第13話:注目の的
「へ? 何が?」
貴堂君がわけがわからないといった顔で戸惑っていると、沙和さんが頬をぷーっと膨らませる。
「決まってるっしょ。人を馬鹿にする人なんてー、あーしは恋人どころか友達としてもお断りでーっす!」
「はぁっ!? 嘘だろ!?」
目を丸くした彼に、ふんっと胸を張った沙和さんがびしっと指を差す。
「嘘じゃありませーん! こんなのあーしの周りにいる子、みーんな知ってるよ? ね? 薫っち?」
「もちっ! まー、あたしらも今のは擁護できないけどねー。でしょ? みーちゃん」
「だねー。今の見たらー、貴堂ちゃんぜーったいあたしらのことで陰口叩くイメージしかないじゃん。いくら後輩でも、それはありえないっしょ」
周囲の女子まで白い目を向けてきたのを見て、貴堂君がその場で顔を青くする。
そんな相手に追い打ちをかけるように、沙和さんは呆れ顔になり、さらっとこう告げた。
「ってことでー。残念だけどー、貴堂君とはここまで」
「チョ、マ! せ、先輩、俺も悪気はないんすよ」
「悪気がないとか、そーいうのが一番タチ悪いじゃん。もう話しかけてこないでよね。気分悪くなるしさー」
「そんなぁ……」
情けない顔でその場で両膝を突いた貴堂君などお構いなしに、沙和さんがこっちに向き直ると、申し訳無さそうに両手を合わせてくる。
「ごめんねー。あーしが絡んだせいで、気分悪くさせちゃってさー」
「う、ううん。大丈夫だよ。こういうの慣れてるし」
未だに彼女の真意がわからないまま、なんとか初対面って態度を貫く僕。
これって、沙和さんが望んでいる形になってるんだろうか?
「そういえば! 君、名前は?」
「え? あ、えっと。有内優汰、だけど……」
「ふーん。ありうっちねー。ありうっちってー、あーしのこと知ってる?」
「う、うん。TOP4の武氏沙和さんだよね?」
「そっ。えへへー。ちゃーんとあーしのこと知ってるとか。ちょー嬉しいじゃん」
沙和さんが頭を掻きながら、にこにことする。
こういう仕草ひとつとっても可愛げがありよね。みんなに人気なのもよくわかる。
「そういや君のこと、たまに二階で見かけるけどー。もしかして二年生?」
「う、うん」
「そっかー。ありうっちー。何かあったら気軽に声かけてねー。今日のお詫びってことで」
「え? で、でも……」
突然の流れに、僕は本気で戸惑ってしまう。
い、いや、だってこれ、僕が急にTOP4と親しくなるフラグみたいなものでしょ?
それって、周囲に妬まれたりしない?
不安を覚えた僕の心を読んだかのように、沙和さんはこんな事を言った。
「あーしがOKしてんだしー。周りに何か言われたら、あーしに言ってくれたら今みたいに怒るしさー。ね? どお?」
彼女は周囲なんて関係ないと言わんばかりに、笑顔でウィンクをしてくる。
と、その瞬間。周りの何人かから「ぐはっ!」とか「うっ」とか「や、やばい……」なんていう声が聞こえた。
あれ?
いつのまにか、食堂にいる生徒の視線がここに集まってる。っていうか、沙和さんがいるんだもん、そうなるに決まってるじゃないか。
でも、彼女はそんな中、敢えて今みたいな言葉を掛けてくれて、みんなを牽制してくれたってことだよね。
……これで逃げたら、きっと友達として失格な気がする。
変わるって決めたんだし、ここは覚悟を決めなきゃ。
「そ、そっか。あの、武氏さん」
「なーに?」
「えっと、その。僕からも声を掛けるけど、その……できたら、武氏さんからも声をかけてくれる? まあ、僕なんかに用事なんてないと思うけど」
覚悟をしたつもりだったけど、やっぱり気弱な部分が普通に出ちゃって、どこか逃げの言葉を混ぜてしまう。
でも、そんな弱々しい言葉は、沙和さんのより眩しい笑顔によってかき消された。
「もちっ! ありうっちって確か、テストで上の方にいるじゃん? だからー、色々教わっちゃうかも。そん時はよろー!」
「う、うん。わかった」
敬礼するみたいに片手をピッと軽く前に出し、めちゃくちゃ嬉しそうな顔をする沙和さん。
それを聞いて、周囲が少しどよめいた気がするけど、正直僕はこの状況をなんとかするので精一杯。
「ごめんねー、ありうっち。ご飯の邪魔しちゃって」
「ううん。大丈夫だよ」
「……にししっ。貴堂君もー、こういう優しい人だったら、あーしも興味持ったんだけどねー。じゃ、薫っち。みみっち。行こっ」
「うん! 有内君。ばいばーい!」
「またねー!」
こうして、嵐を巻き起こした沙和さん達三人は、笑顔で僕に手を振り僕の側から去っていった。
「な、なんで、俺じゃなく、こんな奴が──」
「お、おい! 有内!」
呆然とする貴堂君の姿は、彼女達が去った代わりにできあがったクラスメイトの男子達に埋もれ見えなくなる。
って!? なんでこんなに集まってるの!?
「お前、すげーじゃん!」
「え? す、凄いって、何が?」
「何がじゃねーだろ! お前、彼女にあだ名で呼ばれたんだぞ!? 武氏さんの周りにいる男子でもそんな奴見たことねーぞ!?」
「え? そうなの?」
思わずそんな言葉が素で出ちゃったけど、それは仕方ないと思う。
だって、僕は最初っから『ありうっち』で呼ばれてたし、それくらい気さくだから勝手に周囲の男子もあだ名で呼んでると思ってたし。
「おいおい。そんな事も知らねーのかよ!」
「う、うん。ごめん」
僕のあまりに薄い反応を見て、クラスメイト達が呆れ顔をする。
「ったくー。なんで武氏さんに話しかけられたのが、よりによってTOP4に興味のない有内なんだよー」
「くっそー。俺も弁当を撮影するかなぁ」
「おいおい。流石に今更だろって」
「なあ! もし武氏さんのプライベート情報を手に入れたら、俺達にも教えろよな?」
「え? で、でも、そんな機会ないと思うよ。今回だって、たまたま話してくれただけだと思うし──」
「ばっかっ! お前だって武氏さんの積極性知ってるだろ! お前から言ったんだ。もしかしたら彼女から話しかけてくるかもしれないぜ」
「うわー。それ羨ましすぎだろ!」
「ん? 待てよ。有内でいけるなら、俺にもチャンスあるんじゃないか?」
「おいおい。自惚れるのも大概にしろって。お前に声かけてくるなら、とっくにしてるだろって!」
一気に騒がしさを増す食事スペースで、ある生徒は悔しさに頭を抱え、ある生徒は謎の希望を持ち、ある生徒は羨ましそうに僕を見る。
嫉妬はされてるものの、僕を責めたり貶してくる生徒は今のところいない。
多分沙和さんが釘を差したってのは大きいのかも。
男子なら誰だって沙和さんに嫌われたくはないだろうし、そこから連鎖でTOP4に嫌われる可能性も捨てきれないわけだし。
話題の中心にあるのは、沙和さんと僕。
あまりに突然過ぎる展開に、僕は会話を振られても、ただただ愛想笑いでごまかすことしかできなかった。




