第12話:突然の邂逅
……やっぱりあれ、狙ってやってるのかな?
四時限目の授業が終わった後、僕は昨日と同じく手にお弁当箱を持って、一人食堂の食事スペースに向かいながら、朝のことを思い返していた。
あの後、空はすっかり晴れて、今朝も傘を差すことなく通学できたんだけど、バスを降りて校門に向かう時、まるで昨日を再現するかのように僕はTOP4と鉢合わせしたんだ。
みんなと目が合って今日も手を振ってくれたから、僕も小さく頭を下げて立ち去ったんだけど、幾らなんでも二日連続で同じタイミングって早々ないと思う。
実際、彼女達がネットゲームの友達と知る前は、こうやって登校のタイミングが重なることなんてほとんどなかった。
それが偶然、二日連続で起きるなんて考えにくい。
実はみんながTOP4として周囲にファンサービスをしてるだけで、僕が勝手に勘違いしている可能性もなくはない。
でも、ファンサービスなら僕を見る必要なんてないはずだし、こっちに気づいてからアクションを起こすのにも違和感がある。
もしかして、友達として学校でできる交流を少しでも増やそうとしてくれてるのかな?
昨日はシャインズ・ゲートにログインしなかったけど、今晩にで理由を聞いてみよう。
そんな事をぼんやり考えているうちに、気づけば食事スペースの入口にやってきた。
空いてる場所は……あ。あそこにしよう。
昨日の窓際とは別。部屋の奥にある二名席のひとつに腰を下ろした僕は、改めてお弁当箱を見た。
瑠音さんがいなくなってから気づいたんだけど、このお弁当箱、思ったよりずっしりくるんだよね。
中身が詰まってるってことかな? それともお弁当箱自体が重いだけ?
まあいいや。とりあえず開けてみよう。
まずはお弁当箱を覆っているボックスのチャックを開け蓋を開けてみる。
あ、中はステンレス製のお弁当箱だ。しかもまだお弁当箱が温かいってことは、このボックスは保温性が相当高いってことだよね。
凄いなあ。どんな技術なんだろう。
こういうのが家にあったら、温かいお弁当も作りやすそうだけど。
見知らぬ保温ボックスにちょっとテンションをあげながら、僕は流れでお弁当箱の蓋を開けてみた。
……え? これってもしかして……ステーキ?
箱の中に敷き詰められた御飯の上に、ドンッと敷き詰め並べられている、スライスされ焼かれた照りのある牛肉。多分これ、サーロインだ。
ただ、僕が多分って付けたのには理由がある。
だって、ご飯に乗っているお肉のうち、三分の一くらいがかなり焦げていたんだから。
……朝の話からすると、多分こっちが見習いシェフの人が焼いたやつかな。
お肉ってただ焼けばいいって思われがちだけど、火加減や焼き時間だけじゃなく、油の量とも考えないと、こんな感じで焦げちゃったりするんだよね。
焦げたものだけ出すわけにいかないから、食べられそうな場所だけ再利用したって感じかな。
勿論。僕はこれを見ても嫌な気分になることなんてなかった。
そこのシェフが頑張ったんだって証があるんだから。
折角用意してくれたお弁当。残さず味わって食べないと。
あ。そうだ。これもちゃんと写真に収めておこう。見習いの人には悪いけど、これも記念だし。
僕がスマホを取り出し、お弁当に向け構える。
えっと、こんな感じでいいかな──。
「ねー。君、何してんのー?」
──え?
シャッターを押そうとした瞬間。僕は思わず動きを止めた。
後ろから聞こえたのは、最近一気に聞き慣れた女子の声だったから。
な、なんで声を掛けてきたの!?
目を丸くし振り返った僕の目に映ったのは、金髪のポニーテールに褐色の肌をした同級生。笑顔が輝くギャル、沙和さんだ。
その後ろには、沙和さんに引けを取らないギャルな女子二人と、金髪でどこかチャラチャラした印象の、あまり近寄りたくないイケメン男子が一人立っていた。
女子達はまたかーという感じで楽しげに沙和さんや僕を見てるけど、対してイケメンの彼は怪訝な顔でこっちを見てる。
ある意味、彼女の友達に相応しい人達。
でもこれだけの人数がいると、その独特の圧をひしひしと感じちゃって、こっちが変に緊張させられる。
「えっと、その、お弁当の写真を撮ろうかなって……」
「へー。どれどれー?」
沙和さんは後ろの状況なんて気にせず、座っている僕の脇に立ち、前屈みになってお弁当を覗き込む。
「へー。ステーキ弁当とかすっごっ! これってー、君の手作り?」
「う、うん。僕が作ったけど……」
いくら沙和さんが事情を知ってるとはいえ、流石に瑠音さんから貰ったなんて口が裂けても言えない。
咄嗟に嘘を口にしたけど。彼女はまるでそれが真実だっていうくらい自然に会話を続ける。
「へー。少し焦がしちゃったのもあるけど、そこは御愛嬌って感じ?」
「ま、まあ、勿体ないし……」
「そっかー。物を無駄にしないっていいよねー。ちょーイケてるじゃん!」
赤の他人として接してくれてるのもあって、笑顔で褒めてくれる沙和さん相手でも、なんとか他人行儀に立ち回れてるけど、なんでこんなことになってるの!?
彼女との関係がバレないか不安になっていると。
「沙和せんぱーい。そんな地味男なんて放っておいてさー。早く飯を買って楽しく飯を食おうよー」
さっきのイケメン男子が、沙和さんの背後でどこか呆れながらそう愚痴る。
と、その直後。
一瞬、彼女の目がキラリと鋭く輝いたかと思うと、表情から笑顔が消えた。
「貴堂くーん。その言い方酷くなーい?」
「へ? 何が?」
貴堂君がきょとんとすると、沙和さんが反転すると腰に手を当て、彼にさっきまでと打って変わった冷たい白い目を向けた。
「彼を地味男とか言っちゃってさー。可哀想じゃーん」
沙和さん、僕をかばってくれたのかな?
とはいえ。僕が地味なのは間違いないし、そこは別にショックでもない。
どちらかといえば、そう彼に口にさせちゃうだけの状況を生み出している彼女の不可解な行動のほうが、よっぽど気になってるくらいだ。
沙和さんに反論された貴堂君。
だけど、彼は悪びれた様子もなく肩を竦める。
「いや、だって事実じゃん? そこの地味男なんてなーんも面白みも何もなさそーだし。先輩も、俺と一緒のほうが楽しめるっしょ?」
それを聞いた瞬間、周囲のギャル達が苦笑すると、「あーあー」とか「こりゃやっちゃったねー」なんて声が上がる。
え? やっちゃったって、どういう事なんだろう?
「え?」
僕と同じ気持ちだったのか。
はっきりと戸惑いを見せる貴堂君に対し、沙和さんは不満そうな顔を隠さず、はっきりとこう言ったんだ。
「ぶっぶー。貴堂君、アウトー!」




