第7話:劇の練習。
その日の放課後。大原詠美が勇樹をむかいにきた。
「勇樹くん。いっしょにいこう」
そして、帰る用意をしている河合幸一と矢崎治にも参加するように声をかけた。
「僕は塾があって」
「オレはハラの調子が」
「二人はいけないというわけね」
幸一と治はうなずいた。そんな二人に詠美はいった
「ウソがバレバレよ。わたしといっしょにくること。いいわね」
幸一と治はあきらめて、詠美のあとについていった。
「そう遅くならないと思うけど」
「可奈と待つから、終わったらいっしょに帰ろうね。お兄ちゃん」
「部室で由紀とまってるから」
「ありがとう由紀、それに可奈さん。またあとで」
勇樹は教室を出た。
詠美達は先にいったみたいなので勇樹も生徒会室に来た。でも、中には誰もいなかった。
間違えたかなと思っていると、生徒会長の渡辺葵が教室に入ってきた。
「そこで何してるの」
「この教室で練習をするのでは」
「今日は会議室をつかって練習するから。あなたの名前は」
「中原勇樹ですけど」
「中原くん、私といっしょに会議室にいきましょう」
勇樹と葵の二人は生徒会室を出て会議室にむかった。会議室にいく途中、葵は勇樹の顔をじっと見つめた。
「どうしたのですか」
「べつに、何もないわ。もうすぐ着くわね。中原くん先に入りなさい。私が先だとあなたが遅刻したとおもわれるしね」
「ありがとうございます。では先に入ります」
勇樹は葵に礼をして先に会議室にいった。
勇樹が会議室にいった。
「詠美のいったことは本当ね。私も楽しみだわ」
葵は昨日の夜遅く、詠美から勇樹のことを聞かされたが半信半疑だった。でも、勇樹の顔を見てその考えはかわった。葵は詠美のアイデアにのったのであった。
勇樹に遅れて会議室に入って来た葵は、昨日よりは人数の多さに少しホッとした顔をした。詠美は葵に近寄ってきた。
「間違って生徒会室にきたのでしょう」
「ちがうわよ。中原くんが間違ったから私といっしょにきただけよ」
「ああ、勇樹くんね」
「詠美は中原くんを知っているの」
「私のパートナーだから知っているわよ。練習が終わったら、これを実行するから」
「わかったわ。私も出来るだけ協力するから」
劇の練習をする時間がはじまった。
昨日とちがい葵のキゲンはよかった。となりに詠美がいたからキゲンがいいのではと生徒会役員たちは思ったが、本当は詠美のある計画を知ったから楽しみでしかたないからであった。
だから葵はキゲンがよかったのであった。
下校時間になろうとしたころ、詠美は葵に練習をおわるようにいった。
「そうね。今日はここまでにしましょう」
葵はそういい、劇の練習が終わった。みんなが帰る用意をしていると、詠美が勇樹と幸一と治はのこるようにいった。
みんなが帰ったあと、会議室には勇樹と幸一と治そして詠美と葵が中にいた。
「じつはのこるようにいったのは詠美なのよ。では詠美せつめいをして」
「今日の練習を見て思ったことは、勇樹くんは女の子に成りきってないの。だから劇がおわるまで勇樹くんを女の子としてあつかいたいの」
「でもよぅ、勇樹にそんなことできるのかよぅ」
「そのためには幸一くんたちの協力が必要なのよ」
「僕と河合くんが中原くんをどうするのですか」
治は詠美にたずねた。詠美のかわりに葵が答えた。
「あなたたちは中原くんをまもるのよ。いくら劇のためとはいえ、男の子の勇樹くんが女の子になるからイジメみたいなことがおこるかもしれないでしょう。だから二人に勇樹くんをまもってほしいの」
「わかった。俺と治が勇樹をまもってやるぜ」
「でも、そういうことができるのですか」
「会長の私が先生にいうから心配ないわ。ほかに質問はないわね。ではもう帰っていいわ」
そして幸一と治は、会議室から出ていった。あとにのこった勇樹に詠美と葵は話を続けた。
「勇樹くんには同じクラスに妹の由紀がいるわね。由紀にも協力するように私がいうから」
「明日、保健室にくるように」
「どうして保健室に行くのです」
「詠美が保健委員だからそこで女の子になってもらうわ。詳しいことはあとで聞いてね」
そういって葵も会議室から出ていった。葵が出ていくのを確かめた詠美は勇樹に近寄りこうささやいた。
「これで学校でも女の子になれるね」