第14話:曇り空
「じゃーな。有内」
「武氏さんの新情報があったら教えろよな!」
「わ、わかった。それじゃ」
しばらく騒がしかった食事スペース。
だけど、本命の沙和さんがいなくなったのもあって、少しするとみんなは落胆したり、希望を持ったりしながらそれぞれ去って行く。
いつの間に立ち去ったのか。気づけば貴堂君の姿も見当たらない。
あれだけアピールしてたってことは、沙和さんのことが本当に好きだったのかな?
だとしたら、流石にショックだろうな……。
……まあいいや。だからって、考えてても何か変わるわけじゃないし。
そろそろお昼を食べないとね。時間も経っちゃったし。
落ち着いてお弁当を写真に収めた僕はと、箸を取り出しお弁当を食べ始めた。
……うわ。これ、やばいかも。
最初に浮かんだ言葉はこれだった。
まず、とにかく肉がすごく柔らかい。
筋らしい筋もなくって、牛肉ってこんなに簡単に噛み切れるんだって驚くくらいだ。
流石にシェフが作っただけあって、味に関しても全く申し分なし。
ジューシーなお肉は、温かいのもあって噛んだ瞬間に肉汁がじわっと染み出てくる。これってお店でステーキを食べてる感覚に近いと思う。
焦げちゃってたお肉はどうかな……うん。これはこれでありだと思う。
焦げたといっても表面はカリカリのベーコンみたいになっていて、そのくせ内側は柔らかさが残ってるから、本来のステーキとは違う独特な食感を味わえて面白い。
あ肉の下のご飯にも肉汁とタレが染みてて、これも本当に美味しくってやみつきになる。
昨日の千麻さんのお弁当はハンバーグがメインとはいえ、サラダやサンドイッチもあってあっさり目だったけど、今日は結構ガツンとくるお弁当。
ほんと。人によってこれだけ違うお弁当が出てきて、しかも甲乙つけ難いっていうのは凄いなぁ。
こんな美味しいお弁当を味わえるなんて、本当にありがたい話だよね。
お肉を味わうように喜びを噛み締めながら、僕は黙々とお弁当食べ進め、気づけばぺろりと食べ終えてしまった。
ふぅ。食べたぁ。
「ご馳走様でした」
両手を合わせ感謝を言葉にすると、僕はそそくさとお弁当箱を保温ボックスに戻すと、それを持ち立ち上がると、足早に食事スペースを後にした。
でも、さっきの沙和さんとのやりとりは流石に緊張したなぁ。
廊下を歩きながら、僕はさっきのことを振り返った。
きっと他人から見れば、僕の返事なんかはやっぱり酷いものだったと思う。
それでも、もしあれが本当に初めての会話だったとしたら、僕はあんなに喋れなかったのは間違いないし、咄嗟に嘘なんて吐けなかった。
流石にこれまでのことがなかったら、きっとあんな展開なんてなかったはずだし、僕なりに頑張れたのは間違いない。
でも……。
廊下を歩きながら、時折感じるのは学年問わず向いてくる男子の視線だった。
多分、さっきの沙和さんとの一件が広がったんだと思うけど、あれで注目を集めちゃったのは確か。
そのせいで、いじめられたりしないといいけど……。
僕は一抹の不安を覚えながらも、視線に気付かないふりをして教室に戻っていったんだ。
◆ ◇ ◆
昼休みの話は僕の環境を大きく変えるかと思ったけど、実際はそこまでじゃなかった。
授業の合間の休憩時間はいつも通り一人だったし、放課後の掃除の時こそ他の生徒に少し質問されたりしたけど、それが終わればみんないつもどおり友達と帰っていき、結果として僕はクラスに一人取り残された。
正直もっと色々と聞かれたりしないか不安だったけど、よくよく考えれば、僕と沙和さんがした会話なんてほんと些細なこと。
別に彼女のプライベートに触れるような話題なんて一切なかったし、みんなが知りたいのはそういう話。と考えれば、これが当たり前の反応だと思う。
さて。荷物もまとめたし、そろそろ行こうかな。
僕はいつものように教室を出て、昇降口まで行き靴に履き替えると、学校の外に出て、バス停とは違うグラウンド沿いの道を歩き始めた。
空はまた微妙に曇ってる。一応雨が振った時用に折り畳み傘を用意してるから、何かあっても大丈夫。ただ、それでもこういう天気はどこか気持ちを不安にさせる。
この後、瑠音さんに付き合ってほしいって言われてたよね。
一体何処に付き合うことになるのかは未だにわかってないけど、待ち合わせ場所はそのまま学校を離れた先の、人気の少ない住宅街の中にある小さな公園側。そこに車を用意してくれるっていうから、公園で待つ手筈になっている。
実のところ、高校が結構遠いのもあって、この近辺は土地勘がない。
ちょこちょことスマホの地図で場所を確認しているけど、大丈夫かな……。
そう思いながら歩き続けて十分ほど歩くと、ほどなくして寂れた公園が目に止まった。
周囲に新しい家が立ったせいなのか。
裏路地に位置し、入口以外を高い塀に囲まれたその公園には、人気がまったく無い。
これなら待ち合わせの姿を誰かに見られることは少ないないと思うけど、ちょっと不気味さも感じる。
壁に沿って存在する何本かの大木。
そのひとつ。歩道の側にあるベンチに座ると、僕は公園にある時計に目をやった。
今は夕方の五時二十分ほど。
七時限目まで授業があったせいで、時間的にはやや遅いんだけど、曇っているせいもあって公園はちょっと薄暗い。
一応ここで五時半集合ってことになってるし、もう少しの辛抱だよね。
不安で少し緊張した気持ちをごまかすように、ふぅっと大きく息を吐く。
と、その瞬間。
空からゴロゴロという嫌な音が聞こえた直後。
「有内……」
耳に届いたのは、感情を押し殺したような、恐ろしく低い声だった。




