第5話:練習が始まったが、
学校に着くと、今日は集会があるので校庭に集まるようにと放送があった。
勇樹は、由紀と可奈といっしょに校庭にでた。
校庭に着くと大原詠美と出会った。由紀と可奈は詠美にあいさつをした。
『キャプテンおはようございます』
「二人ともおはよう。となりの男の子は」
「中原勇樹です。由紀がお世話になっております」
「昨日あったとき由紀さんに似ていると思ったけど、二人は双子の兄妹なのね」
「わたしもどっちかわからなかったから」
「可奈それ本当なの」
「でも、今は友達だからわかるわよ」
「二人とも仲がいいわね。とにかく列に並びましょ。それじゃ勇樹君、また会いましょうね」
詠美は離れていった。三人は四年生の列に列んだ。
校長先生の長い話が終わると、生徒会長の渡辺葵が学校の創立記念として劇をする事と、今日の放課後に劇の練習をするから生徒会室に集まるようにといった。放課後になると勇樹は生徒会室に来た。
勇樹は中に入ったが、人があまりいなかった。勇樹が不安そうな顔をしていると、詠美が声をかけた。
「どうしたの勇樹くん」
「なんか集まりが悪くて」
「それでそんな顔をしていたのね。たしかにこの様子だと葵は不機嫌になるね」
「詠美先輩は生徒会長を知っているのですか」
「葵とは昔からの幼なじみなの。だから性格もよく知ってるの」
勇樹が詠美と話していると生徒会室のドアを叩くように開ける音がした。
中にいた全員がふりむくと葵がいた。葵は不機嫌そうな顔をしていた。そして、隣にいた役員に当たり散らした。
「なんで人が集まらないのよ」「ぼくに八つ当たりしないでください会長」
葵の怒りはおさまらなかった。
それを見かねた詠美は不機嫌な葵をなだめた。
「そう言わずに葵、今日来ているひとだけでも練習しましょう」
「わかったわよ」
詠美に説得されて、葵のキゲンは少しながらおさまったようだ。しかし、練習が始まると葵のキゲンが悪くなるのだった。
その理由は全員の演技がうまくないからだった。
とうとう葵の怒りは頂点に達した。
「あなた達はやる気があるの」
「そんな事いっても、俺達そんな事できねえよ」
一人の生徒がそう言った。それを聞いた葵は激怒した。
「それはあなた達がわたしの言うことを聞かないからよ」
これはマズイと、詠美は葵をなだめた。
「もっと落ち着いて話したらどうなの」
「わたしは冷静に話してるつもりよ」
「顔を真っ赤にして言うセリフじゃないわよ。とにかく今日はここまで。明日もこの時間に来るように」
詠美がそう言ったので、今日の練習は終わった。練習がはやく終わり勇樹は部室をのぞいた。でも、部室には誰もいなかった。
もう帰る時間だから由紀は家に帰ったのだろうと思い、勇樹も家に帰った。
勇樹は由紀がいなくて心細かった。いつもは由紀や可奈といっしょに帰っていたが、今日は一人で帰るからとてもさびしくて、辺りが暗くなるにつれて勇樹は不安になった。
勇樹が夜道を歩いていると、後ろからだれかついてくる気配がした。
勇樹は後ろをふりむくとだれもいなかった。気のせいだと思いながらまた歩きはじめたが、後ろから足音が聞こえてきた。
勇樹は早足に歩きだした。しかし、後ろの足音も勇樹にあわすように歩調をあわせた。
勇樹は怖くなった。またあの時の記憶がよみがえったからである。しかし、勇樹は足音がこっちに近寄ってくるのがわかった。
あの角をまがったら走ろうと勇樹は思った。曲がり角が近付くにつれ、勇樹の心臓の鼓動がはやくなった。
そして曲がり角をまがって走ろうとしたとき、いきなり肩をつかまれた。
「イヤッ、やめて」
「大丈夫。わたしよ」
その声を聞いて勇樹はホッとした。声の正体は詠美だったからである。「センパイ驚かさないで下さいよ」
「ゴメン、ゴメン」
でも、勇樹の足はまだふるえていて、いまにも泣きそうな顔をしていた。
ちょうどそのとき、由紀がこっちにやって来た。
勇樹の帰りがおそいので心配してむかいに来たのであった。
勇樹は、由紀に抱き着いてせきを切ったように泣きじゃくった。
「ごめんねお兄ちゃん。もう大丈夫だから」
「ほんとに怖かったよ。もう一人でかえるのはわたしイヤだもん」
「わかったから、もう泣かないでね」
それを黙って見ていた詠美はある疑問に思い、二人にこういった。
「今日両親がいないから、ふたりともわたしの家にいまから来ない」