最終話:本番、光。
「あら、もうこんな時間なのね」
彩は、時計を見ていった。
「もういっかい、化粧をしましょうね」
彩は勇樹の顔に化粧を塗った。そして口紅をぬろうとしたとき、勇樹は彩に塗るのをまってといった。
「なぜとめるの、色が気にいらないの」
「そうじゃなくて、口紅だけは由紀お姉様に塗ってもらいたいの」
勇樹は振り向いて、由紀を見ていった。
「優子ちゃん。わたしが塗ってもいいの」
「もちろんですわ、由紀お姉様。ほら、わたしにはじめて買ってもらった、あのカラーリップのことをおぼえてる」
「ええ、おぼえてるけど、それがどうしたの」
「わたしね、そのリップはもう使い切ったけど大切にしまっててあるの。だってそれは、由紀お姉様が女の子になったわたしに、はじめて買ってもらったプレゼントだから」
由紀は、勇樹にリップをあげたことをすっかり忘れてた。でも勇樹は、今でもプレゼントをあげたことを覚えていたのであった。
「わたしは、リップを塗るといつも由紀お姉様がいつも一緒にいると思うの。だから、由紀お姉様に口紅を塗ってもらうと、劇の舞台の上でも一緒だと感じるような気がするの」
「そうだったの。わかったわ。由紀さん、優子ちゃんのおくちを塗るのは任せたわね」
彩は、由紀に口紅をわたした。口紅をわたされた由紀は、勇樹のくちびるに口紅を塗りはじめた。
由紀は緊張しながらも、なんとか勇樹のくちびるを塗りおわった。勇樹は鏡を見た。由紀は勇樹に、うまくできたか聞いた。
「どうかな優子ちゃん。やっぱり、ダメだったかな」
「いいえ、そんなことないわ。由紀お姉様」
勇樹は、うれしそうにいった。
勇樹と由紀のを見て、可奈はおもわず、うらやましいなぁといった。
「だって、二人を見ていると、わたしも妹がほしくなってきちゃった」
「でもよ、可奈そういうけどよ。そんなことないぞ」
「幸一、それってどういうこと」
「そりゃ、ナマイキで人のいうこと聞かないんだぜ。そうなったら、にうらやましくもないぜ」
「でもそれは、一般的ではなくて、幸一君は妹のことをいっているのではないのでしょうか」
「治くんのいうとおりね。幸一のは、たんなるぐちなんだから」
治のいうことに、可奈もそうだといった。幸一はだまってしまった。
勇樹の準備がおわった。ちょうど劇の開演の前だったので、みんな楽屋を出たのであった。
「じゃ、わたしと可奈は、ママと一緒に客席で見てるから」
「優子ちゃん、がんばってね」
勇樹は、由紀と可奈にはげまされた。二人は、客席にいった。
「それでは幸一君、僕達も行きましょうか」
「ああそうだな。じゃ優子ちゃん」
「来てくれて、ほんとありがとう。治お兄様、そして幸一お兄ちゃん」
「ああ、優子ちゃんもな」
幸一と治も、自分たちの楽屋にもどり、衣装に着替えにいった。
「幸一君、どうしてニヤニヤしているのです」
治は、幸一が思い出し笑いをしているので、なにがあったのか聞いた。
「優子ちゃんがな、オレのことを、幸一お兄ちゃんと呼んでくれて」
「でもそれは、幸一君が優子ちゃんに頼んでいわせたのですから」
「ウ、ウルセェ」
幸一は、治に逆ギレした。
勇樹と詠美が、楽屋を出て劇の舞台にいこうとしたとき、詠美は勇樹の手をギュッとにぎった。
勇樹は詠美の顔を見て、なにかいおうとする前に詠美がいった。
「優子ちゃん、この劇がおわったら、二人だけでどこか食べにいかない」
「エッ、詠美先輩、それって」
「そう、デートの誘い」
勇樹はいきなり、詠美にそんなことをいわれて、返事にこまった。
詠美は、勇樹のこまった表情を見て少し笑った。そして、詠美は真剣な顔になった。
「いまいったこと、本気だから。私と付き合いましょ優子ちゃん」
「わたしで、いいのですか詠美先輩」
「もちろんよ。でも、今度から先輩というのはやめてね優子ちゃん」
「ハイ、詠美さん。こう呼べばいいのですね」
詠美は、そうよといって、勇樹の頬っぺたにキスをした。
「ほんとうは、優子ちゃんの口にしたかったけど、口は由紀のものだから、頬っぺたのキスは、私だと思ってね。優子ちゃん、この劇の舞台を成功させましょうね」
舞台にひとり残された勇樹は、由紀と詠美がそばにいているように感じた。
由紀と詠美がしてくれたことに、勇樹は感謝した。
舞台の幕が上がった。幕が上がるにつれて、明るい光が入ってきた。光は勇樹の体を覆いかぶさり、男の子の勇樹から、女の子の優子になっていくのが感じた。
はじめて小説を書いたので文章がおかしなところもあります。でも、書くことの楽しさもありました。この三本の小説を読んでありがとうございました。