光源氏計画とも言える
ブックマーク50件!
ありがとうございます。
続きを書いています。
「何だ?」
人が出払い、静かなギルドの表から赤子の鳴き声が聞こえた。
ギルドの町に赤子が居る事など無いと言って良いくらい無い。
扉を開けるとカゴに子供がいた。
「捨て子か」
捨て子は、そう珍しいものではない。
子供を育てられない親は協会の前に置いていく。
ただし、ギルドの前に置いていくことは無い。
「何でまたギルドの前に」
カゴごと抱き上げると理由は分かった。
瞳の色が人の色では無かった。
魔獣と人の合いの子。
母親が魔獣なら育てられるが、人の場合は受け入れられず捨てられることが多い。
「無責任な魔獣がいたものだ」
たいていは、魔獣であることを隠してひと時の恋を楽しみ、そして別れる。
子供がいることを知らずに。
人の母親は産んで、合いの子であることを知り、育てられず捨てることになる。
「まだ母に愛されていたのは幸いだな」
風邪をひかないように服を着せ、ギルドの前に置くのは、まだ子供に取って幸せだった。
ギルドなら魔獣が出入りするため育ててもらえることが多いからだ。
「さて、名前をどうしようか」
「ルルーシェ、こっちへおいで、お菓子をあげよう」
「ありがとう」
ギルドで色々な魔獣に可愛がられ、三つに成長したルルーシェはギルドのマスコット的存在だった。
「キィ、キィ、お菓子貰った」
「良かったな、ルル」
カウンターの中で豆を剥いていたキルシェはルルーシェの頭を撫でた。
「ルルもお豆むく」
「なら手伝ってくれるか?」
ルルーシェを膝に乗せて豆を剥きやすいように支える。
小さな手で筋を取ると、莢から豆をひとつずつ外す。
「ルルーシェはえらいなぁ、ちゃんとお手伝いしてるんだな」
「ルル、お豆好き」
時々、力加減を間違って豆が潰れるが潰れた豆はスープにでもする。
ルルーシェの特徴から魔獣の種族は判明した。
それが性別を自在に操れる魔獣だったのが問題だった。
「マスター、ルルーシェの父親が分かったぜ」
「ようやくか」
「下っ端でな、成人したばかりの魔獣だったからな。知ってる奴がほとんど居なかったんだ」
ルルーシェの中で少しずつ魔獣の片鱗が出てきていた。
キルシェを唯一の存在と認識しだしている。
「それで、一族は何と言っている?」
「合いの子であろうとも一族の血を引き継いでいるのなら引き取ると、ただし、一族の中に伴侶を見つけることは難しいとも言っていたな」
「合いの子だからか?」
「いや、ルルーシェの唯一がすでに存在するからだ」
ルルーシェの一族は合いの子が多数存在する。
完全な純血という者はほとんどいない。
「唯一」
「気付いてるんだろ?」
「あぁ、ルルーシェは俺を選ぶだろうってことはな」
「一族は、協力は惜しまないそうだ。それと父親の方は別の恋人を見つけて宜しくしているそうだ」
ルルーシェの父親になるつもりは元よりないようだった。
あと10年もすればルルーシェは自分の種族の性質に気づくだろうし、父親のように無責任な行動を取られても困る。
「仕方ない、ルルの思うようにさせるか」
「そのほうがいいぞ」
「キィ、お豆剥けたよ」
潰れていない豆を数える方が簡単なくらい原型を留めていないがキルシェは気にしない。
ルルーシェの手を拭きながら手早く片付ける。
「ルル、ギルドのお手伝いしてくれるか?」
「するっ」
「明日から掲示板にルルへのお願いを張り出しておくから出来たら報酬と交換だ」
家のお手伝いだけではルルーシェが満足しなくなっているのを気づいていたキルシェはルルーシェの一族が判明したことをきっかけに解禁することにした。
「ルル、俺たちの仲間入りだな」
「うん」
ギルド所属の証にカードが発行される。
ルルーシェは欲しいと駄々を捏ねることもあるくらい欲しがっていたものだ。
「さて、店仕舞いにするか」
「ルル、また明日な」
「またあした」
ギルドは基本24時間で営業しているが、ルルーシェを育てるようになってから夜は閉めることにした。
ハンター達から文句が出ること無く受け入れられた。
時々、流しのハンターから文句が出るが、隣の宿屋の女将が黙らせている。
「豆のスープとパンと果物を食べたら寝るぞ」
「ルル、お腹空いた」
「いっぱい食べような」
階段を登ればプライベートの部屋になり、ハンター達も入っては来ない。
手早く食事を作り、風呂に入って寝る。
ルルーシェがあまり長く起きていられないからだった。
「キィ、ルルへのお願いがあったよ」
「じゃぁ、依頼委託証明書作るから持っておいで」
「お願いしましゅ」
掲示板の一番低い所に貼ってある依頼書を剥がしてキルシェに渡す。
内容と報酬が破格だが、ルルーシェ用の依頼のため誰も手を出さない。
「薬草の実を10個、これが証明書だ。期限は夕方までだから寄り道するなよ」
「だいじょうぶ」
薬草の実は、薬草畑に行けば3分もしない内に見つかる。
本当にルルーシェのためだけの依頼だった。
時々、流しのハンターが依頼を見つけて受けようとしてルルーシェと喧嘩することがあった。
「本当に、大丈夫なんだろうか」
「ここらの奴はルルーシェを知っているし大丈夫だ」
「だと、良いけどな」
キルシェの心配をよそにルルーシェは依頼を完了し、成長していった。
気づけば、10年が経っていた。
少年と言ってもいいくらいに成長し、そしてルルーシェの種族からすると成年を迎えた。
「キルシェ、依頼終わったよ」
「今日は、これで終わりだ。表の灯り消してくれ」
「分かった」
蝋燭の灯りを吹き消すと、ギルドのエンブレムを外す。
身長が伸びてからの日課となった。
「あつ、まだ間に合いますか?」
「たぶん」
身なりでハンターだということは分かったが、自分とそう変わらない年齢の人間を見ると警戒をしてしまう。
案内をするつもりもないルルーシェはギルドに入ると何も言わずに二階に上がった。
「すみません、まだ間に合いますか?」
「あぁ、許可証を見せてくれ」
「これです。・・・先ほどの方もハンターですか?」
「盗賊の盗伐、か。今、警邏に確認するから待ってくれ。・・・あぁ、ハンターだ」
ギルド総括本部へ確認依頼をする。
どこでも連絡が取れる魔法具がギルドには設置されていて確認ができる。
「ずいぶんと若いハンターがいるんですね」
「そうだな」
「もう少し、礼儀というものを教えるべきではありませんか?」
口調は丁寧だが、気に食わないというのがありありと分かる。
本題は、これであるというのもすぐに分かる。
「必要ないだろう。家付きハンターばかりだからな。態度が悪いとしても自分の依頼に影響が無ければ関与しないさ。それぞれの縄張りは不可侵でバランスを取っているからな」
「それでも、新米なら先輩に対しての礼儀を持つべきです」
ルルーシェの方が年下だというのは間違っていない。
でもハンターとしての実績としてはルルーシェの方が圧倒的に上だ。
「少なくともハンターとしては新米ではないな。確認が取れた。金貨10枚と銀貨5枚だ。宿なら隣だ」
報酬を机の上に置くと、キルシェは二階に上がる。
納得いかないとしてもギルドのことの決定権は全てマスターにある。
マスターの機嫌を損ねてハンターを廃業した人間を何人も見た。
「さて、機嫌を取るのが大変なんだが」
ルルーシェを下だと見て掴み掛る若手ハンターは多い。
その都度、ルルーシェは機嫌を損ねていた。
下っ端扱いをされたことにではなく、キルフェに近づく若いハンターに嫉妬してだ。
「ルル、夕飯はどうした?」
「食べた」
「そうか」
言ってしまいたい気持ちを抑えながらルルーシェが葛藤しているのにキルシェは気づいている。
昔は、もっとはっきりキルシェに近づくなと言っていた。
少しずつ大人に近づくにつれて言えなくなり、今ではへそを曲げるという態度で誤魔化していた。
「ルル、おいで」
「・・・」
「ルル」
子ども扱いされるのも嫌だが、キルシェに触れないのも嫌という相反する思いを抱えていた。
「明日で15歳だ。人の年齢でも大人だ。最後に俺に子ども扱いさせてくれ」
「キィ」
毎回、大人になったら子ども扱いが出来ないからという理由で抱き上げる。
「さてと、一日早いが誕生日プレゼントだ」
「キィ?」
「ルルーシェ、好きだ」
目をまん丸にして驚きの表情をする。
「ずっと待ってた。ルルが大人になるのを」
「キィ、俺、人じゃない」
「知ってる。だけど関係ないだろ。ルル、俺と一緒に居てくれ」
「うん」
年の差好きです
二人の珍道中とか書きたい