第4話:帰り道。
「お兄ちゃんは劇で女の子の役になっちゃったの」
生徒会で劇をやる事になり、勇樹はいけにえの女性の役を演じる事になったと答えた。
「でも大変ネェ。あの会長の事だから何かあるわねぇ」
「部長は会長のことを知っているのですか」
「わがままで有名よ」
部長はそう答えた。
「勇樹くん、旅の人に選ばれたのはダレ」
「名前はたしか大原詠美だったと聞いたけど」
「エッ、大原先輩なの」
「可奈さんは知ってるの」
「私たちのサッカークラブのキャプテンよ」
「そうよお兄ちゃん、キャプテンはすごくカッコイイのよ」
「カッコイイって由紀、大原先輩は女性なんだから、もっとほかの言い方があるだろう」
『だってカッコイイもん』 由紀と可奈は同時に答えた。
「勇樹君も来たし帰りましょうか」
勇樹達は後片付けをしてから部室を出た。
部長と別れたあと、可奈が勇樹に言った。
「でも、ホントはウレシイよね勇樹くん」
「可奈、それってどういう意味なの」
「だって、大勢の前で女の子になるからよ。そうよね勇樹くん」
「そういうけど可奈さん、ぼくはすごく恥ずかしいのだから。だって大勢の前で女の子になるから」
「恥ずかしい事ないわ。お兄ちゃんはとても女の子らしいから大丈夫よ」
「そういう事よ。それはわたし達が保証するわ」
勇樹は二人に励まされた。日が暮れたころ、可奈とは公園で別れた。
そして日は完全に落ちて辺りは暗くなった。勇樹は無口になり足がとまった。
勇樹はあの事があってから、暗い夜道が怖くなった。
「お兄ちゃん大丈夫」
だが勇樹は首を横にふった。勇樹の体は恐怖で震えて目から涙が出ていた。由紀は勇樹の手を強く握った。
「大丈夫よ。わたしが優子を守ってあげるから。もう泣かないで」
「ありがとう由紀お姉様」
優子は小声で由紀に返事をした。優子はまるで小さな女の子のように、由紀に寄り添い離れようとはしなかった。
そんな優子を見て由紀は、優子をどんな事があっても守ってみせると心にちかった。
由紀は、優子の歩みを合わせるように家路についた。