高所得者層も高所得を維持するためのプレッシャーを抱えているようで、自殺に至っております。リア充と呼ばれる結婚して家庭を持っている、一見幸せそうに見える夫婦も、何らかの将来の不安を抱えているようで自殺しております。この国には歌手やアイドル、有名人に対する偶像崇拝者が多く存在し、それらの自殺に伴い、後追い自殺も増加しております。」


「会社を動かし、国を動かす、社会の中心的存在がいなくなると、国政がガタガタじゃろうに。今の日本の経済状況はどうだ?


「もはや経済大国とは言えない状況となり、先月のGDPはマイナス20%でした。職業別に見ても、銀行員の自殺者も多いので、銀行の破綻が相次いでおります。人口は薬を販売してから、約6ヶ月で販売前の4割にまで減少しております。」


「ガハハハ、既に4割か。核爆弾よりも威力があるでないか。しかもコストが掛かるどころか、日本国民が薬を買うたびに我が国家の収入が増える、こりゃ笑いが止まらんな。で、お前達の見解だと、来年には人口消滅か?」


やや沈黙があってから、薬物テロ担当者は、軽く深呼吸を着いて口を開いた。


「申し訳にくいですが、この4割に達してから、人口が減っておりません。残った国民は、一向に薬を購入する動きが見られません。」


「残った国民とは、どういった連中じゃ?そんなに生命力が強いのか?」


薬物テロ担当者は首を横に振りながら答えた。


「40代以上の中年、老年独身者、ホームレス、LGBTと呼ばれる性的マイノリティ、在日外国人、身体および知能障碍者、認知症の発症者、学校のイジメからフリースクールに逃れた学生達など、日本社会において差別を受けながらも、生き延びた連中です。生命力が強いと言うよりは、そこまでは自分の人生に期待しておらず、あきらめの境地の中で、自殺したくなるほどのプレッシャーがないのでしょう。」


国家元首は自分の目の前にあるペットボトルの水を飲んでから、立ち上がった。

「そういう無能な連中しかおらん状況下じゃ、武力行使でさっさと日本を併合してしまうぞ。直ちに海軍、空軍一斉に日本を攻撃する準備をしろ!」


と、威勢よく言い放った瞬間、頭がダラリと垂れ、そのままテーブルに崩れ落ちた。表情は眠っているように安らかである。


薬物テロ担当者が国家元首のまぶたを開いて、瞳孔の動きを確認した。


「最後に報告が遅れました。今まで社会の中で不利な状況に立たされいて、他人の痛みがわかる国民だけが生き残ったようです。確かに日本の経済力は地に落ちましたが、お互いに困った時には助け合いをして、見栄を張らずに無理して頑張らない社会になりつつあります。我々も工作員として日本に仮住まいしながら、この快適な雰囲気に洗脳されてしまったようで、祖国に戻らない決意をしました。お許しください。」









なし

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