いつぞやの自分より
15分短編です
仕事から帰ってポストを確認すると、手紙が入っていた。基本的には家族宛ての、DM系が多いから、珍しく自分宛ての手紙が入っていて驚いた。社会人になると、誰かから手紙をもらうことなんてほとんどないから、ちょっとだけ浮足立ったのは確かだ。
差出人の名前や住所を確認してみたけど、書いていない。封筒は可愛らしいお花柄の物で、切手も多分俺は選ばないであろう、動物の描かれたこれまた可愛らしいものだった。だからてっきり、女の子からの手紙だろうと思って、俺は、ちょっとだけホクホクしながら部屋に戻って、手紙を開封した。
封筒の中身には、シンプルな白い紙のど真ん中に油性ペンで「お前はどうせ死ぬ」とだけ書かれていた。悪戯にしてはタチが悪い。しかもそれ以外、何も入っていないのがよりむかついた。
いったい誰がこんなことを?封筒を色々調べたけど、それ以外の情報は何も出てこなかった。それに、この封筒、消印が手書きに見えた。郵便として出していたら多分スタンプで押されているはずだ。
それに消印の日付、この日付は存在しない元号だ。今は令和だから、Rとつくはずなのに、Bと書かれていた。Bってなんだよ、バカってことか?くそ、むかつくな、近所のガキの手の込んだ悪戯だな。
俺はその手紙を、ゴミ箱に放り投げた。
それから70年、俺は90歳を超えるくらい長生きした。
病院のベッドで窓の外を見て、あの手紙のことを思い出した。
自分の死期が近いことはなんとなくわかっていたから、娘に手紙と封筒を買ってくるように伝えたら、なんとも可愛らしい花柄の封筒を買ってきた。手紙はシンプルな白い物を持っていたから、それに合うものをって言ったはずなんだけどなぁ。
でもおかげで、俺はあの日の記憶を思い出した。アレ、俺が書いた手紙だったんだな。年老いた俺、何書いてんだろ。ガキじゃあるまいし。何が「お前はどうせ死ぬ」だよ。バカだなぁ。
でもあの時、本当は仕事に疲れていて、少しだけ、弱ってはいたんだよな。だからあの手紙を読んで、人間はどうせいつか死ぬんだよって思えたんだよなぁ。だから、書いたのは今の俺だけど、あの時俺は、未来の俺に救われていたんだなぁ。
どうせ死ぬなら、と思って、仕事辞めたの、正解だったなぁ。
ありがとう、未来の俺、というか今の俺。
俺は真っ白な手紙に、太いマッキーで「お前はどうせ死ぬ」と書いて、封筒に入れた。娘の買ってきた切手を貼って、消印風の絵柄を書いて、枕の下に挟んで体をベッドに預けた。
あぁ、今日はなんだかすごく眠い。
——いつぞやの自分より——
お父さん来たよ~・・・・。




