第15話:本番当日、ある告白。
勇樹が、飲み物をもって楽屋からもどると、知らない男の子がいた。
その男の子は、きりりとひきしまった顔をした男の子だった。
勇樹は、楽屋を間違ったのかと思って、中にいた男の子にあやまろうとしたときその男の子は、勇樹の顔を見ていった。
「優子ちゃん、わからなかった。私よ、詠美よ」
勇樹は、楽屋にいた男の子の正体が詠美だったと知って驚いた。
「その顔を見ると、優子ちゃんは、よほど驚いたようね 」
「そのようね。詠美の顔を化粧をしただけで、こんなカッコイイ男の子になるのだから、優子ちゃんが驚いたのも無理もないわ」
「先輩、すごく、カッコイイですよ」
「優子ちゃんにそういってもらって、うれしいわ。ありがとう」
「詠美の準備もできたようだし、次は優子ちゃんの番だから、私がいろいろしてあげるから、奥のカーテンの中にはいってね」
彩にいわれて、勇樹はカーテンの中に入った。
勇樹の楽屋のドアを、誰かがノックをしているので、詠美はドアを開けた。
ドアを開けると、由紀と可奈がいた。
「すみません。部屋を間違えました」
由紀がドアを閉めようとしたとき、詠美は、由紀を呼びとめた。
「由紀、間違ってないよ。私よ、詠美だよ」
「ウソッ、ほんとに詠美先輩なの」
「そうよ。由紀の反応を見てると、優子ちゃんと同じように驚いてたわ」
詠美はいった。由紀は、楽屋を見たが、勇樹の姿が見えないので、どこにいるのか詠美にたずねた。
「あそこの、奥のカーテンの中で着替えているわ」
可奈が、カーテンを開けるとしたとき、詠美が注意した。
「ダメよ、可奈。優子ちゃんは、まだ着替えている最中なんだから。可奈も、着替えの途中で、ドアが開いたらイヤでしょ」
「すみません、先輩」
可奈が詠美にあやまった。そこに、幸一と治が楽屋にやってきた。
「由紀に可奈、遊びにきたぜ。あれ、あんた、見かけない顔だなぁ」
「あなたは、由紀さんか可奈さんの、どちらかのお兄さんですか」
幸一と治は、この男の子を詠美とはわからなかった。由紀は、男の子の正体を詠美だと教えた。それを聞いた二人の顔は、ショックをうけたのだった。
そのころ、カーテンの中では、彩が勇樹の顔に化粧をしていた。
「優子ちゃんは男の子だけど、女顔だからお化粧したらほんとの女の子よ」
「彩さん、ありがとうございます。そういってもらえると、なんだかうれしいです」
「でも残念だわ。だってこの劇がおわれば、優子ちゃんは男の子の勇樹くんにもどるのね」
「そうですねぇ」
「でも本当は、男の子にもどるのがイヤで、ずっと女の子でいたいんでしょ」
勇樹は思わず、ハイと答えた。そのあと勇樹は、すぐに頭を横にふったが、彩はそれを見逃さなかった。
「やっぱりね。優子ちゃんは、男の子にもどりたくないんだ」
「ち、ちがいます。わ、わたしは、そういう意味でなくて」
「じゃ、どうして女コトバでしゃべっているの」
「えっと、それは」
「それに、足を閉じて座ってるし、歩きかたも女の子みたいに内股で歩いてるよね」
「だって、だって」
「だったら、劇が終わったら、すぐに髪の毛を短く切ろうね。わかった、勇樹くん」
彩に“勇樹くん”と男の子の名前で呼ばれて、勇樹はとうとう泣きだした。そして勇樹は、泣きながら彩にいった 。
「わたし、もう男の子にもどりたくない。ずっと女の子でいたい。でも」
「でも、どうしたの」
「男の子をやめて、女の子になるといって、みんなから白い目で見られて、どうしたいいか。わたし、それがこわくて。だから」
「そんな心配は大丈夫よ。だって、みんなカーテンの中を、ずっとのぞいてたのだから」
彩はカーテンを開けた。そこには由紀と可奈がいて、その横では、詠美と幸一と治が聞き耳をたてていた。
「ごめんね、彩おばさんに優子ちゃん。最初、私はとめたのだけど」
「ああっ、ズルイ。一番盗み聞きしてたの、センパイじゃねえか」
「うるさい、幸一。あんたはだまってて」
可奈は、幸一にだまるよういった。
「だからこのごろ、優子ちゃんはなやんでいたのね。でもどうして、お姉ちゃんであるわたしにだまってたの」
「由紀お姉様、ごめんなさい」
「わたしは、優子ちゃんをなにがなんでも守ってあげると約束したでしょ。だから、今度からはお姉ちゃんであるわたしに相談するのよ、優子ちゃん」
「わたしや、幸一や治も優子ちゃんの味方だから。そうよね」
「可奈さんの話すように、僕や幸一君も優子ちゃんの味方ですから」
「可奈お姉様、それに治お兄様に幸一お兄様、ありがとうございます」
「あのさぁ、優子ちゃん。ちょっとお願いがあるんだけど」
幸一は、照れながら勇樹にいった。
「オレのことを、お兄様じゃなくて、お兄ちゃんと呼んでくれないかなぁ」
「あんたは、いったいなにいってるの」
幸一がいったことに、可奈は呆れていた。
「だってオレの妹は、オレのことを兄と見てなくて、でも、優子ちゃんには、お兄ちゃんて呼んでほしいんだけど」
幸一のたのみに、勇樹はある条件をいった。
「わたしのことを、妹として見てくれるのならね。幸一お兄ちゃん」
幸一は、見るよと、勇樹に約束した。