第14話:本番当日、お昼休み。
お昼ごろになって、詠美と彩が、勇樹の楽屋を見にきた。詠美は楽屋のドアをノックた。でも、勇樹は出てこなかった。もう一度、ドアを叩いたが、勇樹は出てこなかった。
「どうしたの、詠美」
「おかしいなぁ。優子ちゃん、いないのかなぁ」
詠美はドアノブをまわしてみた。すると、ドアがあいた。詠美は楽屋の中を覗くと、勇樹はイスに座って居眠りをしていた。
「マア、カワイイ寝顔だこと」
「ほんとね詠美。でも、こんなところで寝てちゃ風邪をひいたりするから、ちょっともったいないけど、おこしてね」
詠美は、勇樹を起こすので体を揺すった。
すると勇樹は、眠たそうな顔をしておきて、まわりをみまわした。そこに、詠美と彩がいているので、勇樹は驚いた顔をした。
「おはよう、優子ちゃん」
「あっ、おはようございます。じゃなくて、どうして二人はいつからここに」
「私達は、ちょうど今ついたところよ」
「それで、優子ちゃんの楽屋を見に来たら、優子ちゃんキモチよさそうに寝ていたから」
「寝顔が可愛かったわ、優子ちゃん」
「そんなぁ、わたし、はずかしぃ」
「まあまあ、詠美、優子ちゃんにイジワルなんかしちゃって。そうそう、これ駅前のパン屋さんで買ったのよ。ちょうどお昼だし、いっしょにたべましょ」
「わたし、ここのパン屋さん大好きなの」
「それはよかったわ。ここのパン屋は、優子ちゃんお気に入りの店なのね」
彩はテーブルの上にパンをならべた。勇樹がえらんだパンは、サンドイッチだった。
「ここのパン屋さんのサンドイッチが、わたしのお気に入りなんです。なにか飲み物をとってきましょうか」
「気をつかわしてわるいわねぇ、優子ちゃん。わたしはコーヒーを、詠美はなにをたのむ」
「じゃ、私はカフェオレをお願いね」
勇樹は、飲み物を取りに楽屋を出た。楽屋を出た勇樹を見て彩は詠美にいった。
「歩きかたも、女の子みたいな内股ね」
「それは、私と葵が女の子のように見えるよう、猛特訓をしたのだから」
詠美は、勇樹を女の子になる特訓のことを、彩に話した。その話を聞いて彩は、ちょっと残念そうな顔をした。
「そういう話を、なんでだまっていたの」
「ごめん、彩おばさん」
詠美はあやまった。
そして、二人はおたがいの顔を見て、大笑いをした。
そのころ、楽屋を出た勇樹は、ロビーにきて、飲み物があるところをさがしていたら、だれかが勇樹に声をかけるので、ふりむいた。声をかけたのは、河合幸一と矢崎治だった。
「ヨッ、勇樹、どうしたんだい」
「だめですよ幸一君。今は勇樹君のことを、優子ちゃんと呼ばなくてはいけないのですよ」
「そうだったな。で、優子ちゃんはなにをさがしてるんだい」
「飲み物のあるところをさがしてるのですけど、幸一お兄様、どこにあるのかしりません」
「え、えっと、どこだったかなぁ。オイ、治、知ってるか」
「それだったら、左の手前の部屋にあると思うけど」
「その部屋にいけば、飲み物がもらえるのですね。ありがとうございます、治お兄様」
勇樹は、二人に礼をいって別れた。幸一と治は、勇樹に“お兄様”と呼ばれて、少しのあいだ、ぼーっとしていた。
「幸一お兄様かぁ、なんかてれるなぁ」
「僕も、治お兄様なんて言われたことないから」
「オレの妹なんか、呼び捨てダゼ」
「僕たちのクラスの女の子よりも、女の子らしいですね」
「同じ双子でも、由紀よりも女の子みたいだよな」
「ほんとにそうですね。由紀さんも、もうちょっと女の子らしくなったらいいのですけどね」
「わたしが、どうしたというの」
その声を聞いた二人は、ドキッとした。
そして、うしろをふりむくと、そこには由紀と可奈がたっていた。
「ヤァ、二人とも、おそろいで」
「ちょっと幸一、それってどういうこと」
由紀がいった。二人は、しどろもどろになった。そこに、可奈が二人にこういった。
「それは優子ちゃんが、女の子らしいというのね」
「そうそう、そうだよ。治もそうだろ、なっ」
「そうですね。僕も、幸一君と同じ意見です」
二人は、由紀と可奈にそういって、ごまかした。由紀は、もう一度、二人を見ていった。
「幸一も治も、優子ちゃんを、ほんとの女の子として見てくれるのね」
「正直にいうと、オレの妹よりも、女の子らしいもんな。由紀も、優子ちゃんのことを大切にしろよ」
逆に幸一にいわれて、由紀は少しムッとした。それを見て可奈は、由紀をなだめた。
「まあまあ、由紀もそんな顔をしないで」
「わかったわ。とにかく私たちは、優子ちゃんの楽屋にいくから」
「オレたちも、はやくもどらなくちゃ。じゃあまたあとでな」
幸一と治の二人は、その場から立ちさり、由紀も可奈といっしょに、勇樹の楽屋にいくのだった。