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屋敷の応接間に通されたが、ロティには屋内の広場にしか思えなかった。三方の壁に背の高い窓硝子が整然と並び、外の美しい庭園の続きであるようだった。広間の真ん中にぽつんとあるソファに一同は着席し、ルイだけがアンの背後に控えて立っていた。

「アンリエットさん、ロティさんが件の…?」

 ロティとアンの正面に座ったシリルが、ちらりと視線をロティに向けた。またドキリと心臓が動いて思わず視線を少し逸らせてしまった。どうもこの瞳が苦手なようだ。

「ええ。私のお友達ですわ。とても特殊な能力の持ち主で、この件に役立つのでは無いかと来てもらいました」

 やはりロティの能力が目的だったようだ。まさかこんな位の高い人にまで、自分の能力がアテにされるようになるとは思いもよらなかった。ロティは自分の能力なんてそんな大層なものではないと思っている。

「特殊な能力とは?」

 シリルに視線を向けられ、ロティの心臓が飛び上がった。

「あ、あのっ…私、本の…著者の手書きの本の、内容や書いた当時の著者の想いが、わかるんです…たぶん、なんですけど」

 自分でも自分の能力をなんと説明して良いのか未だにわからない。ただ、手書きの文字を見ると、何処からか声が聞こえてきてその本の内容や想いを教えてくれるのだ。それは本当にその本の著者の声なのかは…正直よくわからない。ただ、どんな国の言葉でも、どんなに古い言葉でもロティには理解できた。

 ロティが自分の能力について説明すると、シリルは口元に手を当てて少し考えているようだった。そんな姿でも、彼の涼やかな目元から輝きが失われる事はない。この人間離れした態度が、“人形”と言われる所以なのかもしれない。

「あ、の…私の能力、役に立ちそうですか…?」

「うん、成程。役に立つかもしれません」

 ロティの問いかけに、シリルは穏やかにほほ笑んで応えた。祖父のシャルルの笑みとは違って本当に作りもののように美しい笑顔だ。ほっとしたような、胸がざわついたような…矛盾した感覚にロティは軽く眩暈がした。

「とにかくロティに視てもらっては如何でしょうか?」

 アンがそうシリルを促し、シリルは頷きで応えた。

「あ、あの…いったい、何の…お話…ですか?」

 自分の能力が役立つ事…それは今までアンを介して行われていた本の修復とは違うのだろうか。わざわざ此処に自分が呼びつけられる理由がわからず困惑していると、シリルがちらりとアンを見た。

「シリル様。ご安心なさってくださいませ。ロティは私のとても信頼している子です。迂闊な事はしませんし、仕事内容を他言することもございませんわ。勿論、シリル様が私を信用なさっていれば、のお話ですが」

 アンは冗談めかしたようにそう言ったが、それは彼女の本音なのではないかとロティは思ってアンを見た。そう言えば此処に来て以来、アンは昨日のように頬を赤らめたり瞳を潤す様子は無い。背筋をぴんと伸ばして、強い眼光でまっすぐと前を見つめる…かっこいい姿であるとロティは思ったが、彼女が気を張っているようにも思えた。

「もちろん信頼しています、アンリエットさん。だからこそ内密にお頼みしたのですから」

「有難うございます。とても光栄ですわ。シリル様の信頼を頂けるなんて、私は国中の女の子に恨まれてしまいますわね」

 やはり冗談めかしたように、優雅にほほ笑んでアンはそう言った。シリルも目を眇めて僅かにほほ笑んだように見えた。

 アンはシリルに対し、取引相手としての線を引こうしているのだろうか。

「では、ロティさん。貴女を信用してこのたびの依頼をお話しましょう。ただし、これは王家に関わる事…心配無いとは思いますが、他言は貴女の命、引いては国そのものの存亡に関わるものだとご理解ください」

 穏やかな笑みのシリルから発された言葉は、そんな表情とは裏腹な異様な重みで、再びロティは最大限の緊張を思い出さずにいられなかった。


 この国の王族…マルタン王室には王とその妃が四人、そして王子王女が十二人いる。内八人が王女で、その半分が既に他国や貴族の元に嫁いでいる。残りの四人のうち二人は婚約者がいて、もう一人もすぐに婚約が決まりそうであるとの事だった。そして最後の一人…末の王女であるアンヌはシリルより一歳年上の妙齢の乙女である。

 シリルの父親である公爵は、現王の弟の元王子であったが、前公爵の婿養子になった。公爵には前公爵の娘である妻と、田舎貴族の娘という妾がいた。シリルは公爵家の中で、唯一の田舎貴族の娘の子であったが、母親が若く死亡してからも、公爵家で可愛がられていた。特にシリルは城の姫君達の覚えが良く、歳の一番近かったアンヌ王女とは幼馴染のような関係で、本当の姉のように慕っていた。

 そんなアンヌの挙動に違和感を覚えたのは、春の花が咲く少し前の事だった。

 正統な王族に残る唯一の姫君としてアンヌは多忙な日々を送っていたが、そのせいもあってか恋愛ごとには飽き飽きしていると言っていた。そんな彼女が、何かもの想いに耽る事が多くなったのだ。空を見てはため息をつき、星を見ては切なそうに瞳を揺らす。そんな態度のアンヌが気がかりで、シリルはその理由を聞いてみたのだった。

「だれにも内緒よ」

 アンヌはそう断ってから、その理由を訥々とシリルに話したのだった。


「その理由は…?」

 ロティが問うと、シリルは手元に視線を落とした。

「恋ですよ」

「え、こい?」

「ええ」

 変わらぬ笑顔でそう言うシリル。思いもよらなかった単語に、ロティは目をぱちぱちと瞬かせた。

「お姫さまの恋ですか…?」

「そうです。詩的な響きですよね」

 重々しい前置きから始まった割には随分と可愛らしい話の展開になってロティは肩透かしをくらった気分になった。

「王女さまに自由な恋愛はゆるされない!とか、そういうお話ですか…?」

「ふふ、何処かの物語にありそうな話ですよね」

 シリルに笑われて、なんだか恥ずかしい気分になった。何を幼稚な事を言っているのだろう。

「でも、そういうお話です。私も俄かには信じられないと言いますか…つまり、信じていないのです」

「え?」

「アンヌ王女が好きになったのは、庶民の男だというのです」

「庶民の…?」

 愈々恋愛小説のような展開になってきたと、ロティは目を丸くした。現実にこんな事ってあるんだなあと、何処かで感心している自分もいる。

「聞けば馬車引きをする若者だと言うのですが…。出会いは騎士城で辻馬車を停泊させていた時らしいです。何度かすれ違ううちに、アンヌ王女は段々とその男が気になりだした。そんなある日、向こうから話しかけてきたそうなのですが、話しているうちにどんどんと気が合い、相思相愛となったのだと、アンヌ王女は言っていました」

 煌びやかなお姫様と、素朴な馬車引きの青年との恋。話に聞くだけなら、とても素敵で庶民としては応援したい恋だとロティは思った。

 しかし貴族としては、王女が庶民と結ばれるなんてあってはならない事…なのかもしれない。たとえば政治的な事だったり、金銭的な事だったり…ロティには思いもよらないようなややこしい話が絡んでくるのだろう…多分。

「それで、信じられないっていうのは、どういう事ですか…?」

「出来過ぎな話だと思いませんか?」

 シリルは真剣なまなざしでロティを見てそう言った。それは、あまりに現実感のない、夢物語…確かにロティもそんな違和感を感じないでもない。

「た、確かに…や、やっぱり王女様ともなると、貧乏な庶民なんかに恋することなんてありえない…でしょうか」

「そんなことはないですよ」

 シリルは怪しみながらも、その可能性をあっさりと肯定した。

「王女であろうと、普通の女の子です。どんな人にも恋をする可能性はありますよ。…まあ、私は貴族なので庶民の女の子と同じかと聞かれれば、自信を持って頷けるわけではないのですが…」

 確かにロティも同じ女の子でも、高貴な人々の気持ちというのはわからないだろう。同じようにシリルもそれはわからないと言う。ただ“わからない”という気持ちは今、共有している。だとしたらやはり、王女も普通の女性という事なのかもしれない。

「でも、じゃあ…信じられないっていうのは…?」

「私の杞憂なら良いのですが…」

 そう言いながら、シリルは俯いて手元を見た。

「妙に胸騒ぎがするのです」

「シリル様は…アンヌ王女様とその馬車引きさんとの恋には反対なのですか?」

「私には王女殿下の恋愛事情に口を差し挟む権利などありません。ただ、アンヌ王女様の幸せを願う身として、過剰に心配しているに過ぎないのです」

 言いながらにこりと笑ったシリル。仲の良い王女様が誰ともわからぬ男と恋をしている…それは貴族、庶民関係なく心配であるという事だろうか。そう考えて、ロティはようやくシリルの真意に至った。

「つまり、王女様の相手がどんな人なのか知りたいっていう事ですか?」

「その通りです」

 物語で幸せな結末を迎えるような事でも、現実ではそうで無い事の方が多い。だからこそ、シリルはその是非を見極めたいと言う事か。

「貴族…まして王族となると、自らの意思とは関係なく様々な人々の思惑が渦巻くものです。王城は淀み切った悪意の巣窟と言っても良いでしょう。…だからこそ、私はアンヌ王女には幸せになって頂きたい」

 僅かに眉を動かし、真剣な瞳をまっすぐとロティに向けるシリル。そこで初めて、ロティは彼の“表情”を見た気がした。

「わかりました、私にできる事があれば、協力させてください」

 ロティも彼の真摯な想いに、自然と頷きを返していた。

「有難うございます、ロティさん。では、早速見て頂きたいものがあります」

 シリルは机の上に置いてあった小箱の、小さな鍵穴に小さな鍵を挿した。中から出てきたのは、小さな千切れたような二つ折りの紙切れ。シリルがそれを差しだしたので、ロティはそっと手に取った。

「…これは?」

「件の馬車引きの青年が、アンヌ王女に渡した手紙です。誰にも内緒、と王女には言われたのですが、内密に拝借してきました」

 にこりと、また作りもののような笑顔を浮かべるシリル。それはつまり、王女に内緒で盗んできたという事だろうか。そんなものを勝手に見ても良いものかと手が震えたが、シリルの笑顔が促しているような気がして、ロティは恐る恐る紙を開いた。

「…次の満月の夜、会ってお話をしましょう。二人で、夜が明けるまで…」

 手紙に書かれていたのはそれだけだった。少し鋭利な書き癖のある、細い文字。走り書いたようなものだ。内容だけ見れば、ただの甘い逢瀬の約束である。

「次の満月まではもう少し時間がありますが、アンヌ王女は城を抜け出し、会いに行くつもりのようです。勿論、王女としては軽率である行動といえますが…しかし、王女はそれほど本気だと言う事です。もしかして駆け落ちするつもりなのかも」

「か、駆け落ち…!」

城から出たことの無い深窓のお姫様が、満月の光を頼りに愛しい人に会いに行く…それは確かに深刻な決断と言えるのかもしれない。

「ロティさん、その手紙から、何か読みとる事はできますか?」

 シリルの言葉に、ロティははっと胸をつかれた。てっきり何か書物を読まされるかと思っていたが、ロティが読むべきものは今まさに手にしている。

 逢瀬の約束…本ではなく、走り書きの手紙。そこに込められた想いを読み取れれば、少なくとも相手の真意を知ることができる。

「や、やってみます…」

 ロティはゆっくりと深呼吸を繰り返してから、静かに目を閉じた。

 眼裏に浮かぶのは、手でちぎったような、歪な形の二つ折りの紙片。角ばった細い文字が、ロティの頭に吸い込まれるように踊る。茶色のインクは、水に溶けるように拡散していった。


『ようやく、これでようやく…』

 “誰か”の声が聞こえた。今までの経験から言えば、それは筆者の声であるはずだ。低い男の声。焦りと狼狽の色が浮かんだ震える声だった。

『アンヌ王女…』

 ため息の後、呟く声は甘い囁き。恋焦がれるように、愛しい人の名前を呼ぶような。

『これで、ようやく報われる』

 言葉尻が光の中に消えるような、喜びに浸っているような声音。

『これさえうまくいけば…』

 男の声は涙しているかのように上擦り、ため息が漏れた。

『王女を誘拐できさえすれば、あとは全てうまくいく』


「…!」

 ロティは息を呑んで、思わず手紙から手を放した。まるで、突き落とされたかのような感覚が全身を駆け巡り身震いした。手紙を持った指先から全身に怖気が駆け廻り、それ以上、文字を“読む”事を身体が拒否した。

「ロティ、どうしたの?大丈夫?」

 アンが心配そうに眉を潜め、こちらを見つめていた。自分の指先が震えているのを見て、途端に頭が熱くなった。

「あ…こ、これは…この手紙は…」

「ロティ…?」

 早く内容を伝えなくてはならないのに、頭が痺れてうまく言葉が紡げない。滲んだ視界の向こうに見える手紙が、とても恐ろしいもののように感じた。

「うっう…この、この人は…王女様を…誘拐、しようと…」

 ただの紙切れなのに、どうして自分がこんなにも怯えているのかわからなかった。溢れた恐怖心に混乱し、涙が止まらない。言葉をうまく紡げない。

「…誘拐?」

 シリルの声が聞こえてそちらを向くが、視界が朦朧として表情は伺えない。

「は、はい…王女、様を…誘拐できれば…あとは、すべて、うまくいくって…声が」

 なんとか聞こえた言葉を伝え、ロティは嗚咽した。アンが肩をぽん、と叩いてくれたのを感じると、ようやく震えは収まった。しかし涙をうまく止める事が出来ない。

「他には?」

「ほか…に、は…わかりません…。でも、私…怖かったんです…とても…」

 その人の声が、とても恐ろしく聞こえたのだ。ロティに直接何かされるわけでもないのに、どうしてこんなにも恐怖を感じたのだろう。

「悪意…かしら」

 アンが目を伏せながらそう呟いた。

「悪意、ですか…?」

「ええ…その手紙の主の悪意。それが直接伝わったのではないかしら…」

 その疑問には、ロティははっきりと応える事はできない。しかし耐えがたい恐ろしい感情を感じたのは事実だった。

「…成程。ロティさん、有難うございます。怖い思いをさせてしまい申し訳ない」

「い、いえ。だいじょうぶです…」

 シリルはロティを気遣う言葉を述べてくれたが、やはり手紙が気になるのか、手にとって眉を潜めてそれを見ていた。

「…誘拐…王女を…。やはり、王家に害為す者…?」

「その可能性はあると思います」

 シリルの呟きに、アンが応えた。

「ロティの能力を私は評価していますわ。今まで不可能だった本の復元をいくつも行うのを見てきました。ロティは他に複製のある本も、一言違わずに再現できますわ。その際に聞いたという“声”も、のちに筆者が綴った言と一致した事も多くありますの」

「…」

 アンの能力評価に対して、シリルはさらに眉を潜めた。

「だとしたら、王女は危ないという事ですね」

「…残念ながら、私はそう、思います」

 シリルの心配は杞憂でないかもしれない。ロティはその背を少しだけ押してしまった。

 もし、ロティの言葉が全て信用されたなら、この男の人はすぐにつかまって、王女との逢瀬は叶わぬものになってしまうのだろうか。そう思うと、突然に不安を思い出した。

「ロティさん、貴女はどう思いますか?」

 シリルに問われて、ロティは俯いて少し呻いた。

「うう…私は、私にはわからない…のです」

「わからない?」

「私は…私自身は自分の力が、そこまで信用できないのです。だって、もし私の力が単なる気のせいだったり、何かの間違いだとしたら…王女様とその人の仲を引き裂く事になってしまうかもしれません…」

 誰かの恋心を踏みにじるなんて事はしたくない。それも此処には存在しないはずの声だけで。もしかしてロティにも疑う感情があったから、そう聞こえたのかもしれない。

「…ロティ…」

 アンが不安そうに、綺麗な眉を歪めた。その顔を見て、ロティはアンの信用を裏切ってしまっているのではないかという思いに苛まれた。

「あ、あのごめんなさい、アン様…。せっかくアン様が信用してくれるって言ってくださったのに…」

「いいえ、私の事は良いのよ、ロティ。それよりも、貴女に多大な負荷をかけてしまった事を今、後悔しているわ。貴女は何も責任を負う事はないのよ。これは私が頼んでやってもらったこと。正直に貴女の想った事を話してくれて有難う」

 アンの優雅なほほ笑みに、ロティの心は少しだけ浮上した。

「ええ、ロティさん。私も貴女の言葉だけで全て決めようとは思いません。勿論、貴女を信用していないわけではないです。ただ、情報はたくさんあった方が良い。そういうものだと思ってください」

 シリルもそう言ってロティを気遣った。二人に気を使わせてしまって、やはり自分の発言には責任を持たねばならないと、ロティは気を引き締めた。先ほど感じた恐怖のせいか、随分と弱気になにすぎていたようだ。涙を拭ってまっすぐと前を向いた。

「ごめんなさい。それから、有難うございます。私にできるのは此処までです…。やはり文字が少ないと、読みとれる事も少なくて…もし、本当に王女様に害を為す人たちだとしても、具体的な事が何もわからなくて…」

「いいえ、充分ですよ。私の行き過ぎた杞憂では無いという事がわかっただけでね」

 ロティは手紙を読む前は白か黒か、どちらかはわからなかった。しかし手紙を読んで感じたあの怖気、そのせいか王女の相手の馬車引きの青年が、とても恐ろしい人物のように思えていた。しかし実際どのような人かは、本当はわからない。

「では、私は王女に警戒するように注意を…」

「お待ちください」

 シリルが王女への進言を提案しようとすると、アンがそれを止めた。

「差し出がましいようですが、王女様へは、まだお話なさらない方が宜しいかと…」

「どうしてですか?」

 シリルの問いかけに、アンは少しだけ俯いて目を眇めた。

「まだ危険だと確定したわけではありません。それなのに、王女様に不安を与えるような事を言ってしまうのは…それだけで恋が終わってしまうかもしれません」

「しかし危険を知らせるのは重要な事だと思いますが…」

「…ええ、その通りです。シリル様が王女様を大切に思われてそう仰る事もわかっています。でも…恋を否定されるのは、愛する人を疑うのは、思うよりずっと苦しい事だと思いますわ…」

 ロティはアンのその言葉に、シリルを想うアンの気持ちを思い出した。自分を利用しているだけではないかと、シリルを疑うアン。そんな疑いにすら苦しむ恋心。

「…お優しいのですね。アンヌ王女を想われる気持ち、女性同士にしか理解できぬ事なのかもしれません。私などは、危険や疑いを察するには早い方が良いかもしれないと思いましたが」

「…いいえ、私の戯言など、どうかお忘れください。差し出がましい事を言ってしまい、申し訳ありません」

 言いながらアンは、軽く頭を下げた。その時ロティの見たシリルの瞳が、ひどく哀しげに揺れているように見えて、どきりと心がざわつくのを感じた。

しかしアンは、その顔を見る事は無かった。


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