第8話:保健室。
次の日の朝、中原勇樹は妹の由紀といっしょに保健室にむかった。保健室に入ると大原詠美と白衣を着た女性がなかにいた。
「紹介するね。学校の保健医で名前は大原彩。私の叔母なの」
「勇樹くんのことは詠美から聞いたから私にまかしてちょうだい」
「あの人にまかしてお兄ちゃん大丈夫なんですか」
「そんな心配はないわ由紀。だから彩おばさんにまかして、私たちは外にでましょう」
由紀の心配をよそに、詠美は由紀といっしょに保健室をでた。
彩は勇樹を鏡の前にたたせた。
「これが勇樹くんの男の子の姿ね。これから勇樹くんを女の子にするから、いま着ている服をぬいでちょうだい」
「ぬいだ服はどこにおくのです」
「左側のカゴにいれといてね。そして右側のカゴの中の服が置いてあるから、カーテンを閉めるね」
彩はカーテンを閉めた。勇樹は服をぬいで着替えようとしてカゴの中をみて、勇樹はとまどった。なぜなら服のほかに下着も女の子用であった。
「あのぅ、下着も着替えるのですか」
「そうよ。だって服は女の子なのに下着が男の子だとヘンじゃない」
「でも、そんなぁ」
「家でも女の子の服を着ているのだから下着もそうでしょう」
なぜこの人はこのことを知っているのかまったくわからなくて、勇樹はだまってしまった。
「どうして知っているのかわからないでしょう。それはね詠美から聞いたのよ。だからその話に興味があったから私も協力するようにしたの。もう着替え終わったかしら」
彩は勇樹が着替えているカーテンの仕切りを開いた。
「きゃっ、やめて」
勇樹は女の子の下着を着ている途中だったから、おもわず可愛いらしい悲鳴をだした。
「なんて声を出すのよ」
「だって、はずかしくて」
勇樹は顔を真っ赤にして彩にいった。
その仕種はまさしく女の子そのものだった。
「はずかしがることなんかないわ。だって女の子同士なんだから」
「ぼくを女の子としてみてくれるの」
「当たり前でしょ。だから風邪を引かないようはやく着替えましょ」
彩に女の子として扱われるのがうれしくて、勇樹はこの人なら信頼できると思った。服を着替えおわると勇樹は鏡の前にたった。でもその服は勇樹には少し幼いかんじだった。
「とても似合っているわよ勇樹くん」
「でも、なんかおかしくないですか」
「そんなことないわ。でもちょっとまって」
彩は化粧箱からカミソリをだした。
「ちょっと目を閉じてね」
勇樹はいわれたように目を閉じた。どうやら顔を剃っているみたいだが、ひげが生えていないのにどこを剃るのだろうと思い目を閉じていた。もう目を開けていいか聞こうとしたら、彩が目を開けてもいいよといった。勇樹はゆっくり目を開けた。
勇樹は鏡に写った自分の顔を見た。それは女の子の顔だった。
「どう勇樹くん。おどろいたでしょ。やっぱり眉を剃ったのがよかったようね」
「でもこの顔は」
「双子の妹の由紀さんに似てないと思ったのでしょうけど、あなたの妹も化粧をしたらそっくりの顔なんだから」
「なんか顔が幼いかんじがするのですけど」
「それは私のシュミよ。だって勇樹くんはこのほうがぜったいに似合うからよ。それに服だって可愛いらしい服を選んだのだから」
たしかに彩の選んだ服は、小さい女の子が着るような服だった。
「勇樹くん、あなた家ではもうひとつの名前があるのね。なんて名前なの」
勇樹は小声で優子とこたえた。
「勇樹くんは家では優子なんだぁ。私も優子さんと呼ぼうかしら。でも今の姿だとさん付けだとヘンだから優子ちゃん、今から優子ちゃんと呼ぶから」
その時、保健室のドアをノックする音がした。
彩は少しだけドアを開けた。ドアの外では由紀と詠美と生徒会長の渡辺葵、そして菊地可奈もいた。
「どうしたの詠美、こんな大勢で」
「みんなで勇樹くんの晴れ姿をみたいから、こうして集まったわけよ」
「ちょっとだけまってくれない」
彩はそういうとドアを閉めた。そして勇樹をカーテンで隠した。
「もう入っていいわよ」
由紀達は保健室の中に入った。
「彩おばさん勇樹くんは」
「そうよ。お兄ちゃんはどこにいったの」
二人の心配をよそに、彩はカーテンを開けた。そこにたっていたのは、由紀達三人がしらない女の子がたっていた。
「どうかしら私の腕前。この女の子が勇樹くんよ」
「あなた、本当に勇樹くんなの」
勇樹ははずかしそうに小さくうなずいた。