消えたがり
消えたい。
彼女がそう呟くたびに私の中の何かがきゅうっと締まり、身体は震えだす。彼女が消える?何故?そんなことあってたまるものか。
死にたいわけじゃないの。
彼女はぎこちない笑みを薄ら浮かべた。死にたくはないが消えたい。彼女は自分の存在を消し去りたいのか。誰の心にも残らず、誰にも気付かれずにただひっそりと。
残念ながら無理なことだ。
私の中は彼女で満たされている。消すことなんて、存在を忘れることなんて出来るわけがない。仮に私の中から彼女が消えたとしよう。私には何が残る。何も残らないはずだ。彼女が世界から消えることがあっても、私だけは彼女を忘れない。私が一番、誰よりも彼女を思い、愛してきた。
しかし何故だ。
彼女とは誰のことで、どんな人だっただろうか。心に大きな穴があいている。
私の中から彼女が消えた。