第11話:お姉様からのプレゼント。
ドアの前に、ハアハアと、息を切らした由紀と可奈が立っていた。
「二人とも、そんなに急いで、いったいどうしたの」
「先輩、やっといま完成しました」
詠美にはなにが完成したかわからなかったが、葵にはそれがわかった。
「ごくろうだったわ。二人はよくがんばりましたね。それをはやく優子にわたしてね」
「どういうことなの葵、ちゃんと説明して」
「それはね詠美、あの二人が優子に秘密にして作った衣装が、やっと今出来たのよ」
「ぎりぎりセーフだったみたいだったようね可奈」
「ほんとね。ねぇ優子ちゃん、はやくこの衣装に着替えて」
二人に衣装を渡された勇樹は、急いでとなりの部屋に入って着替えにいった。
しばらくたって、部屋のドアが開いた。それは衣装を着替え終わった勇樹がドアの前にたっていた。
全員が勇樹の姿に注目をした。それを見て、ひとりの女生徒はいった。
「まるで、絵本の中のお姫様みたい」
それを聞いて、由紀と可奈はおもわずガッツポーズをとった。
「ヤッタネ。由紀」
「私たち、がんばったもんね」
由紀と可奈が作った衣装をみんなが褒めたたえた。
でも、勇樹だけがだまって顔を下に向いていた。それに気付いた詠美はどうしたのとだろうと思い、勇樹にたずねた。
「二人が作ったその衣装が気にいらないの」
「ううん、ちがうの」
「どうちがうの。その衣装ステキじゃない。どこが気にいらないの」
詠美は勇樹に問い詰めた。勇樹は半泣きになりながらいった。
「わ、わたし、うれしくって。だって、由紀お姉様と可奈お姉様が、そ、その傷だらけの手で、わたしのために衣装を作ってくれたのが、とても、う、うれしくて」
勇樹は泣くのをガマンしていたが、そのあと、勇樹は泣きだした。
「ほんとにもう、優子ちゃんは泣き虫なんだから」
「だって、だって」
「妹のためなら、ちからになってあげるのが姉のつとめでしょ」
「ほんと由紀お姉様」
「ほんとよ。わたしの可愛い妹の優子ちゃん」
由紀は、泣いている勇樹の頭をなでた。それはまるで、小さいコドモをなぐさめるみたいであった。
勇樹が泣き止むと、由紀は勇樹の涙でぬれた顔をハンカチでやさしくふいた。
「もう泣かなくていいからね」
「由紀お姉様、わたしもう泣かないから。でも、もう少しだけ甘えさせて」
「まあ、優子ちゃんは泣き虫の甘えん坊さんなんだから」
勇樹は、由紀にそういわれて、頬を赤らめた。
その様子を、みんながやさしく見守っていた。
「ハイ、それでは、優子ちゃんの衣装が届いたことだし、練習をはじめるわよ」
葵はみんなにいい、練習が再開した。
「今日は、本番のようにするから、ミスのないようにね」
勇樹は緊張した。それは葵や詠美に怒られて、練習のあしを引っ張るのではないかと思った。
由紀が、緊張した勇樹の手をにぎった。
「心配しなくてもいいからね。わたし達がついてるから大丈夫だよね」
「そうよ。優子ちゃんならきっとうまくいくから」
「由紀お姉様、可奈お姉様ありがとうございます。わたしがんばりますから」
勇樹はそういって、みんなのところへ集まった。
勇樹の顔は、二人に励まされ、緊張の色がなくなっていた。