第19話:みんなの望み
あの後、僕は出された高級そうな料理を存分に味わった。
今日出されたのはフランス料理らしいんだけど、鴨肉のカルパッチョだとか、フォアグラのソテーだとか、牛フィレのソテーにトリュフのソースを使った物だとか。絶対高そうな、それでいて今までに経験したことのない美味しさの料理を味わっちゃって、どこかずっと夢心地。
瑠音さんは料理を口にする度に驚く僕を見て、楽しそうな顔で色々教えてくれたけど、彼女が望むような反応を返せていたかはわからない。
でも、あれだけ怖い思いをした後だったのに、終始笑顔が浮かんでいたのにはちょっとほっとした。
こうして、ゆったりとした食事の時間を過ごした後、僕は瑠音さんの家の車で家の前まで送ってもらったんだ。
◆ ◇ ◆
「今日は色々とありがとう。わざわざ家に送ってもらっちゃってごめんね」
「何言ってるの。付き合わせたの私だもの。当然よ。こちらこそ悪かったわね。こんな時間まで」
「ううん。大丈夫だよ」
街灯に照らされた高級車の中から、窓を開け声を掛けてくる瑠音さん。
大丈夫とは言ったものの、時間は気づけば夜九時を回ってる。
明日も学校と考えると、流石にちょっとゆっくりしすぎたかも。
「ねえ」
「何?」
「その……これからもまた、夕食に誘ってもよいかしら?」
彼女がおずおずとそう尋ねてくる。
流石にこれだけ豪華な料理を毎週なんて言われると、いくら相手が財閥のお嬢様とはいえ僕だって気後れする。
でも、だからって断ったら瑠音さんもがっかりするかも。
うーん。そうだなぁ……。
「えっと、流石に毎週あそこまで豪華な料理でもてなされるのはちょっと……」
「そ、そうよね……」
僕の言葉に瑠音さんが俯きしゅんっとする。
その姿にちょっと胸が痛むけど、流石にそこは譲れない。
でも。
「だから、できたら月一、二回にしてくれるかな?」
「……え? よろしいんですの?」
予想外と言わんばかりに驚く彼女の表情がちょっと面白くなって、僕は自然と笑みを零す。
「うん。きっと瑠音さんのほうが色々と予定ありそうだし、都合が合わないかもしれないけど」
「何を仰ってますの? 優汰が問題ない日だというのなら、私は何があろうと貴方との約束を優先いたしますわ!」
「そ、そっか」
さっきとは打って変わり、急に両手をぎゅっと握りやる気を見せる瑠音さん。
そ、そこまで無理しなくってもいいんだけど……。
思わず苦笑しちゃったけど、ここでそう伝えるのは無粋かな。
「では、今後私の番が回ってきた時にでも相談するわ。よろしくて?」
「うん。いいよ」
「あと、本日はシャインズ・ゲートはログインするのかしら?」
「あ、うん。そのつもり。これからお風呂だとちょっと遅くなるし、あまり長くは遊べないけど」
「構わないわよ。昨日顔を出さないものだから、みんな心配していたもの。顔を見れれば喜ぶわよ」
そうだったのか。
言われてみれば、昨日僕の様子がおかしかったのを千麻さんは知ってるもんね。
友達にすべてを話す必要はないにしたって、もう少し配慮はしないと。
「わかったよ。準備できたらすぐにインするね」
「そうしてちょうだい。それじゃ、また向こうで会いましょう」
「うん。それじゃあ、シャインズ・ゲートで」
「ええ」
僕達が笑顔を交わすと、車の窓が閉まる。
互いに軽く手を振った後、車はゆっくりと走り出し、そのまま夜の住宅街に消えていった。
……ふぅ。まずは家に戻ろう。
僕はそのまま一人マンションの中に入りエレベーターに乗り込んだ。
貴堂君の件とかがあった割に、案外気持ちが落ち着いてるのは、きっと瑠音さんとの時間のお陰かな。
もし一人であの状況を乗り切ってたとしたら、こんな気持ちじゃいられなかったと思う。
……やっぱり、友達様々かな。
エレベーターが独特のベルの音で七階に着いたのを知らせ、ゆっくりとドアが開く。
さて。早くお風呂とか明日の準備を済ませてみんなに会いに行こう。
昨日心配をかけちゃったことも謝らなきゃ。
僕は廊下を歩きながらこの先のことを考えつつ、そのまま自分の部屋に入っていったんだ。
◆ ◇ ◆
お風呂や明日の学校の準備を済ませた後、僕はシャインズ・ゲートを起動すると、この間ログオフした神聖都市ゼクセイドの商店街に降り立った。
時間は丁度夜。
周囲の街灯代わりの炎なんかが、町並みをすごく神秘的に照らし出していて綺麗だ。
さて。イズコにもインしないと。
僕はいつものように深呼吸をすると、イズコのボイスルームにログインした。
「こんばんは」
『あ! 優くんばんわー!』
『お疲れ様です』
『よお』
『待ってましたわ』
耳に届いたみんなの声はいつも通り。
変に心配されるような台詞がなかったってことは、みんなに気遣ってもらったのかな?
みんなの優しさに感謝していると。
『ね? ね? 優くんってー、この間の理容店の側にいる?』
沙和さんがそんな質問をしてきた。
あ。もしかして。
「うん。いるけど。どの髪型にするか決まった?」
『ああ。決まったぜ』
僕の質問にいの一番に答えたのは、どこか嬉しそうな声の喜世さん。
ということは……。
「喜世さんが選んだ髪型になったの?」
『ええ。不本意ですけれど』
『ほんと。あーしのが一番いいと思ったんだけどなー』
『私の案も捨てがたかったですよ』
候補から外れた三人の声は、間違いなく気落ちしてる。
喜世さんが一昨日選んでたのって、確かあの髪型だったかな。
でも、折角ゲームの中なんだし。
「もしみんなが構わないなら、日替わりで変えてみる?」
僕はそんな提案をしてみた。
日替わりとかで変えたら、それはそれで刺激もありそうだし、みんなも納得できるんじゃないかなって思ったんだけど。
『それさんせーい!』
『確かによい案ね』
『はい』
三人の声に一気に明るくなる。
自分の髪型が選ばれなかったのって、そこまでショックだったのかな。
でも、確かに一昨日みんなかなり真剣に悩んでたもんね。それも期待の表れだったのかも。
「喜世さんはいいかな?」
『ま、優汰がいいならいいんじゃねーか? 結局俺達は、お前の顔が見れればそれでいいしよ』
「わかった。ただ、最初は喜世さんの提案してた髪型にするね」
『意義なーし!』
『構いませんわ』
『私もよろしいですよ』
みんなの嬉しそうな声に、僕も釣られて自然に笑う。
実のところ、僕の顔を見るだけの話だし、そこまで期待しなくってもいいと思うんだけど、この間の反応を見る限り、みんなが見てて嫌になる顔じゃないのは確か。
「それじゃ、髪型を変えたら合流するね」
『優汰。髪型の番号は覚えてるのか?』
「うん。六番だよね」
『ああ』
『ね? ね? 折角だしー。あの服でも着て、西にある教会集合にするー?』
『お。それいいな』
『でしたら、私達も急ぎましょうか』
『そうね。早く準備を済ませましょう』
『優くんは準備できたら教えてねー』
「うん。わかった」
なんかみんなも色々盛り上がってるけど、どんな格好で現れるんだろう?
僕はそんな疑問を覚えながら、そのまま一人理容室に入ると、喜世さんが推していた髪型に変更した。
前髪を分けた、少し真面目そうな雰囲気の髪型。
全体的に髪の毛も短くなって、彼女達が望んでいた僕の顔が見えるようになる。
……うーん。やっぱりすごくは見えないんだけどなぁ。
キャラメイクの画面を改めて見つめながら、僕はちょっと不思議な気持ちになっていた。




