中立マンフォーエバー
この作品は筆者の作である「私を魔医者と呼ぶなッ!」の中で登場したキャラクターのスピンオフ作品となります。もし、そこからの読者で無い方は、魔医者の80話から見た方がまだ理解が出来ると思います。
中立。
それは善でも無く、悪でも無い所にある中間点。
男でも無く女でも無い。
魚でも無く人でも無い。
浮気でも無く本気でも無い、そんな所にある中間点。
この物語はその中立を守ろうとして、やや悪寄りの組織である、
「ヤヤーク」との闘いを繰り広げて行く、中立マンと呼ばれる者達の日々の物語……
「あのー、スンマセン、一週間前に面接をしたモンなんですけど、まだ連絡が来ないんですよー?これってアレっすか?落ちたって事で良いんすか?」
ボロアパートの窓を開け、ケータイ片手の男が外を見る。
見た目の年齢は20前後。
髪は茶色で、痩せてはいるが、冴えない風体の男である。
名を、イサダヨシオと言い、童貞では無いが素人童貞。
彼女はおらず、友達も居ない。
加えて今は職も無いと言う、終わりへの始まりな生活をしていた。
そんなヨシオもイカンと思い、一週間前に面接をしたのだが、それの答えが返ってこないので、思い切って相手に電話をしたのだ。
「あー、スミマセン!今回は見送らせて頂くという事です。履歴書はこちらで処分して置きますので、御縁が無かったという事で、失礼させていただきますぅ…」
「あっ!?ちょまっ!?写真返っ……クソッ!!」
しばらくを待って返って来たのは、残念ながらの不採用。
せめて写真は返して欲しかったが、それすら叶わずに電話を切られた。
「ヤベー…マジヤベー…明後日、家賃の引き落としだよなぁ…すぐに出て行けって事はないだろうけど、払う見通しが全くつかねー…」
窓を背にしてヨシオは座り、絶望感に項垂れる。
直後にケータイが小刻みに震え、メールが届いた事を知った。
タイトルは「オハ!!」。
差出人は「Ⅾ」とある。
何だと思って調べてみると、セクシーな大根が映されており、したーーーーーの方にたったの一言、
「勃起した」
とだけ書かれてあった。
「アホか!!ってかうぜぇ!!」
思わずケータイを投げるヨシオ。
しかし、布団を狙った為に、投げたケータイに損害は無い。
Ⅾ。
それはヨシオが所属する「フリーマン」という組織の司令官で、普段は八百屋を経営してるタケシと言う名の人物だった。
年齢はおそらく50前後。
髪は黒でテンパが激しい。
顔は渋く、声も渋いが、それとは反して未だに童貞で、人妻のレイコさんに夢中になって、1000万以上を注ぎ込んでいた。
「もうすぐヤれる…」
そう呟いては、ATMから金を下ろす毎日。
知人や友人は「やめとけ…」と言ったが、彼は聞く耳無しである。
そんなⅮと出会ったのは、ヨシオが飲食店をクビになった頃で、その後にまぁ色々あって、ヨシオは中立マンレッドとなった。
そして、ヤヤークの怪人である「ブラック・バース」を撃破して、フリーマンの一員となったのである。
あれから一度も出撃は無いが、メールはほぼ、毎日届き、こうしてシカトをしてしまった時には…
ヴーン、ヴーン…
と、ケータイが震え、催促のメールが届くと言う訳だ。
ちなみにこれを無視すると、やがては電話での直攻撃になり、それすら無視するとピザやら寿司やらの偽注文攻撃が始まる事になる。
「ああーークソ、メンドクセー…」
故に、ヨシオは無視が出来ずに、一応の形で返信を打つ。
ちなみに二度目のタイトルは「しまった」で、セクシーな大根に白い液体がかけられている。
そして、やはりしたーーーーの方に、「練乳がこぼれた」と書かれてあった。
「練乳じゃねーだろ…何やってんだこいつ…」
そうは思うが、「そうか」と言うタイトルで、「面接落ちた」と言う内容で送る。
ヨシオとしても寂しかったし、誰かに構って欲しかったのだ。
「……」
が、2分、3分と待っても、Ⅾから返されてくる反応は無し。
「クソッ、勝手な野郎だな…」
自分の事だけを言えれば良いのか、と、結論付けてヨシオは立った。
トイレに行って用を足し、手を洗うついでに顔も洗う。
食べるモノを探して冷蔵庫を開けるが、入っていたモノはコン〇ーム(未使用)だけだった。
「なーんもねー…何か買いに行くかー…」
せめてもの足掻きで自炊を決めて、服を着替えてケータイを持つ。
「あれ?届いてる…?」
気付くとメールが1通あった。
Ⅾから届いた返信である。
タイトルは「Re そうか」で、近所のレストランの名前が本文にあり、その下に、
「今すぐここに行け。判子と通帳も持って行くように」
と、意味が分からない事が記されていた。
「何だぁ…?もしかしておごってくれんのか…?」
シカトをすると面倒なので、タイトル無しで「了解」と送る。
それから指示通りにそれらを持って、ヨシオは渋々部屋を後にした。
近所のレストランを訪れたヨシオは、その店のウェイトレスにいきなり捕まった。
年齢はおそらく20才程。
黒髪で、清楚なイメージの女性だ。
その女性に連れられるまま、テーブルの1卓にヨシオは連れられ、しばらくしてからやってきた店長に、いきなり面接をされるのである。
「まぁ、採用前提なんだけど、一応、ちょっと聞いておきたくて」
第一声がそれだったので、ヨシオの瞬きが更に早まる。
「ど、どういう事ですか…?」
と、挨拶もせずに聞くと、店長らしき男は「え?」と言い、事情を話してくれたのである。
それによると彼女…シノハラチドリは、このレストランの準社員らしく、ヨシオの方では知らないのだが、ヨシオを知り合いとして紹介したらしい。
そして、その事によりヨシオは急遽、店長と面接をする事になり、採用前提で一応の質問をされるという訳なのだ。
「(どういう事だ…あんな可愛い子に知り合いなんて居たか…?ていうか、女の子自体に知り合いなんていねーし…)」
そうは思うがそうとは言えず、些細な質問をよどみなく答える。
「明日から大丈夫?」
「あ、あ、はい…何時ですか?」
それには店長が「21時~ラストで」と言うので、素直に「はい」とヨシオは答えた。
「あ、4日後にもう一人入る予定だから、歓迎パーティとかはその日という事で。ラストの連中はみんな出るんで、イサダ君も予定を空けといて」
採用手続きを進めつつ、顔を向けずに店長が言う。
これにも「はい…」と短く答え、手渡された書類に軽く目を通した。
そこで目にした時給は700円。
「少な!!」と思うが贅沢は言えない。
「じゃ、明日からよろしくね」
書類をまとめて店長が立つので、一応立って頭を下げた。
「(深夜時給でなんとか1000円か…ま、食事補助とかも付くんだろうし、食って行くだけならなんとかなるか…)」
そう考えて納得し、書類をまとめて卓から抜け出す。
「あ…」
その際に、先の女性と目が合ったので、何かを言おうとして立ち止まった。
「……」
が、女性はそれに気付いたが、何も言わずにどこかへ移動。
「(意味わかんねぇし感じ悪ぃな…ま、可愛いのは認めるけどさ…)」
それを見たヨシオはそう思い、店を後にして買い物に向かった。
Ⅾに対してメールを送るも、その日の内には反応は無く、翌日の朝にはいつものように、セクハラメールが送られて来た。
タイトルは「らめぇぇえ!」で、映されていたのはマツタケ。
どこで仕入れたのかアワビに押し付けて、下には「壊れちゃううう!」と付け加えていた。
「(根回ししてくれたのはコイツじゃないのか…?いや、でも、面接落ちたの、コイツにしか話して居ないよな…)」
そうは思うがスルーをされたので、何だかヨシオもお礼がし辛く、
続けて送られたメールが「しまった」で、「練乳がこぼれた」と言う内容には、色々な意味で「大丈夫か?!」と言うメールを送らざるを得ないヨシオであった。
翌日からヨシオのバイトが始まった。
かつて飲食店に勤めていただけはあり、ヨシオの飲み込みはそれなりに早く、片付けに皿洗い、食材のチェック等、店長が一度教えた事を、自分なりに昇華してこなして行った。
「いやーなかなか大したもんだよ。これなら1週間もやってもらえば、殆どの事は出来るようになるかもね」
これは店長で、聞いたチドリは感動も薄く「はぁ」と答える。
「なんか冷たいねぇ、知り合いなんでしょ…?」
と言う、それには一応「ええ」とは言ったが、ヨシオと目が合うとすぐに逸らして、用も無いのにフロアに出て行った。
「(感じわりぃーよ…意味わかんねぇーよ…でもクソッ、ホント可愛いなぁ…)」
好みではあるのでそこは我慢し、閉店に向けて床を磨く。
なんだか納得が行かない点はあるが、職場にチドリが居るお蔭で、仕事が少し楽しい事はヨシオにとっては確かな事だった。
それから3日がすぐに過ぎて、もう一人の新人が姿を現す。
その年齢は23才。
昼間はサラリーマンをしているらしく、脱サラして店を持つ為に掛け持ちをしたいと言うイケメンだった。
故に、初日の評判も良く、歓迎会では殆ど主役。
同じ新人のヨシオは隅で、一人で寂しくウーロンハイを飲んでいた。
「シノハラさんって可愛いですよね…俺、凄い好みなんですけど…」
「!?」
そんな爆弾発言は新人の口から不意に発された。
聞いた皆は「おぉー!」驚き、二人の顔を交互に見ている。
「(アホか!シノハラさんはそんな言葉で、容易く落ちる要塞じゃねーんだよ!)」
思いながらにチドリを見ると、彼女は頬を染めていた。
顔を逸らしているからこそ、ヨシオの位置からは丸わかりである。
「ぶっ!?」
まさかの事にウーロンハイを吹き出し、店長の後頭部を濡らしてしまう。
「い、イサダくうぅぅん!?」
「す、すみません!ほんっとすみません!!!」
と、必死で謝って許して貰い、トイレに行くと言う店長に同行し、出来る限りの事をした。
戻って来ると皆が立ち上がり、どうやら解散の様相を見せている。
「(え…俺ウーロンハイしか飲んでないんだけど…)」
それでも割り勘で一人1200円。
納得の行かない出費であったが、渋々払ってレジに並ぶ。
「この後、時間ありますか?」
これは新人の男の問いで、聞かれたチドリが「あ、あの…」と返す。
「ちょっと、シノハラさん嫌がってるじゃん」
と、助け舟のつもりで言ったヨシオだが、
「あ!大丈夫です!…空いてます」
と、チドリ本人に言われてしまい、悶絶したい衝動に駆られるのである。
その理由は2つ。
ひとつは気まずい。
もうひとつは、憧れの女性があっさりと、男の誘いに乗ったと言う事だ。
「じゃ、お疲れー…」
飲み屋の前ではそう言って別れたが、しばらくするとヨシオは走り、
「ああああああああああああああ!!!!!」
と言う大声を発して泣いて、我が家の蒲団に飛び込むのである。
翌日からはその新人と、チドリは明らかに仲良くなっており、ヨシオはどこか居場所が無くて、つまらない日々を過ごす事になって行く。
-----------中立マーン!!イェェェ!!(CM)--------------------
皆さんこんにちは!
今日の30秒クッキングの時間です!
進行役は永遠の16才!でも実際はピーーー才の元アイドルのミコにゃんと!
「くりすてぃーぬです…82才です…Gさんと出会ったのは22の時で、Gさんはいきなり馬乗りになり、ワシの着物を引き裂きま…」
はい!クリスティーヌさんとお送りします!!
まず、先週の創作パッフェについて、色々とご意見を頂きました!
材料が分からない、途中でキレてる。
ていうかクリスティーヌさんがそもそもキレてる。
等、御意見の内容も様々です…
「嫌よ嫌よも好きの内、やがてはワシも感じ始め…」
あああああああっ!!?
クリスティーヌさん!!生放送なんですから!!
もうそういうのはやめましょうねっ!?
はい、それでは今日のお料理!今日のお料理にイっちゃいましょう!
「ドピュピュっとな」
クリスティーヌさん!?
「最初はワシは山芋かと思い、思わず口に含んだものです」
あーもう無理!!こんな番組無理ィィィ!!!
このババー早く引っ込めろヤー!!!?
「ヒャッハー!ちん〇ーーーー!!!」
(しばらくお花畑をご覧ください)
--------------中立マーーーン!!どっせえいい!!(CM終わり)----------
「うーん…何だろうなぁ…」
ある日の閉店作業中。
店長室に篭った店長が、誰にともなく一人で言った。
「何がですか?」
と、聞いたのは、近くで掃除をしていたヨシオで、店長は「うーん」と唸った後に、ヨシオの疑問を晴らしてくれた。
「ドリンクバーとか、アイスバーとかが、売り上げと全く比例して無いんだ。多分だけど注文してないのに、飲んだり、食べたりしてる客が居るんだと思う」
それには「あー」と一言を言い、「でも、割に居るでしょう?」と言葉を続ける。
「居るのは居るけどこれは異常だよ。少し前まではそんな事は無かったし、もしかしたら他店の嫌がらせかもなぁ…」
店長はそれに答えた後に、頭を掻いてパソコンを見た。
「すみません、お客様2です」
そんな時に入店を知らせるチドリの声が聞こえて来る。
閉店まではあと3分。
しかしながら客は客なので、顔を顰めて「いらっしゃいませー」と答える。
「もし出来そうだったら一人でやってみて下さい。駄目だったら呼んでくれて構わないんで」
これはキッチンの中に居る新人の男に向けたもので、ヨシオはフロアとキッチンの境目で、とりあえずの形で掃除を続けた。
ピーピーピー…
しばらくしてから入ったものは、ナポリタン2つとカラアゲ1つ。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
聞くと、答えが返って来たので、ヨシオはそのまま掃除を続けた。
「……」
それでも一応先輩として、新人の動きをこっそりと見る。
「ゲールゲルゲルゲルゲル…」
すると、角度で良くは見えないが、新人がから揚げに何かをしたように見えた。
そればかりか笑い声のようなものを発し、背中と肩を震わせている。
「(つ、つまみ食い…か…?)」
良く分からないのでそう思い、出されたから揚げを確認してみる。
数は6つ。規定数だ。
かじっていると言う跡も見えない。
「(気のせいか…)」
と、首を傾げて、それを持って行くチドリを眺めた。
その後の数分でナポリタンも完成し、これには何もせず新人は皿に盛る。
「(ニオイを嗅いだだけかな…?)」
と、結論付けて、モップを絞って掃除箱に入れた。
「あ、あのお客様…申し訳ありませんがこちらは有料で…」
聞こえて来たのはチドリの声だった。
フロアの、ドリンクバーが置いてある辺りだ。
こっそり覗くと客の一人と、チドリがどうやら揉めているようで、それに気付いた店長が出て行くと、客もようやく収まったように見えた。
「何だったんですか?」
「ドリンクバーを使おうとしてた。注文無しで。それで逆切れしようとするんだから、夜中の客は困ったもんだよ」
聞くと、店長はそう言って、両手を広げて店長室に向かう。
「ちっ」
と言う舌打ちがキッチンから聞こえ、ヨシオは振り向いて顔を顰めた。
「さ、じゃあ閉めましょうか先輩。閉店ギリギリとか迷惑ですよねー」
「あ、ああ…」
その言葉にはそう返したが、ヨシオの中には疑問が生まれる。
「(まさかこいつが何かしたのか…?)」
そう思いながらに作業を進め、ゴミ箱を抱えて店の裏に行く。
「先輩…」
「うわあ!?」
そして、自分を追ってきた新人の男にまずは恐怖。
それから振り返り、「な、何ですか?」と聞くと、
「見てましたよね?僕が作ってる所…」
と答えて、男は「にやり」と笑うのである。
「み、見て無い…何も見て無いよ…?」
一応言うが、それは無駄だった。
男が黙って首を振り、「嘘はやめて下さいよ」と言ったからだ。
「だって先輩確認してたじゃないですか。何かしたって分かってたんですよね?何で見たんですか?僕が気になった?それとも僕が嫌いだった?自分の好きな女の子を横取りしたからムカついたんですか?」
「あ、いや別に…そんなんじゃ…」
「じゃあ良い事教えて上げますよ。あの子、先輩の好きなあの人。歓迎会の日はまだ初めてでした。でも、その日から毎日やりまくりだから、もう僕に夢中ですけどね?」
直後のそれにはヨシオは絶句し、目を見開いて立ち尽くす。
絶望、悲しみ、そして怒り、様々な感情が一気に沸き起こり、どうして良いのかが分からなかったのだ。
「な…んで、そんな事を…?」
何とか聞くと、男は笑い、「その方が悔しいでしょ?」とヨシオに答える。
「悔しいよ…!でも何でだよ!言う必要なんてねーだろうが!!」
その事により怒りが増して、ヨシオはようやく拳が作れた。
こいつはクズだ。イケメンだが、そういう意味ではこの男はカスだ。
ぶん殴ってやる。
そう思い、ヨシオは一歩を踏み出すのだが、男はその前に屋上に跳躍。
「ギールギルギルギルギル!!!」
着地した後に高々と笑い出し、自身の体を白煙に包んだ。
「ま、まさか…!?」
まさかの事に驚いていると、白煙が引いて何かが現れた。
それは、例えるならゲル状のヘチマ。
緑の泡を体に纏った、ヘチマ人間のようなものであった。
「俺様はヤヤークAランクの怪人!その名はズーズーシーゲル様だ!!人々を少しずつ図々しくする。それが俺様に与えられた使命!!それを知ったイサダヨシオ!貴様は最早生かしておけーん!!」
店の屋上からヨシオを指さし、男、改めズーズーシーゲルが言う。
「いや、全然見抜いて無かったです!!!」
と、本当の所を言って見たが、「ゲールゲルゲルゲルゲル!!!」と聞く耳持たずだ。
「こっちよ!!急いで!!!」
裏口の戸が開き、誰かが現れる。
「チドリさん!?」
それがチドリであったので、まずは驚くヨシオであったが、直後に腕を掴まれて、店の中へと強引に入れられた。
「私はここで変身するわ!あなたは控室で変身して来て!」
「は!?変身!?チドリさん今、変身って…?!」
「良いから早く!!」
怒鳴られた為に更衣室に行き、中立マンレッドに変身をする。
それから出ると、裏口への通路には、頭に「中」の文字が付いたピンクの衣装の何者かが立っていた。
「行くわよ!!」
「ゲルウッ!?」
すぐにも言って裏口を開け、正面に立っていた怪人を突き飛ばす。
それから屋上に飛び上がり、怪人が飛んだ後にヨシオも飛んだ。
屋根の上にはヨシオとピンク(の何者か)、それに加えて怪人が居る。
周囲のビルは真っ暗で、誰も見ている様子は無かった。
「ゲールゲルゲルゲルゲル!まさか中立マンピンクまでが居たとは!貴様らを倒せば俺様も大出世よぉ!!」
怪人が言って仲間を呼んだ。
「ヤー!!」
「ヤー!!」
すぐにも現れる戦闘員達。
その数は10人。
遠巻きに包囲し、軽快なステップでこちらを伺う。
「ちゅ、中立マンピンクって…まさかチドリさん…?」
「その話は後よ!兎に角あいつを…」
「でもあいつはチドリさんの…」
そこまで言うとチドリは黙り、ピンクの姿で顔を俯けた。
「初めてだった…初めての人だった…それがまさかヤヤークの怪人だったなんて、夢にも思っていなかった……でも、相手がそうだと分かったなら…私にはもう倒す事しか出来ないわ…!!」
しかし、そのままで拳を作り、
「人々を少しずつ図々しくする…そんな事は絶対にさせない!例え、あなたが初めての人でも!!」
それを胸に当てて正面を見つめた。
「ゲールゲルゲルゲルゲル!!女は所詮イケメンには無力!楽しませて貰ったぜェ!お前の趣味の徹夜カラオケとやらをなぁぁ!!!」
「徹夜カラオケ!?」
そこには流石に驚かざるを得ず、中立マンのままでヨシオは噴き出す。
「言うなぁぁぁぁ!!!」
と、叫びながらに戦闘員を蹴散らすピンクの心情は、ヨシオには理解不能であった。
「ヤー!!」
「おっと!?」
が、戦闘員に殴り掛かられ、それをかわしてパンチを入れる。
「ヤー!?」
割と抑え目のパンチであったが、喰らった戦闘員は吹き飛んで行った。
「おのれぇ…流石は中立マンよ…戦闘員ごときでは相手にならんか…」
ズーズーシーゲルが一歩を下がり、ヘチマの先端(頭?)を「パカリ」と開ける。
「だが、これに耐え切れるかな!?」
そして、直後に頭の先から黄色の花を「ぽんっ」と出した。
「ぐああああああっ!?」
「きゃあああああっ?!」
それが振られて怪音が鳴り、ヨシオとピンクが頭を押さえる。
「ズーズーシーゲル怪音波!この怪音波を聞いた者は少しずつ少しずつ、図々しくなるのだ!!」
「最初からそれしろ!?」
一応言うが、それには答えず、ズーズーシーゲルは頭を振り続ける。
「ああぁぁあ!!100万円ぐらい貢いでよあんたぁぁ!!!」
と、ピンクが一気に図々しくなり、ヨシオは「うぉお…」と、変化に驚いた。
「チドリさん…いや、チドリって呼んでいいっすか?いや、良いっすよね!チドリ!おい!!」
「図々しいわね!?」
気付けばヨシオも図々しくなっていたが、そこはチドリも音波のせいと理解し、言った後には「何よ!?」と聞いて、ヨシオの言葉の先を促した。
「実際の所、実害は無いんで、俺があいつを捕まえる!だからチドリは正面から、あいつにどうにかしてトドメを刺してくれ!!って言うのも俺、必殺技とか無いんで!!」
前回はそう、首絞めだった。
なったばかりで技が無いので、仕方が無しにそうしたのである。
ヒーローとしては致命的だが、無いものは無いのだ。仕方が無い。
「わ、分かったわ…って言っても私にもそんなの無いんだけど…そうと決まったら早くやれ!いや、やれ!早くやれウスノロ!!」
「(ヒデエ図々しさ!!)」
そうは思うが音波の効果だ。
やむなく従い、一直線に走る。
「ゲルウッ?!俺様の怪音波が!?」
ズーズーシーゲルは慌てていたが、ヨシオの言うように実害は無い。
人間関係が若干こじれたり、人としてどうなのかと見られるだけなので、キックやパンチを繰り出した方が、この場合は余程に有意義だったろう。
「怪音波レベル更にアアアップ!!!」
が、あくまでそれに拘りたい彼は、怪音波レベルを更にアップ。
「自爆して死ねよ!!」
と、ヨシオに言われ、「図々しすぎるゲル!!?」と、驚くのである。
「今だ!!やれえええええ!!!」
「しまったぁぁあ!?」
そして、ヨシオに背後を取られ、両腕を捕らえて羽交い絞めにされる。
「はあぁぁぁぁ!!!」
ピンクは直後に走り出し、両腕を突き出して怪人の首を捕らえた。
「グウゥ…!?ぐるっ…!?ぐるじいいい!!はなぢで!はなっ…!?はな…死…!」
それからは絞める。
ひたすら絞める。
ズーズーシーゲルは手足をばたつかせ…
「お花畑が…見える……ゲル…」
やがて静かに命を落とした。
ドコーン!!
そして爆発。
二人の中立マンは、何だか気まずい気持ちを抑え、店の屋根に空いてしまった大きな穴を見つめるのである。
「という訳で私がピンクよ。あなたを紹介したのはⅮの指示。この事はお互いに秘密にしましょう」
戦いが終わり、変身を解いた後に、チドリはヨシオにそう説明した。
疑問に思っていた事が分かり、ヨシオはそれに「ああ」と納得。
「もし良かったら今度、カラオケに行かない?」
と、彼女の趣味に沿って誘うが、
「え?だってあなたプーなんでしょ…?ありえないんですけど。そういうの」
と言われ、顔を細長くして絶望するのだ。
「(所詮顔と定職かよぉぉぉぉぉ!!!)」
心の中で叫んでみるが、前者はともかく後者は当然。
ヨシオ自身、それは分かるので、叫んだ後には冷静になり、
「ちゃんとした仕事さがそ…」
と、呟くのである。
ともあれ、こうして人々が少しずつ図々しくなると言う危機は去った。
この事件の背景に中立マンと言う者達の活躍があったという事は、まだ、あまり知られてはいない。
次回予告ぅぅぅ!!(甲高い声)
3人目の中立マンは見た目に渋いナイスガイ!!
何だコイツは?こんなのがリーダーだと?(おやっ!なんだか渋い声だね!?)
面白れぇ!どっちが強えか勝負と行くか!!(黒い皮服の男が登場)
お前には、あの女は勿体ねぇよ。(ヨシオ君が唾を吐かれているよ!!?)
クソッ…仕方ねぇ…今だけは協力だ!!(上着を脱ぎ捨てて敵に向かう)
次回、中立マンフォーエバー!
中立マンブラック、ニヒルに登場!!
「こいつが血の味か…悪くねぇな…!」(口から血を流してそれでもニヤリ)
俺達は中立だ!!(5人でハモる)