幕間:残された彼女達
『ばっかっ! だからやり過ぎだって言ったろ!』
『ごっめーん! ありうっちだってあーし達ともっと仲良くなったら、きっと喜んでくれるんじゃないかなーって──』
『ほんと。そういう所がお気楽ですのよ』
『うるさーい! るとっちだってプレッシャー掛けてたじゃん! 何で急に他人事みたいな事言ってるわけー!?』
『ほんとだぜ。何が私の魅力だーだよ。そうやってあいつに圧かけてたら、好かれるわけねーだろうが!』
『んぐ……それは、その……悪かったわよ……』
シャインズ・ゲートの世界に残された私達は、未だ噴水の前に立ったまま、イズコ越しに会話を続けていました。
勿論、話題の中心にあるのは有内君のこと。
これまでもファンタジー・フォレスト内の彼──アユと交流してきました。
だからこそ、奥手な彼の反応も理解していましたし、最悪の事態も想像していましたが……。
私はパソコンの画面で行われている三人のやりとりを見ながら、マイクをミュートにして大きなため息を漏らしてしまいました。
とはいえ、私もみんなを責められる立場にありませんね。
三人の気持ちもあるからと様子見したのは、紛れもなく自分なのですから。
『ほんとに悪いって思ってんのかよ? あいつは今日初めて俺達が女だって知ったんだ。先にファンフォレで男だって知った俺達とは違うんだぞ!?』
『だ、だからー、ごめんって言ってるじゃん……』
『そ、そうよ。実際貴女だってサ終の時、彼に選ばれなかったのをずっと気にしてたじゃない』
『そ、そりゃ、気になった。気になったけどよ。だからって、いきなりあそこまでのプレッシャーは掛けてねえだろ。お前等ももう少し有内の事を考えてやれよ!』
喜世のきつい言葉。だけど、確かに正論だと思います。
だから沙和も瑠音も、沈黙したまま何も言えなくなったんでしょうね。
有内君と一緒に、新たなゲームを楽しめる。
そんな期待を打ち砕かれれば、こうもなるでしょうか……。
『はぁ……』
誰からともなく漏れたため息が、耳元で綺麗に重なって聞こえます。
それはきっと、私と同じ気持ちの表れなんでしょう。
『ありうっち、ごめんって言ってたよねー』
『そうね』
『つまり、あーし達とリアルで関係を持つのは嫌ーってことだよね?』
『そうとは限らない……なんて、口が割けても言えませんわね』
『そうだな。俺達、少し浮かれ過ぎてたかもしれねえな……』
浮かれ過ぎていた。それもあると思います。
有内君の分身とも言える、アユとの出会い。それは私達の世界を変えました。
いつの間にか多くの生徒に囲まれ、見られるようになった私生活に疲れ、息抜きのため四人で始めたファンタジー・フォレスト。
ゲーム内で同じことが起きないよう性別を偽ってきましたが、ゲーム内でもリアルの性別を気にする人達も多く、どこか気が休まらない日々を過ごしていました。
でも、アユだけは違かったのです。
アユはどこか奥手で引っ込み思案。決してゲームも上手くありませんでしたが、一緒にいる時には少しでも私達に応えようとしてくれました。
ブレキオがお節介で戦い方を教えていた時も、一生懸命に戦い方を学び、感謝を伝えていましたし。
私と二人きりでのんびりしている時にも、他の方とは違う気遣いや優しさを見せてくれました。
実際、アユからリアルの事に触れてくることなんて皆無。たまにこちらから私生活の話題を口にしたこともありましたが、余計な詮索は一切せず、ただ気遣ってくれたのはあの人くらいなもの。
チャットの端々から、みんな男性だと勘付いてはいました。
それでも、他のゲーム仲間以上に感じる心地良さを味わっている内に、私達は彼の側に少しでもいたいと思うようになったのです。
『このままだと、あいつと縁が切れるかもしれねえな』
『それはやだなー。これまで一緒に楽しんできたのに……』
残念そうな沙和の気持ちは、痛いほどわかります。
私達が想いを伝えた通り、共に遊びたい気持ちは今でもあります。
……いいえ。それだけじゃありません。
私達はみんな、既に同じ感情を持ってしまっているのです。
有内君とひとつ先の関係になりたい。そんな淡い気持ちを。
現実で彼が側にいるとわかった以上、このまま気まずい関係で終わるのは避けたいですし……できれば、こんな形で初恋を終えたくはありません。
であれば、やることはひとつだけですね。
私はマイクのミュートを解除すると、画面にいる私のキャラをみんなに向けました。
「皆さん。しばらくの間、有内君への連絡を慎んでいただけますか?」
『え? 謝ったりしちゃ駄目?』
「はい」
不安そうな沙和に、私は毅然とそう答えます。
『だけどよー。このままじゃ、あいつと話す機会もないだろ?』
「そこは私が何とかします」
『何とかって、何か策がありますの?』
「そこまでのものはありませんが。リアルな関係であれば、去年から同じクラスの私に一日の長があります。ですから、私が彼に連絡し、話をしてみようかと」
『……ちっちー。抜け駆けはしないよね?』
沙和のキャラが、少し訝しむように私を覗き込んできます。
私達四人の気持ちは同じ。
だからこそ、そう思われるのも仕方ない話ではありますが。
「そう勘繰るくらいでしたら、もっと有内君の事を考えて行動すべきでは?」
『ゔ……わ、わかってますー』
敢えて現実を突きつけると、彼女はバツの悪そうに目を泳がせました。
……実際あわよくば、などという気持ちがまったくないと言われれば嘘になりますが、今は由々しき事態。そんな事も言っていられません。
胸の鼓動が少し早くなるのを抑えるべく、私は一度静かに深呼吸をします。
「では、私から結果を報告するまで、しばらくお待ちください」
『わかった。頼むぜ。千麻』
『ちっちー! 期待してるかんね!』
『朗報を期待しているわ』
「はい。但し、もし関係が改善したとしても、その後の行動には十分気をつけてくださいね」
『わ、わかっておりますわ』
『はいはーい!』
瑠音と沙和は、本当にわかってるんでしょうか。
ディスプレイの先にいる二人のキャラの反応に呆れたくなりましたが、私は敢えてそれ以上の事には触れませんでした。
だって……こんな形であっても、有内君と二人きりで話ができるかもしない。
そんな淡い期待をしていたのですから。




