『クイン・テリアヌス魔法学院』
──アナスタシア公国──
大陸七大国の一つであり、人口は1000万人と小さな国だが、大陸の中でも有数の(魔導剣士)《ウィザード》輩出国として知られている。
アナスタシア公国には、クイン・テリアヌス魔法学院があり、数々の(魔導剣士)《ウィザード》を輩出している。その学院の校長室に向かっているらしい、アリスの隣を歩きながら、創は今日何度したか分からない質問を繰り返した。
「なぁ、お姫様。僕が騎士だなんて……何かの冗談だろう?」
「ここまで来ておいて、はい冗談でした。何て言うと思う? 後、その『お姫様』って言うの止めて頂戴。同い年なんだから、『アリス』でいいわ」
「そんな事言われても……」
と、渋ろうとしたら……、睨まれた。物凄く怖いなー、なんて馬鹿げた感想が浮かんだが、これ以上アリスの逆鱗に触れたくないので、この感想は胸にしまっておこうと誓う。代わりに、質問を飛ばす。
「ねぇ、アリス……」
「何かしら? ハジメ」
ちょっと発音に間違いがあるが、元々、(創)《ハジメ》という名前はこの辺りの地域のものではないので、そこは置いておく事にして。
「何で僕らは学院に、しかも校長室なんかに向かっているんだい?」
するとアリスは、あの不敵な笑みを顔に浮かべた。
……、数秒、いや、数十秒程そうしていたと思う。何か嫌な予感しか浮かばないんだが……。
「もちろん、貴方の入学手続きをしに行くのよ」
さらっと言いやがった、このアマ……、何で僕が学院なんかに通わなくちゃいけないんだ! なんとしてでも止めさせなければ……、彼女がまた、独りぼっちになってしまう……。
そうこうしているうちに、校長室と書かれた看板が掛かっている、部屋の前に着いていた。
アリスが、部屋の扉を開け放つ。そして、正面にある、校長机とおぼしき物に腰掛けている人に話しかけた。
「校長、彼が新しく入学する事になった、『稲沢創』です」
「あらー、そうなの? 貴方が噂の『魔性の剣士』さん? 入学おめでとう」
勝手に入学が決まっていた……。
「ねぇ、校長さん。ちょっと待ってください。僕は昨日まで普通に暮らしたんですよ? いきなり騎士とか、学院とか無理ですよ」
「いや、貴方なら出来るはずだわ。なんせ、あの『稲沢一樹』《いなさわかずき》の血を引いているんですもの」
校長が放った一言に、創は凍りついてしまった。無理もない。その父親こそが、創が何もかもを投げ出して、逃げた理由なのだから。
「あれ、創君? 創君?」
校長の呼び掛けで、はっ、と我に返った創は、慌てて言葉を探しだす。
「あ、すいません……、って、そうじゃなくて! 僕は、学院には入りたくないんです」
「ハジメ! あんたここまで来て、今さらやめるとか言わないでしょうね!」
「そもそも、僕は学院に入学するなんて聞いてないよ!」
「はいはい、二人共、喧嘩はそこまで。双方共に譲れないなら、(決闘)で決めればいいじゃない」
「はっ、いいわね、そうしようじゃない。あんたが勝ったら、手続きは止めてあげる。でも、私が勝ったら、入学してもらうわ」
もう、お姫様口調なんて何処へ置いてきたのか、強気な笑みを顔一杯に浮かべ、アリスは僕を、その(藍玉)《アクアマリン》の瞳で見つめ、僕の返事を待っている。
「はぁ……、分かりました。(決闘)で決めるんですね? その話、乗りますよ」
こうして、僕とアリスの(決闘)は決まったのだった……。