第5話:通知の相手
「はぁ……」
僕はパソコンを落としもせず、ベッドの上でうずくまったまま、ただただ後悔を重ねていた。
みんなは僕が有内優汰だって知っても友達でいてくれようとしたのに、僕はそれを素直に受け入れられなかった。
不安になった理由はわかってる。
学校の人気者のみんなが、リアルでも友達関係を深めたいって言ってくれた事。
それはどこか嬉しくもあったけど、同時に凄くプレッシャーになったんだって。
みんなの周囲にはいつも沢山の友達がいるし、できれば一緒にいたいって思ってる人は沢山いると思う。
そんな中、TOP4に投票すらしなかった僕なんかが急にみんなと一緒にいるようになったら、彼女達を好きな人達に悪いと思うし。なんなら友達関係を妬まれて、同級生が僕から距離を置くようになったり、いじめられたりするかもしれない。
そうなったら、またあの頃みたいに……。
頭に過った中学時代の思い出に、僕は不安になって身を震わせる。
やっぱり、あの頃のようにはなりたくない。でも、一年間一緒に遊んだ友達を失うのも怖い。
……やっぱり、僕が友達を作るなんて無理だったのかも。
彼女達もきっと、いきなり取り乱して通話やゲームを抜けちゃった僕を嫌いになっただろうし……。
鬱々とした気持ちに苛まれ始めた瞬間。
それを遮るかのように、ブブブッとスマホが短く震えた。
あれ? 何だろ?
この時間にスマホが鳴る事なんて滅多にないのに。
我に返った僕は、ベッド脇のサイドボードに放り投げていたスマホを手にした。
ロック画面に残っている、イズコにメッセージがあった通知。
相手はナガツ……これって長月さん?
恐る恐るロック画面を解除した僕は、横になったまま震える手でイズコを起動した。
グループチャットとは別。自分宛に届いたダイレクトメッセージには、短くこう書かれている。
『もうお休みになられましたか?』
このアプリはメッセージを読むと、タイムラインで既読を教えてくれる。
長月さんはきっと、僕がこれを見たってわかっちゃったはずだよね。
さっきの事もあって、返事するのは気が引ける。でも、やっぱり無視はいけないかな……。
僕は少し重い気持ちのまま、不慣れな動きで何とかメッセージを入力した。
『ううん。まだ起きてた』
『そうでしたか。よろしければ、少し二人でお話しませんか?』
絵文字すらない、一見すると無機質な文章。
突然の言葉に驚きはあったけど、僕はその一文を見てファンタジー・フォレストをしていた時のナガツとのやり取りを重ねていた。
思い返してみれば、ナガツはチャット越しでも凄く落ち着いてたし、物腰も柔らかかった。
そんなキャラの中身が長月さんだって知った今、同一人物だって言われると凄く納得感がある。
実際クラスで遠間に見ていた時も、とても温和でお淑やかな女子だったし。
ファンタジー・フォレストの頃から、どこか程よい距離感を保ってくれていた長月さん。
……彼女とだったら、ちょっとは落ち着いて話せるかな。
『急ぎの用事ではありませんので。有内君が話したい気持ちになったらで構いませんが』
僕の返事が遅いのを気にしたのか。長月さんからそんな言葉が続く。
ちゃんと気持ちを落ち着けるなら、日を改めるのが正解だと思う。
ただ、そのせいで余計ネガティブなことを考えそうな気もするし、相手がTOP4の一人だっていうプレッシャーがより強くなって、気後れしちゃうかもしれない。
だったら……。
『今でも大丈夫だよ』
勇気を持ってそうメッセージを入力すると、彼女からこんな返事が返ってきた。
『わかりました。折角ですし、ゲームの中で景色でも楽しみながらお話しませんか?』
ゲームで会って?
それって、まだみんなもいるってこと?
『みんなは?』
『今日は解散しています。ご安心ください』
そっか。それならいいかな。
正直、今の状態で武氏さんや麗杜さんと会うのは、ちょっと気まずいし。
『わかった』
『では、準備ができたら教えて下さい。通話を始めますので』
『うん。ちょっと待ってて』
僕はベッドから起き上がり再びパソコンデスクの椅子に座ると、スマホを机の脇に置き、ヘッドホンを付けゲームとイズコを立ち上げた。
少し前に見たばかりのシャインズ・ゲートのタイトル画面。
さっきの事もあって緊張しちゃいそうになるのを抑えるべく、僕はまた何度か大きく深呼吸をしてみた。
「すー……はー……すー……はー……」
……うん。これで大丈夫。
『準備できたよ』
『わかりました。呼びますね』
返事が来て数秒。ヘッドホンからイズコの着信を示す音が流れ出す。
少しだけ目を閉じて、もう一度心を落ち着けて……よし。
僕は意を決して、イズコの通話を繋いだ。
『もしもし。聞こえておりますか?』
「う、うん」
学校でも耳にする優しい声。
未だ緊張している僕にとって、それは凄くありがたいものだった。
『急なお呼び立て、申し訳ございません』
「大丈夫だよ。それで、ゲームにログインすればいいかな?」
『はい。このゲームは抜けた場所で再ログインする仕様ですが、私は先程の場所にいますのですぐお会いできるかと』
「わかった。じゃ、入るね」
僕はゲームの方を操作すると、さっき選んだサーバに改めてログインをした。
最初と同じく、空から神聖都市ゼクセイドへ落ちていく映像から画面が白くなる。
そして景色が戻ってくると、さっきまで目にしていた多くの人がいる噴水と、綺麗な街並みが画面に映った。
かなり多い人だかり。すぐに見つかるかな?
きょろきょろと周囲を見渡すと、目に止まったのは質素な魔術師のローブを纏った長月さんの後ろ姿。
「いた」
『あら。どちらにでしょう?』
「少し後ろ」
僕の言葉に、彼女のキャラがくるりと振り返る。
藍色の長い髪が少しだけ舞い広がり、眼鏡を掛けたリアルとほぼ変わらない長月さんがこっちを見て小さく微笑む。
『そちらでしたか』
うわぁ……綺麗だなぁ……。
僕は振り返った長月さんを見た瞬間、改めて彼女がTOP4なんだって再認識した。
さっき四人と会った時だって、みんな綺麗だとか、可愛いとかは思ってた。
だけど、それ以上にみんながTOP4だったってことに驚き過ぎて、目を奪われたり、恥ずかしくなるって気持ちにはならなかったんだ。
だけど、今の長月さんは違う。
クラスでもほとんど遠くから見ることしかなかった美少女が、ゲームとはいえこうやって目の前にいる。
そんな仮想現実は、僕をドキドキさせるのに十分だった。
「あ、えっと。待たせちゃった?」
『有内君。誘ったのはつい先程ですよ』
「あ。そ、そうだよね……」
何で僕は、こんな当たり前のことを口走ってるんだろう。
思わずリアルで頭を掻いていると、耳元にくすくすっという小さな笑い声が届いて、より恥ずかしい気持ちになる。
『流石にここでは落ち着かないですね。場所を変えましょうか?』
「そ、そうだね。どこか良い場所はあるかな?」
『はい。ご案内しますね』
「う、うん」
優しい笑顔を見せた長月さんは、僕に背を向けると、ゆっくりと歩き出す。
人混みをうまくすり抜けながら進む彼女。見失なったら迷惑をかけちゃうよね。絶対はぐれないようにしないと。
僕はそんな思いで、長月さんの後ろ姿を必死についていったんだ。




