第9話:可愛い妹。
「もうすぐ朝のホームルームがはじまるけど、勇樹くんはこのままのカッコウでいくの」
菊地可奈はいった。
たしかに今の姿で中原勇樹が教室にきたらどう説明をしたらいいのかわからなかった。
その時、渡辺葵はあるアイデアが浮かんだ。
「このことは私にまかせてもらっていいかしら」
「まかせるといっても、葵に何かいい考えがあるの」
葵の考えはろくなことがないことを大原詠美は知っていた。詠美の心配をよそに葵はそのアイデアを話し出した。
「どう、このアイデア」
「まあ葵にしたらよく出来てるわね」
「でしょう。あなた達はどう思う」
「私は賛成だけど、由紀はどうするの」
可奈に意見をふられた中原由紀はまよった。
「どうしたの由紀」
「可奈、じつは私まよっているの。お兄ちゃんが女の子になったのは私が原因だから。このままだとお兄ちゃんがどうなるのか私とても不安なんだ」
「由紀はお兄ちゃんが大好きだから心配してるのね」
詠美は由紀にいった。由紀は勇樹に近づくと、ギュッと抱きしめた。
「だって、こんなに可愛いらしいもん」
「あなた達、はやくいかないとおくれるわよ」
「ほんとだわ。じゃ彩おばさんまたくるから」
勇樹達は保健室を出て教室にむかった。
教室にもどり途中、由紀は勇樹に近寄った。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「どうしたの由紀」
由紀は勇樹の耳元まで近寄ってささやいた。
「ほんとにこんなことを言うの」
「そうよ。わかったわね私の可愛い妹の優子ちゃん」
「はい。由紀お姉様」
教室の前まで近づくと、葵はいった。
「勇樹くんはちょっとまってね」
「どうしてですか」
「先に勇樹くんが女の子の恰好をしたのか、会長である私がいうから。私が合図をしたら入ってきて」
葵がいったことに勇樹はハイと返事した。葵が教室に入ると、詠美は席につくよういった。
「今から生徒会長のいったことを聞くように。わかったわね」
詠美はいった。そのあと葵が教室の全員にいった。
「みなさんおはよう。今日私がここに来たのは、このクラスの中原勇樹くんのことについてです」
「あのぅ、中原くんが何かしたのですか」
クラスの担任の先生が葵にいった。
「いえ、そうじゃなくて、中原勇樹くんは生徒会が中心となって劇をすることになり、勇樹くんは女の子の役をすることになったのです」
教室が少しざわつきはじめた。詠美は静かにといったので、葵は話をつづけた。
「でも、勇樹くんは男の子なので女の子の役はできないので、劇が終わるまで勇樹くんを女の子として扱うことにしたの。だからあなた達も勇樹くんを女の子として見るようにしてほしいの」
「それは無理だよ」
「中原くんを女の子扱いなんて、ねぇ」
「そんなのできないわ」
そういった声が葵の耳にはいった。でも、葵はニヤリと笑ったことにだれも気付かなかった。
そして葵はいった。
「それでは、勇樹くんはいってきていいわよ」
だが、ドアが開き教室にはいってきたのはだれも知らない女の子だった。
「だれ、あの女の子」
「まちがってはいってきたんじゃないか」
「そうよね」
「でもあの子可愛い女の子よね」
「あんな女の子この学校にいたっけ」
みんながこの教室にはいってきた女の子について話していた。その女の子は葵のそばに近寄りよりよこにならんだ。
「オイ治、まさかあの女の子は」
「そうですよ。マチガイありません」
「二人はあの子がだれかわかったようね」
「可奈はだれだかわかるのかよゥ」
「あたりまえでしょう幸一くん。だって私はあの子の友達なんだから」
「ねぇ可奈、あの女の子だれだか知ってるの」
「あの女の子はねぇ」
「みんな静かにしなさい」
詠美は教室中にひびくような大きな声でいい、教室は静かになった。葵はとなりの女の子の正体を明かしたのだった。
「この女の子が中原勇樹くんです」
「エーウソォ、ほんとに勇樹くんなの」
「信じられない。だって男の子なのになんでこんなに可愛いのよ」
「この教室の女子よりも女の子らしいぜ」
「ちょっと、今いったのだれなの」
葵は静かにするようにいった。
「これから勇樹くんが話すから聞くように。じゃ勇樹くんお願いね」
「私はいまから女の子なので、中原勇樹ではなくて中原優子と呼んでください。それからまだ女の子になったばかりなので、これからはみなさんのことをお兄様、お姉様と呼びますので私のことを妹のように可愛いがってください」
「わかったわね。これからは勇樹じゃなくて優子と呼ぶようにね。では私達は自分の教室に戻るから」
葵と詠美は教室からでていった。二人が教室から出ていくと由紀が勇樹のそばに寄って行った。
「よかったよお兄ちゃん、じゃなくて優子ちゃん。これからはもっと女の子らしくなるのよ」
こうして中原勇樹の新しい生活がはじまった。