100プラス1分の1の男~男希少の異世界へ行ったらどうする~
異世界というと何を想像するだろう?
俺はファンタジー魔法世界やSF未来世界を想像する。理由はチープで、最近のライトノベルやアニメに影響を受けているからだ。
そんな俺はある時、異世界に来た。
残念ながらそこはファンタジーでもSFでもない現代世界と同じような世界。もちろん魔法も無ければロボットも無く、魔物もいなければエイリアンもいない日本と同じく平和な世界…
なぜ、同じような世界なのに異世界だと気づけるかって?
…そりゃ気づくさ。なんせ男が極端に少ない男:女=1:100の世界なんだから。
この世界では男は稀少な存在であるがゆえに女は男を守る存在として進化しており、価値観がほぼ逆転している。女は性欲が強く力強い。だからエロ本を読んだり、男に痴漢したりする。呼び方は痴漢ではなく痴姦になるが。
逆に男は性欲に消極的で保守的だ。だからこそ、価値観の逆転があるのだろう。
最初にこの世界に来たときはあべこべな世界観に戸惑った。
一夫多妻が推奨される世界なのに世の中の男性は性に消極的で、女性は子供を作るために男性に頭を下げお金を払い人工受精をしているという。最近知ったのだが、男女比は昔は1:5程度だったのに、人工受精が主流になってから爆発的に生まれてくる女性の割合が増加してしまい1:100になってしまったらしい。
なぜこんなことになったのかというと、過去に男の人権を守る運動があったことで過剰保護な法律が制定されてしまい女性からの積極的なアプローチが出来にくくなった。例えば、ちょっとしたスキンシップがわいせつ行為になったり、しつこいデートの誘いをしただけでつきまとい行為として公的機関の取り締まりを受けてしまう。
さらには国が人口減少を防ぐために人口受精のシステムを作り、女性へ最低一人は子供を作る義務を課した。おまけに人工受精すら拒む男の権利を認める始末。
事実は小説より奇なり。このようなことが世の中でまかり通っているのである。
義務化した子作りと男性の性愛を受けられない仕組みに生まれる女性増加の悪循環。
本当にこの世界の女性たちが可哀想だ!
だから、せめて俺が彼女たちを幸せにしてやろうと思った。異世界の男の俺ならこの世界の女性の感覚に近いし気持ちもわかる。互いにウィンウィンな関係なのだから。
目指せハーレム!
自己紹介をしよう。
俺の名前は鹿倉貴司。今年から高校生1年生になった15歳。まぁ、中学3年生だった鹿倉貴司の肉体に宿った俺は前の世界では30だったから精神的には31なんだけどな。
いきなり中学3年生になったもんだから今さら受験勉強とかきついと思ったけど、共学の私立なら試験無しで入学可能な学校が近くにあると教師に聞き入学した。
名前は私立藍西学園。1学年800名弱のマンモス高校で約21クラス、中途半端な数値だと思うだろうがこれには訳がある。B~Uクラスまでは女子クラスでAクラスのみが男女混合の教室だからだ。理由は成績の高い者がAクラスになれるため、男が存在する教室に入りたい気持ちを利用して全体的な成績アップをしているから。
成績をお金で…っていう黒い噂もあるようだけど気にしない。
正直、男と同じクラスになるために何としてでも成績アップを目指す女の子を楽しみにしている。
なぜなら、中学時代に男は俺一人で同級生もおらず羊の群れに狼一匹的存在だったからである。
意外にも女の子はギラギラしておらず俺とは距離を置いており、あまり仲良くできなかった。話かけても逃げていくし、落とし物を拾っても頭をペコペコ下げてはすぐに逃げるし、教師から重そうな教材を持たされているからと手伝うもお礼を言ってはやっぱり逃げられてしまう。
えぇ、ボッチってやつでした。思わず口ずさんでしまいそうになりましたよ『探しに行くんだ~そこへ~♪』ってね!
おっかしいな。男は多くの女性に狙われるから襲われないよう気を付けなさいって母さんに言われたんだけどなぁ。襲われるどころか話すら無理だったよ。
いきなり中学で壁にぶち当たったけど、高校は3年間ある。絶対、今度は女の子と仲良くなってやるからな!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
━━━入学式、講堂。
ザワ…ザワ…
「皆さんはじめまして。生徒会長の白崎澄香です。」
約800名を前に凛とした姿で挨拶を始める女性。在校生代表の挨拶である。
「我々はあなた方を歓迎します。ご入学おめでとうございます。」
教師達が拍手をくれる。
「さて、我が藍西学園は本年度をもちまして50年の伝統があります。これは卒業していった先輩方や教師の方、関係者の方のたゆまぬ努力の結果であります。
また、学校を支えて頂いた方々のお陰でもあります。
ご入学した皆さん。今日からあなた方もこの学園の生徒です。我々と共に切磋琢磨していきましょう。
我が学園は学業の為に市立図書館の無料貸し出しや進学のために特別講習を受けることができます。学業に専念する方は是非とも利用してください。学業は我々に………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………また、部活動は様々な分野があります。部活動は強制ではありませんが、今日より一週間、勧誘期間を設けました。部活動に興味の有る無しに関わらず、一度体験してみてはいかがでしょうか。もしかしたら、新たな出会いがあるかもしれません。我が校で今年活躍したのは………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………最後に、我々はあなた方の幸せな学園生活を応援致します。もし、挫けそうなときは教師の方々や我々上級生が手助けしますので、安心してください。
短いですが、在校生代表の挨拶とさせて頂きます。本当にご入学おめでとうございます。」
挨拶が終わると新入生が拍手をする。まるで洪水だな。約800人は伊達じゃない。
これが全員、俺の同級生になるのか。周りを見渡すが女女女女女女…改めて男が少ないことを認識させられる。
ちなみに男はひと塊にされ、一番後ろの席に座らされている。俺を含め2人だ。
男の同級生は初めてなので本当は話しかけたいのだが、教師が俺たちの周りを囲んでいるため喋れない。彼も同じのようで先程からチラチラとこっちを見ている。
そんな彼は爽やか系の顔で清潔感のあるヒョロっとしたイケメンだ。きっとアイドルってこういうやつのことをいうんだろうな。
入学式はその後、挨拶が続いたため退屈になり途中で目を閉じてしまった。
「貴司君!」
ゆさゆさと揺らされる。
「はっ!」
「クスッ。眠っちゃったのね。」
「す、すいません!」
「いいのよ。学生には退屈な話だもの仕方ないわ。」
すぐ脇にいた教師に起こされてしまった…。
「い、いえ。そんなことは…」
「うふふ。可愛い寝顔だったわよ。」
「あ、あぅ………」
恥ずかしい。そんなこと言わないでくれ、変な声を出してしまったではないか。
「ぷっ………」
横を見ると彼が笑っていた。
彼だけじゃない。周りを見ると皆に好奇な目を向けられている。
俺は恥ずかしくなって入学式が終わるまで顔を上げられなかった。
◆◆◆◆◆
入学式が終わり、隣の男から話掛けられた。
彼の名前は沢中晴也。男子生徒なら色々と優遇されるから入学を決めたとの事。なんでも親戚がこの学園で働いているらしく、詳しい話を聞いたんだとか。
「いやぁ、それにしても笑わせてもらったよ。」
「ぐ………さっきのことは忘れてくれ。」
「忘れられないよ。まさか鹿倉くんがあんなに可愛いなんてさ。」
「や、やめろよ。」
「いやだって、生徒会長を睨んでるし入学式で寝てるからさぁ。最初は怖い人なのかと思ってさ。」
「え………?」
怖い?何だよそれ。
生徒会長を睨む?違う、彼女が綺麗だったから見とれただけだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺の第一印象そんなに悪いのか?」
「はははっ、ちょっとだけね。何かそのキレッキレッの目に射殺されそうって思う。」
「何だって!?」
「怒らないで、ちょっとだけだよ。はは……」
「い、いや、怒ってない。」
パズルのピースがはまった気がした。
今まであんまり気にしなかったけど、確かに俺の目は少しつり上がっている。気にする程のものじゃないと、むしろチャームポイントだとさえ思っていた。
そういうことか。中学時代のボッチ生活はそれが原因か!
怖がられていたんだ、女の子たちに…
確かにボッチ生活が続いてからというもの、俺は友達がほしいと常に機会を窺っていたからな。ギラギラした肉食獣のような目で女の子を追っていた。前世で普通に考えれば、犯罪者になってもおかしくないレベル。
「謎は全部解けた!」
「そ、そう。それは良かったよ。」
「あ………やば、口に出てた。」
一瞬、キョトンとされる。
「く、くくっ…やっぱり鹿倉くんは可愛いよ。」
やめてくれ。男に言われると悪寒が走る。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
入学式が終わり、制服や教科書の受け取りやクラス編成などの確認をして疲れた俺は真っ直ぐ家に帰る。
部屋に戻るといつの間にか眠ってしまい夕食の時間になっていた。
「「「いただきます。」」」
夕食を囲むのは3人。母さんと姉さんだ。
「ねぇ、入学式はどうだったの?」
と聞いてきたのは姉さん。
鹿倉加奈19歳で大学生。黒髪のボブ、目付きは俺とは違い優しい眼差し、ワガママボディのボンキュボンである。姉弟でなければ是非ともお付き合いしたい。
似ていないのは、二人とも父親が違うから。この世界では当たり前のことなので気にしてはいけない。
性格はちょっと激情家でブラコ………ゲフンゲフン、とても弟思いの優しい姉さんだ。たまにスキンシップが激しいのでドキドキさせられる。まぁ、ご褒美ですがね。
「うん。その………教師に目をつけられてしまったかもしれない。」
「な、な、何ですって!?」
ガバッと立ち上がると直ぐ様俺を抱き寄せる。
「駄目よっ!教師なんてお姉ちゃん許さないわよ!貴司はまだ中学生を卒業したばかりなのに誘惑するなんて信じられない!何なのそのショタコン教師はっ!?犯罪じゃない!」
「ね、姉さん落ち着いて。」
相変わらず激しいな。
「落ち着いてなんかいられないわっ!」
「うふふ。加奈ちゃんたら慌てん坊さんね。」
冷静に答えたのは母さんだ。
鹿倉紗良41歳でシングルマザー。黒髪のストレートで優しい眼差しとワガママボディは姉さんに遺伝したようだ。40代には見えないほど若く、20代でも通じるだろう。親子じゃなければ…以下略。
姉さんとは違いおっとりとしているが、それが大人の落ち着きを感じさせる。ちなみに仕事は役所勤めで定刻勤務だ。
「え?どういうことなのお母さん?」
「貴司くんたら、入学式の途中で眠ってしまって先生に注意されたみたい。」
「うぅ、面目無い。」
「な、なぁんだ、目をつけられたってそういうことかぁ。良かったぁ。」
「あはは…」
抱き着きホールドが解除される。
「今年は男子が少ないってニュースでやってるし、本当にお姉ちゃんは心配だよぅ。」
「そうなんだ。確かに入学式には俺を含めて二人しか男いなかったもんなぁ。」
「二人かぁ。」
「でも、良い友達になれそうだよ。沢中ってやつだけど、凄い爽やかな感じでさ。」
「ふぅ~ん。爽やかねぇ。」
「うふふ。そういう人って性格悪かったりするものなんだけど、良かったわねぇ。」
「そうなの?」
「あら。口が滑っちゃったわ~。気にしないで、加奈ちゃんのお父さんのこととは言ってないから~。」
「ちょ、ちょっと!言ってるじゃない!え?私のお父さんて性格悪いの?!」
「あははははっ」
「うふふふふっ」
「もぉ~~~!」
この後も夕食の時間は入学式の話題で盛り上がるのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
━━━昨日始業式が終わり、今日から本格的に授業が始まる。
ガタンゴトン…ガタンゴトン…
学園までは電車通学だ。母さんが毎日車で送ると言ってくれたが、それは流石に悪い。俺は高校生だけど中身はおっさんだし、自分のことくらい出来るだけ自分でやるさ。
プシュー…ガラガラガラ
次の駅に着くと、沢山の人が乗ってくる。女女女女女女女…で埋め尽くされる。
よく見たら、周りに男って俺しかいないじゃん。
ガラガラガラ
扉が締まり電車が発車する。
ムググ…結構きつい。通勤ラッシュとは懐かしいぜ。前の世界では働き始めてから車通勤だったからなぁ。
サワサワ
「あん?」
尻になんか触ってるな。
なんかくすぐったいので身体をずらす。
サワサワ
あれ?またか?
もう一度身体をずらす。
サワサワサワ
「え?」
サワサワサワ…サワサワサワ…
何だよこれ?!
サワサワサワ…サワサワサワ…
き、気持ち悪っ!何だよ?
自分の尻の辺りを確認すると、誰かの手があった。
何だ邪魔だなと思い手をどけるが…
サワサワサワ…
こいつっ!
俺は犯人を探した。すると、平然を装いながら目の充血した40くらいのオバサンがいた。
頭にきたぞ!ガシッと腕を掴むとオバサンは驚いた表情に変わる。と同時に丁度次の駅に着いたみたいだ。
プシュー…ガラガラガラ
一斉に降りる客と一緒に出る。勿論腕は掴んだままだ。
「おい!どういうつもりだっ!!」
「な、何なのよあんた!?」
逆ギレするオバサン。
「さっきから俺の尻に手を当てやがって!嫌がらせかっ!!」
「はぁ?!何言ってんのよ知らないわよっ!!」
「知らないわけないだろっ!身体ずらすたびに触りやがって!!」
「離しなさいよっ!アンタみたいな学生と違って私は仕事が忙しいの!」
ドンと押され倒れこんでしまう。ふくよかな体型だったからか体重さでついやられてしまった。フフンと笑うとそのまま立ち去ろうとする。
こんのババア…やりやがったな!!
「待…」
「待ちなさいっ!!」
ファサッとサラサラの髪を揺らしながらポニーテールの少女がオバサンの手を掴んだ。
「な、何なのよっっっ!?」
オバサンが激昂する。
「あなたあの男の子に痴姦(痴漢)したでしょう!!」
「し、知らないって言ってるでしょうっ!!」
「それだけじゃないわ!あの子を乱暴に突き飛ばして平然と立ち去ろうとするなんて、どういうつもりなのっ!!」
「う、うるさいっ!」
オバサンが逃げようとするが、友達だろうか3人の学生が出てきて逃がさないよう囲む。
「なっ!!」
「逃がさないしぃ!オバサン~、よくもうちの男子生徒に手ぇ出してくれたねぇ?」
そう言ったのはサイドテールの女の子だった。よく見れば全員、藍西学園の女子生徒の制服を着ている。
「何よ何よっ!何なのよっ!!」
完全にオバサンはパニック状態である。
「私、駅員さん呼んでくるね。」
そう言ってショートカットの子が改札の方へ走っていく。
うわぁ、大事になっちゃったよ。周りの人に滅茶苦茶見られてるんだけど。
もう、なんか引っ込みつかない状態だなこれ。ど、どうしよう。
「ねぇ、大丈夫?」
ウェーブロングの穏やかそうな女の子が手を出してきた。
「は、はい。」
好意に甘えて、手をとると背中を支えられながら身体を起こしてもらった。俺が後ろに倒れても支えられるように配慮してのことだろう。
なんて優しい気遣いなんだ。
「あ、あの。ありがとうございます。」
恥ずかしさもあってついつい下から見上げた顔をしてしまう。
「………か」
起こしてくれた女の子は目を見開き顔を赤くして固まっていた。
「……あの?」
「可愛い…。」
「え?」
「いいな…。」
「小動物みたいで可愛いし。」
可愛いを連呼する女の子たち。
「安心してね。あなたは私が守るから!」
起こしてくれた女の子は俺を背中に隠しオバサンから庇うように立つ。
「なっ!」
「華、あなたオイシイところを持っていったわね。」
サイドテールの女の子は驚愕し、ポニーテールの女の子が冷静にツッコミを入れてきた。
女の子たちが貴司に視線を向けているため、今がチャンスとばかりにオバサンがこっそり立ち去ろうと動くが
「どこ行くのっ!」
「ちっ……」
駅員を呼びにいったショートの女の子がオバサンを止める。舌を鳴らすオバサン。
「おまたせぇ!駅員連れて来たよぉ!」
「どうしましたか!?」
駅員が状況を聞いてくる。
「どうもこうもないわよっ!この学生たちが私の邪魔してくるのよ!!」
オバサンが怒りをあらわにする。
「違います!この人、男の子に痴姦したんです!」
「し、してないわよっ!!」
「なるほど、それで被害者は?」
駅員はオバサンの怒声を無視して冷静に話を聞いてきた。
「この子です。」
「あ、はい。」
「大丈夫?怪我はない?話できる?」
駅員は優しく問いかけてくる。痴姦となれば性的でデリケートな話だからか、被害者を怖がらせないようにするためだろう。
「ちょっと擦りむきましたが大丈夫です。」
「擦りむいた!?」
驚いた駅員にポニーテールの女の子が口を挟んだ。
「私、見てました。この人、二人で言い争ってる最中にこの子を突き飛ばして転ばせたんです!」
「本当ですか?」
駅員がオバサンに確認をとる。
「ち、違うわよ。手が当たっただけじゃない。」
冷や汗をかきながら答えるオバサン。
「嘘つくな。」
「そうだそうだ。」
「私たちも見てたわ。」
「認めろし!」
女の子たちが一斉に反撃する。
数の暴力ちょっと怖いっす。
「困りましたね。何だか話が食い違ってますし、事務所の方で詳しく聞かせてもらえますか?」
「はぁ?何でよ?私は何にもしていない!!」
「しかし、周りのお客様にご迷惑ですので…」
「関係ないでしょ!ここでいいじゃない!」
オバサンは猛烈に反発する。
「申し訳ありませんがこれ以上は…」
「知らない!知らないわよ!私は仕事があるのっ!その制服藍西学園ね?通勤を妨害したって学園に訴えるからね!覚悟しなさいよ!」
「いい加減にしなさいっっ!!」
駅員が怒声を上げる。ビクッとなるオバサンと周りの人たち。
「あなた大人でしょ、子供を脅してどうするの?痴姦に加えて暴行、脅迫まがいのことまでするなんて、どれだけ罪を重ねるつもりなのっ?!」
「………。」
「いいから来てください。」
反論できず駅員に引っ張られていくオバサン。
「被害者と目撃者の方も一緒にいい?」
応援に来た別の駅員が俺たちに付いてくるよう言う。
「あ、あの。学校があるんですけど…」
「大丈夫。私から言っておくから心配しないで。」
「はい。」
それなら安心だ。初授業の日に遅刻なんて最悪だけどな。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
駅員に事務所に案内されると、まず名前や連絡先を聞かれた。
オバサンや付いてきた女の子たちも一緒のようだ。
オバサンと俺、女の子たちは離され別々の駅員が事情を聞くようだ。俺には男性職員を用意するから待ってほしいと言われたが、別にあなたで問題ないと伝えるとそのままその女性職員が担当することになった。
尻を触られて避けていたがしつこく触られたこと。注意したら逃げようとしたこと。逆ギレされて突き飛ばされたこと。俺は有りのままを伝えた。
そのうち警察が来て、詳しい状況を聞かれたので身ぶり手振りを交えながら話をした。俺と女の子たちが話終わり互いの情報の整合性がとれたらしく、オバサンさんは任意同行で警察に連れていかれた。
駅員は母さんへ連絡してくれた。母さんは心配で迎えにくると言っていたが、学校に行きたかったので全然問題ないことを伝えると渋々了承してくれた。母さんが落ち着いた性格で良かった、これが姉さんだったら絶対許してもらえなかっただろう。
駅員は学園にも連絡してくれていたようで、職員室へ顔を出すようにとの事だった。
事務所から出ると女の子たちが待ってくれていた。
「災難だったね。」
「はい。助かりました。皆さんありがとうございます。」
「怪我は大丈夫?」
「痛くない?」
「大丈夫です。駅員さんに絆創膏もらいましたから。」
「そうなんだ。これから学園行くの?」
「帰らなくて大丈夫なの?」
「はい。あの…俺、1年生の鹿倉貴司です。今日は初登校で学園楽しみにしてたからどうしても行きたくて。」
「そっかぁ。でもさ、敬語いらないよ。私たちも同じ一年生だから。」
「そうね。」
「よろしくね~。」
「そうなんだ。一緒のクラスだといいなぁ。」
「…本当にそう思ってくれるの?」
変な質問をしてくる。オドオドと、本当にこの世界の女の子は男に怯えている。世界の在り方が彼女たちの自信を壊しているんだろうな。
「もちろん!君たちみたいな可愛いくて良い人なら当然だよ!」
だから、わざとらしい答え方をする。
「ほ、本当に?」
「いいのそんなこと言って、本気にするよ?」
「きゃ~、初男友達なんですけどぉ!」
「助けて良かったしぃ。」
「喜んでもらえて良かった。中学の時は女の子に避けられてたから不安だったんだ。」
「「「「嘘?!」」」」
「こんなに良い男を」「勿体ない」「信じられない」と言われたが事実ボッチだったんだよ。本気に君たちみたいな女の子が一人でも俺の中学校にいてくれたら良かったのに。
4人は自己紹介をしてくれた。
ポニーテールの女の子は武居紫苑で正義感が強そう。
サイドテールの女の子は羽山唯で強気な感じでギャルっぽい。
ショートカットの女の子は天坂琉卯背が小さくて元気なロリ系。
ウェーブロングの女の子は佐久間華で落ち着きのある撫子っぽい。
その後、皆で電車に乗ったが「痴姦から守ってあげるからね」ということで、俺の周りをガッチリと囲んでくれた。
この世界では普通なんだろうけど、何か男として失ってはいけないものを少し失った気がする。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
電車を降りて駅を出ると、学園までは歩いて5分程度だ。
当然ながら歩いている学生は誰もいない。二時限目が始まる時間だし、皆はとっくに教室にいるだろう。
校門の前に着くと先生が立っていた。
「「「おはようございます。」」」
「おはよう。あなたが鹿倉貴司くんね?」
「はい。そうです。」
「話は聞いてるわ。大変だったわね。」
「はい。」
「あなた達もご苦労様。貴司くんを助けてくれたのよね。立派だわ。」
「そんな…当然のことをしたまでです。」
「同じ学園で学ぶ仲間ですからね。」
「ほうっておけないよ。」
女の子たちは謙遜する姿に先生は頷いて誇らしげだ。
「付いてきて。一旦職員室で話をするわ。」
「わかりました。」
俺たちは先生の案内で職員室へ向かった。
職員室に入ると授業中だからか教師は数人しかいなかったが拍手で迎えられた。もちろん女子生徒に対してだ。
教頭先生から一人一人名前を聞かれて誉められている。
俺はというと、男の教師に詳しい話を聞かれたので事情を話した。「怖かっただろう。」とか「もう大丈夫だよ。」とか言われたが、正直気持ちはわからなかった。この世界じゃ男は痴姦されることは知っていたが、俺がオバサンに怒ったのはしつこかったからで多少触られた程度気にしていない。まさか中学時代モテない自分がされるとは考えてもいなかったし。
教師は俺が登校拒否するのではないかと心配していたが、俺の問題ないという態度に驚いていた。しかし、虚勢を張っているのではと思う教師もいて電車通学は考え直すよう言ってくる。
本当に大丈夫なのに。困った顔をしていると武居さんが提案してきた。
「私たちでよければ彼と一緒に通学します。」
教師は驚いたが、俺は願ってもない提案だったので是非にと了承させてもらった。
ひとまず痴女の件は解決したので、クラスについて教えてもらう。
俺は男子生徒なのでAクラス。嬉しいことに武居さんと羽山さん、天坂さん、佐久間さんの4人も同じAクラスだった。
すでに授業は始まっているそうで、先生が全員を案内してくれる。
コンコン
「すいません。例の5人を連れてきました。」
「はい。聞いてます。」
教師は既に事情を知らされていたようだ。
「皆さん、授業中にごめんなさい。この5人は特別な事情があって遅れました。
今日から同じクラスになりますので、仲良くしてあげてください。」
案内してくれた教師はそれだけ言って、帰っていった。
「何?何?」「特別な事情って?」「気になる~!」「でも一人は男の子だよ?」「本当だぁ…。」
パンパン!
「はい!詮索はやめてください。今は授業中ですので無駄な話はしない。」
教師の注意で静かになる。
「このプリントに席の場所が書いてあります。これを見て自分の名前のある場所に座ってください。」
「「「「「はい。」」」」」
4人はプリントに書いてある席表を見てそれぞれの場所へ座っていく。
「鹿倉君は沢中君の隣に座ってください。」
俺の席は一番後ろの真ん中の席だった。すぐ前には晴也もいる。俺が後ろに座ると「後で話を聞かせてもらうよ」とつぶやいた。
「5人には途中からで申し訳ありませんがそのまま授業を聞いてください。」
初めての授業が始まった。
◆◆◆◆◆
キーンコーンカーンコーン…
ベルがなり授業が終わるとすぐに晴也が話しかけてきた。
「時間になっても全然来ないから、どうしたんだと思ったよ。何があった?」
「あはは…ちょっと朝から事件が起こってしまってさ。」
「じ、事件っ?!」
「いやいや、そんな大した事じゃないんだよ。」
「そうなの?」
「いやさぁ、朝から痴姦にあっちゃってさぁ………あはは、参ったよ。」
「えぇっ?!」
クラスが静まり返る。
「………あれ?」
「いやいや、何落ち着いてんだよ!大事件だろ!」
「そ、そうかな?だって尻触られただけだしさ。触ったオバサンだって捕まったよ?」
「し、尻くらい………って、貴司くん!」
ガシッと肩を掴まれる。
「何?何?」
「もっと自分を大事にしようよっ!」
「え、うん。」
「入学式のときもそうだったけど、ちょっと無防備すぎないか?」
「わ、悪い………。」
何だか怒っているようなので、とりあえず謝っておく。
「まったく、今の発言で女達が貴司くんのことをどう思ったか………」
「え?」
周りを見渡すと女の子たちが俺を見てヒソヒソ話している。
「何?」
「多分、隙の多い男だって噂してるんじゃないか?」
「そうなの?」
別に構わないけどね。
「はぁ…まさか貴司くんがそんな人だとは思わなかったよ。」
呆れられてしまった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
━━━昼休み。
隣を見ると弁当を取り出す晴也。
「貴司くんは昼どうするの?」
「俺は学食だよ。」
「僕も付き合うよ。」
「悪いね。」
教室を出ようとすると武居さんたちも出るところのようだ。
「武居さん!」
「は、はいっ!」
「武居さんたちもご飯?」
「え?う、うん………。」
「俺たち学食行くんだけど、一緒に食べない?」
「ちょ………」
「えぇっ?!い、いいのっ!!」
「え?駄目?」
「う、ううん全然っ!一緒に食べたい…。」
顔が赤くなってる。可愛い。
「ちょっとちょっと、貴司くん!」
「いいだろ晴也。彼女たちは俺が痴女されて困ってるところを助けに入ってくれたから、お礼がしたいんだ。」
「あ、そう…お礼…。」
「嫌なら俺だけで武居さんたちと食べてくるけど?」
「……………わ、わかったよ。」
悪いな晴也。この世界の男が女を誘うなんてあり得ないだろうけど、俺は違うんだ。
「じゃ、行こう。武居さん。羽山さん、天坂さん、佐久間さん!」
「「「え?!私たちも行っていいの?」」」
「もちろん!」
「……………。」
晴也は絶句していた。
◆◆◆◆◆
学食は事前精算の食券を買い、食道のオバサンへ渡すと料理を作ってくれるよくあるシステムだ。俺は百円玉三枚を入れてこの中では1、2を争うほど安い肉うどんのボタンを押す。今日は節約しないとな。
「4人は何にする?」
「ほ、本当にいいの?」
「無理しなくても…」
「一緒に食べてくれるだけで」
「気持ちは嬉しいけど…」
4人は信じられないような顔だ。
「これはお礼なんだから好きなのを選んでよ。」
「じゃ、じゃあ…」
4人には、今朝のお礼に昼食を奢ることにした。
信じられない感じで、それぞれがボタンを押していく4人。そのまま呆けた状態でカウンターに食券を出していた。
「ん?あれ?何か静かなような…」
周りを確認すると、唖然とした女の子たちがいた。
「なぁ晴也、これってそんなに珍しいこと?」
「………うん。貴司くんが思ってるよりずっとね。」
俺の振る舞いは悪目立ちしてるせいか晴也がしかめっ面になっていた。
「なんかごめん…。」
何もそんな顔しなくてもいいじゃないか。
◆◆◆◆◆
「いやぁ、席空いてて良かったね。」
食堂は混雑していたので建物の中のテーブルはいっぱいだった。席を確保しなかったのは失敗だと思ったが、食堂の外にはオープンテラスがあり席は結構空いていた。おそらく食堂はセルフサービスだから、持っていく距離が長くなるのを嫌ってのことだろう。
「外で食べるのも悪くないね。」
「そうだな。開放的な感じがする。」
カフェテリアIN学園って感じで、コーヒー飲みたくなる。まぁ、食事は定食屋的ものだけどな。
「あれ?何それキャラ弁?」
晴也の弁当を見ると海苔やフリカケでご飯の部分が顔になっていた。他にもリンゴがウサギだったりタコさんウィンナーだったりと定番の手作り感がある。
「そうだよ。朝早起きして作ったんだ。」
「え?!お前が作ったの?」
「もちろん。」
「へぇ~、すごいな。」
主夫ですな。
それにしてもコイツはスペック高いな。爽やかなイケメンで料理もできるって、チートか!?
「本当だぁ。」
「可愛いじゃん。」
「すごい…」
「キャラ弁??キャラ弁って何なの?」
4人が晴也の弁当に食いついてきた。天坂さんは目をキラキラ輝かせて、羽山さんは流し目しつつ興味津々で、佐久間さんは驚いて、武井さんはよくわからないから教えてほしいと晴也の周りを囲む。
「え………?!」
「あ、あの…沢中君だよね?」
「うん…そうだけど…」
「私、同じクラスの天坂琉卯。よろしくね!」
「私は羽山唯。」
「佐久間華です。」
「え、えと…武井紫苑よ。」
「………よろしく。」
ん?女の子に囲まれてから晴也の様子がおかしい。
「沢中君はどこの中学校から来たの?」
「え?中学?………秘密。」
「あ…そ、そうなんだ…。」
「あ、あの、お弁当って毎日作ってるんですか?」
「弁当?………あ~、まぁ。」
「す、すごいですね。あは……は…」
あからさまに不機嫌な顔をしてる。
「え、えっと…趣味………何でもないです。」
「………はぁ?」
「「「「………。」」」」
晴也の冷たい対応に女の子たちはうつむいてしまった。
「おい晴也!どういうつもりだよ?」
「どういうつもりって?何が?」
「何だよさっきから!ちょっと冷たくないか?」
「は?」
「天坂さんも佐久間さんも話しかけてきてるのに…何でそんなに…」
「別に普通だと思うけど…」
「っっ!!」
「何怒ってるんだよ貴司くん?」
「お、お前…いい加減にしろよっっっ!!!」
「か、加倉君っ!!」
武井さんが目の前で止めに入る。
「武井さん…?」
「いいのよ。私たちが悪いの。」
「え…?」
「ごめんなさい。私たち舞い上がって少し調子に乗ってしまったわ。」
「そ、そうね。女の分際で男同士の食事を邪魔してしまった。」
「「「「沢中君ごめんなさい。」」」」
「なっ!!!」
4人が一斉に謝った。
「いいよ別に。君たちは貴司くんが呼んだんだしさ。」
「あ、ありがとう。沢中君。」
「それじゃ、もう僕には話しかけてこないでね?」
「「「「………は、はい。」」」」
「………な、何で?」
それは言い過ぎじゃないか?
「貴司くんさぁ。もうちょっと常識学ぼうよ?」
「常識?」
「俺たちは男なんだ。特別な存在なんだよ?
それが、そこの…名前忘れた。そこの4人みたいな取るに足らない女と交流なんか持ってどうすんの?無駄な時間だと思わない?」
「………」
「この女たちは、生徒会でも無ければ部活の特待生でも無い。何にもない一般生徒だよ?有用でも無いし、将来役に立つわけでもない。わかるだろ?」
「………」
「それに知ってるか?コイツら女は男の裸の載ってる本を見て興奮してるんだ。汚らわしい。男なら誰でもいいのかって思うね!本当に気持ち悪いよ!!」
「………」
「なぁ貴司くん。君は優しいけど、その優しさは罪だ。僕が男の在り方を教えてあげるよ。」
そういって肩に手をまわしてくる晴也。
「………」
「……あのさ。いつまでここにいるの?」
「「「「!!!」」」」
「君たちさぁ、邪魔なんだよね。これから貴司くんに男のレクチャーするんだからどっか行ってよ。」
「ご、ごめんなさい。」
「く………。」
「あぅ…」
「うぅ…」
「まったく…貴司くんの優しさに付け込んで近づいてくるなんてな。どうせ君たちは俺たちの子種が目当てなんだろう?残念だったね!」
勝ち誇ったような顔で4人を見下す晴也。
「「「「っっっ!!!」」」」
4人は耐えられなくなったのか振り返り立ち去ろうとする。
振り返る寸前、泣いている彼女たちの顔が見えた。
「………だな。」
「ん?何だって?」
「最低だな。」
「え?」
晴也の腕を振り払い立ち上がる俺。
お前がそんな男だとは思わなかったよ。母さんの言う通りだったな。
「最低だなって言ったんだ。」
「は?」
俺は4人に駆け寄って抱きしめる。
「「「「え?!」」」」
振り向いた彼女たちは泣いていた。目を赤くして唇を噛みしめて頬を涙が伝う。
悔しさや悲しさがその表情を見ただけで伝わってくる。
この子たちが何をしたというのだろうか?ただ俺たちとご飯を食べて話をしたかっただけだろうに。
男と話をすることが悪いのか?
一般人だからって話しちゃいけない理由があるのか?
そんなに男が偉いのか?
「俺のせいでごめんね。」
「グス…」
「スン…何で?」
「…か、鹿倉君?!」
「な、何?!」
驚きを隠せない4人。
男を教えるって言ったな晴也?笑わせるな!こっちだって教えてやるよ本当の男ってやつをな!
「た、貴司くん…どういうつもりだよ?!」
「それはこっちの台詞だっていうの。せっかく、仲良くなったのにどうしてくれんだよ?」
「仲良く?正気か貴司くん?」
「当然だろ。こんな良い娘たち、他にいないからな…」
「「「「っ!!?」」」」
「そこで黙って見てろ晴也。」
「何を…」
4人をまっすぐに見つめる。コホンと一つ咳払いをする。
「俺と付き合ってくださいっっ!!!」
お辞儀をして右手を前に出した。
「「「「え、えぇぇぇぇ~~~~~~~~~っ!!!」」」」
静寂が辺りを包む。
この告白は罪滅ぼしだ。
きっと晴也みたいな男はたくさんいるんだろう。だから同じように言われて傷ついた女の子もたくさんいたと思う。それなら、せめて俺が代表して不名誉の罰を受ける。
食堂は相変わらず混雑しているし、外にもたくさんの人がいた。おそらく全校生徒の3割程度といったところか。そんな中で告白してフラれれば、この世界の男であれば尊厳は丸つぶれで外には出れない程のショックを受けることだろう。
今日会ったばかりで、しかも晴也の友達の俺がフラれるのは承知の上。
こんなこと、この世界で育ってきた男のお前たちにはプライドが邪魔をして絶対に出来ないだろ?
そこで見てればいい。泥をかぶっても損をしても命を懸けても可愛い女の子の為に身体を張れる。それが本当の男ってもんだ!!!
「た、た、貴司くん…君は…なんてことを…男のプライドはないのか?」
あるさ。お前にはわからないプライドがなっ!!
「え?え?」
「こ、告白…なの?」
「男が…告白!?」
「まさか…そんな……あり得ないわ……」
4人は困惑していた。
信じられないようで、答えられない。
「は…はは……そ、そうだよ。男から告白する訳ないよ!貴司くんも人が悪いなぁ。付き合うってあれでしょ?冗談でしょ?」
「違うっ!!!」
「!!!」
「俺は本気だ。嘘だと思うならもう一度言うよ。俺と付き合ってくださいっ!!!」
「「「「………。」」」」
早く答えてくれ。晴也がまた変なことを言ってくる前に。
「ごめんなさい。」と一言。いつでも覚悟は出来てるからさ。
ここでフラれてもまた仲良くなって必ず告白を成功させてみせる。そしてその時は君たちを幸せに…
4人が顔を見合わせる。
「「「「よ、喜んでっ!!!」」」」
「…………………へ?」
「夢じゃない?」
「頬っぺた抓ってみて?イタいし!」
「うふふ…。」
「わ、私…幸せすぎて怖い…」
喜んで?嘘…だぁ……だって、今日会ったばかりなのに。
「え?いいの?」
「もちろん!」
「私たちに構ってくれたのは、鹿倉君だけだったから。」
「わ、私は…その…一目ぼれっていうか…」
「い、いいのね?私もいいのね?」
「………。」
「鹿倉くん?」
ははは…俺はこの世界の女の子のことをまだ理解していなかったようだ。
考え直さなきゃいけないのは俺もか…
ガシッと4人を抱きしめる。
「「「「きゃっ!」」」」
「絶対、後悔させない。もう誰も離さないからね。」
一瞬驚くが、次第にトロンとした表情に変わり
「「「「チュッ!」」」」
「あ…」
一斉にキスされた。
「えへへ…好き。」
「格好いいしぃ…。」
「鹿倉君…。」
「素敵…。」
「ふ、不意打ち…のキス………なんか恥ずかしいな……。」
カアァァァと顔が赤くなる。
「「「「照れ顔、可愛いぃ~~!!」」」」
その日、俺に4人の彼女が出来ました。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
~後日談~
あの後、晴也はいつも見せていた爽やかな表情からは想像できない信じられない目つきで俺を一睨みすると食堂を去っていった。教室に戻るとそこに彼の姿は無く、教師からは早退したと聞かされた。その後も、彼が登校してくることは無かった。
しかし、彼はきっとまた俺の前に現れるような気がする。今回は喧嘩わかれのような形になってしまったが、いつかお互い納得のいく決着がつけばいいと思う。
当然だが、食堂の一件は学園中に噂となってしまった。俺は男なのに告白をしたせいで話題となってしまい学園中の女子生徒の間で有名になってしまったのだ。しかも4人同時に告白ということもあって、一夫多妻を認めるこの世界では私も受け入れてもらえるかもしれないという期待が生まれ女子生徒の良い標的になったのである。
クラスではもちろんのこと、廊下を歩いたり、登校中や下校中まで知らない女子生徒に話しかけられるようになった。嬉しいけどね。
何故って?だってこの世界の女の子って、皆美形が多いんだもん。人工授精のお陰か、過去の男が美形の女性を選り好みしたのか、この世界で女性が進化したのか理由はわからないけど美人しかいないのだ。それに、中学のボッチ生活もあって話しかけてきてくれるだけでもありがたいと思う。
ただ、そのせいで一つだけ贅沢な悩みが出来てしまった。それは…
キーンコーン…カーンコーン…
4時限目の終了の鐘がなる。
━━━学園のテラス。昼休み。
この時間は5人で一緒に食事をしながらイチャイチャするのが日課だ。
「はい!貴司君、あ~ん。」
「あ~ん…モグモグ。」
「おいしい?」
「うん。琉卯の卵焼きおいしいよ!」
「え、えへへぇ…」
琉卯はAクラスのマスコット的存在だ。上目遣いが可愛すぎる。料理は本当においしいのだが、例え失敗してまずかったとしてもおいしいと答えてしまうよ。
「次はこっちを食べてぇ、あ~ん。」
「あ、あ~ん…モキュモキュ。」
「どう?」
「うん、うまい。唯ってさ、ギャルっぽい感じなのにおでんとか素朴な料理するところがいいよね!ギャップ萌えっていうのかな可愛い!」
「え?嬉しいっ!チュッチュッ!」
唯はギャルの見た目通り積極的な女の子だ。キスやハグで好意を示してくれる。ただ、たまに見せる素朴さも好きだな俺は。
「た、貴司さん!私のも食べてください!」
「あ、あ~ん…モゴモゴ。」
「どう、ですか…?」
「もちろんおいしいよ。こんなにおいしいカボチャの煮っ転がしなんて初めて食べたかも…」
「うふふ。実は私、最近は料理教室に通ってるんです。貴司さんに美味しいものを食べてもらいたくて。」
華は古風で落ち着きのある女の子。努力家で俺を喜ばせるために頑張ってくれているみたいだ。俺も負けてはいられないな。
「わ、私だって頑張って作ってきたのよ!貴司!あ~ん!!」
「ちょ…あむ。フゴフゴ。」
「ねぇ、少しは美味しくなった?」
「う~ん。昨日よりはおいしくなったよ。」
「本当!?」
「う、うん…」
「わかってるわよ!私は昔から料理苦手だったんだから…」
「お、落ち込まないでよ。ね?」
「だって…」
「も~。紫苑はいつも自信満々で凛としてる癖に、なんで苦手なものになるとこうなるかなぁ。」
「うぅ~…」
「仕方ないな。」
紫苑を抱きしめて撫でてやる。
「ふふふ…」
幸せそうに目を細めて身を委ねてくる。
紫苑は真面目な性格でAクラスの委員長だ。ちょっとツンなところもあるようで、ついついからかいたくなってしまう。デレたときに可愛いからな。
「ず、ずるいっ!」
「そうですっ!!」
「私にもやってほしいんですけどぉ!」
「ごめんごめん。それじゃ、琉卯から…」
「「「「「鹿倉くぅ~~~ん!!!」」」」」
パタパタと走ってくる女子生徒。同じAクラスの人たちだ。
「「「「あ…」」」」
「「「「「私たちも混ぜて~~。」」」」」
「ちょ、ちょっとあなた達、空気読みなさいよねっ!!」
「まだ食事の途中だもんね!」
「まったくその通りだし!」
「今は貴司さんの“彼女”である私たちの時間ですっ!!」
そうなのだ。例の一件で有名になった俺にアプローチしてくる女子生徒が後を絶たなくなってしまったので、生徒会長に相談したところ女子生徒と男子生徒が別々になるようにAクラスと他のクラスの昼休み時間をずらすことになったのだ。
加えて、俺のAクラス内では昼休みは休戦協定を結んでおり、俺へのアプローチは禁止となっている。彼女である4人を除いて。
だから、彼女たちは怒っているのだ。約束が違うと。
「え~とね~。」
「邪魔しに来たんじゃないよ~!」
「そうそう!」
「昨日、鹿倉君と約束したからぁ!」
「したしたぁ!」
「「「「え?!」」」」
「あれ…そうだっけ?」
「ひどぉい!」
「約束したのにぃぃ!!」
「えーんえーん!!」
「ご、ごめん!!」
「一緒に食べてもぃぃ?」
「う、うん。」
「「「「「やったぁ!!」」」」」
「もぅ。貴司は甘いし!」
「そうですっ!」
「こ、今回だけだよっ!」
「約束なら仕方ない…」
ほっ。4人が認めてくれて良かった。
本当は約束なんかした記憶は無いけど、喧嘩なんかされたらたまったもんじゃないからな。まあ、この5人は同じAクラスなんだし、たまには友好を深めるのも悪くないだろう。
「ごめんね皆。」
「「「「優しいのはいいけど。私たちも大事にしてよねっ!!」」」」
「もちろん、わかってるよ!」
せっかく彼女になった4人との時間が少ない。本当に贅沢な悩みだ。
だけど、安心してくれ。もう少しすれば夏休みが始まるじゃないか?
学園にいなければ、こんなにアプローチされることもないと思う。だから、その時こそは彼女たちとめいいっぱいイチャイチャして、愛を育もう。
俺の学園生活は始まったばかりで、これからもたくさんの困難が待ち受けている。
晴也との因縁、今回の騒動で作ってしまった生徒会長への借り、止まらない女子学生のアプローチ、試験、夏休み、体育祭、文化祭、冬休み、春休み…。
どこまでやれるかわからないが、精いっぱい生きていこう!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
こんな異世界にいったらどうしますか?と問われたら、俺は迷わずこう答える。
『ハーレムを作ります。』
(終わり)
今回、初めて投稿致します。
手直しをしているとはいえ、ほぼ着の身着のままで書いたものですから他作品に似た部分もあるかと思いますが、どうかご寛大なお心でお許しください。
私は男女あべこべの物語が好きで、読ませて頂いている作品の影響で妄想が抑えられず短編を書くに至りました。あべこべのお好きな読者様方におかれましては、お読みなっている連載小説のせめてもの暇つぶしになればと思います。
お読み下さった方、本当にありがとうございました。