第3話:意外な提案
僕の言葉にみんなが優しく微笑んでくれたけど……やっぱりTOP4の笑顔は反則だと思う。
口にした言葉に対する気恥ずかしさも相成って、一気に顔が火照ってきた。
こ、こういう時はじっとしてるより、動いちゃった方がいいよね。
「じゃ、じゃあ、そろそろゼクセイドに戻る?」
『タ、ターイム!』
恥ずかしさをごまかすべく立ち上がった僕を、沙和さんが池の水を跳ね上げながら立ち上がり呼び止める。
「どうしたの? 何かやり残しとかあった?」
僕が首を傾げていると、他のみんなも立ち上がった後、互いにちらりと顔を見合わせ顔を赤くする。
あ、もしかして。
僕と一緒で、さっき話したことが気恥ずかしく感じたのかな?
そう思っていると、沙和さんがもじもじするエモートをする。
『え、えっとねー。その、優くんに提案があるんだよねー』
「提案? 何?」
『あ、あのさー。優くんってー、イメチェンする気、ある?』
「え? イメチェン?」
どういうことだろう?
『そー。その、現実って話じゃないんだけどー。優くんって髪の毛で顔が隠れてて、あんまし表情見えないじゃん。それだとつまんないなーって』
あー。たしかに僕は、昔からずっと前髪で顔を隠してる。
正直、僕の顔なんて見てもいいことないと思うんだけど。そんなに気になるのかな?
『優汰。確認なのだけど、貴方は顔も自分に似せてキャラメイクをしたのかしら?』
「うん。一応」
自分で言うのも何だけど、シャインズ・ゲートの僕は、実際の僕と比べてもかなり似せて作れたと思ってる。
とはいえ、そんな話をみんなにしても仕方ないよね。みんなは僕の素顔なんて知らないんだし。
『じ、実は俺達、お前の素顔がかなり気になってるんだよ』
「僕の顔を? どうして?」
『そ、その、人は隠されている物に興味が沸く、そういった生き物ですので』
そういった生き物……。
千麻さんが頰を赤く染めながら真面目な顔でそう言ったけど、なんか生物学的な言葉に聞こえて違和感が凄い。
でも、隠してる物が気になるっていうのは、確かに納得はできるかも。
『で、でさー。リアルだと色々抵抗あるかもしれないけどー。ゲーム内だったら髪型も変えやすいしー、顔出ししたってそんなに気にならないんじゃないかなーって思ったんだよねー』
『ここは学校じゃないのだし、他人の目なんて気にする必要もないでしょう? 貴方がイメージチェンジするにはもってこいだと思うのだけど。いかがかしら?』
『ま、嫌ってなら無理強いはしねえけど。どうだ?』
遠慮気味にそんな言葉を並べた三人。
池に浸かっていた喜世さんと瑠音さんが立ち上がると、池の中の三人が並んで池の端まで歩み寄ってくる。
みんなの顔が赤かったのは、僕にこんな事をお願いをした恥ずかしさだったのか。
多分、断るのは簡単だと思う。
でも、みんなと友達でいたいのであれば、受けるほうがいいとも思う。
……そっか。こう考えよう。
みんながくれたのは、僕が変わるきっかけなんだって。
ゲームだから顔がキモいとか見たくないって言われたら、沙和さんの言ってた通り、髪型を戻せば解決するもんね。
それで嫌われたり距離を置かれないか。そういう心配もあるけど、そうなったらそうなったでみんなにはいいと思うし。
「いいよ」
『本当ですか?』
「うん」
隣にいる千麻さんに僕が頷き返すと、みんなが心底嬉しそうな顔を見せた。
『もう前言撤回はできないわよ。よろしくて?』
「う、うん。大丈夫」
『よっしゃあっ!』
『いえーい! 優くんありがとー!』
瑠音さんの念押しにしっかり返事をすると、喜世さんはじゃんけん勝った時のようなガッツポーズを。沙和さんもぴょんぴょんとその場で跳ねて喜びを表現してる。
そ、そこまで喜ぶことかな?
まだ懸念もあると思うんだけど。
「ただし、僕の素顔を見て嫌な気分になったら言ってね。すぐ元の髪型に戻すから」
僕は念のためそう釘を差した──つもりだったんだけど。
『ご安心ください。優汰君の素顔が見られるなら本望ですから』
『そーそー。あーし達がー、そんなことで嫌になんてならないっしょ』
『そうですわね。優汰。私達を信じなさい』
『そういうこと。安心しろって』
なんて、みんなが自信満々でそう返してきた。
絶対そんな事はないと言わんばかりに。
……多分、これがTOP4の寛大さであり、人気のひとつなのかも。
こういった所もちゃんと見習わないと。
僕はそんな気持ちになりながら、みんなの事を眺めていたんだ。
◆ ◇ ◆
あの後ゼクセイドに戻った僕達は、クエストの完了報告を済ませると都市の中にある理容店に足を運んだ。
僕が店内の店員さんに話しかけると、髪型を変更できるキャラメイク画面に移動する。
「とりあえず画面は変わったけど」
『了解。イズコの自分の名前の脇にある点のやつから、画面共有を選んでくれ』
「うん。わかった」
えっと……あ、これかな?
喜世さんに言われた通りに操作をすると、イズコの下側に『画面共有しました』の表示が出る。
「これでどう?」
『はい。問題ありませんよ』
よかった。
これでみんなには僕のキャラメイク画面が見えてるってことだよね。
『優汰。今のキャラメイクはプリセットに保存してるのかしら?』
「あ、うん。それは大丈夫だよ」
『おっけー。とりあえず細かな変更は大変だしー、髪型のプリセットから色々選んでみよっか』
「わかった」
みんなは普段通りに会話をしてるけど、僕はちょっと緊張してた。
最初の変更で顔が見えた瞬間、みんながどんな反応をするかわからなかったから。
「えっと、まずは適当に選べばいい?」
『ターイム! こっちから番号伝えるから、直接数字を入力して変えてくれるー?』
「うん。じゃあ数字を教えてくれる?」
『ちょっと待ってねー。みんなー。キャラメイクの画面、開けた?』
『俺は大丈夫だぜ』
『私も問題ございませんわ』
『はい。大丈夫です』
『オッケー!』
正直みんなの顔は見えないけど、声はどこか期待に満ちた明るさを感じる。
もしかして、みんな変に期待しちゃってるのかも。
これで期待外れなリアクションをされたら、どう反応しよう……。
『じゃーあー、最初はどれからいく?』
『そうですね……』
『これだけ多いと中々迷うな』
『まあ、優汰であればどれも似合いますわよ』
『まー、流石にモヒカンやスキンヘッドはなし寄りのなしだけどねー』
わいわいと最初の髪型を選び始めたみんな。
だけど、意見は中々まとまらない。
なんとなく、ショッピングモールで女子が服を見ながら楽しく話してる時みたいな感じだけど、相手の顔が見えないのはちょっと不安。
……きっと、大丈夫だよね。
みんな、あそこまで言ってくれたんだし。
だから、大丈夫。
僕は無言のまま目を閉じ胸に手を当てると、そんな事を考えながら心を落ち着ける。
『じゃー、最初はシンプルに一番にする?』
『それでいいんじゃねーか? 変に優汰を待たせても悪いしよ』
『はい。まずはそれで雰囲気を掴んで、その後に合いそうな髪型を個々にリクエストしてみましょう』
『そうね。まずは御本尊を拝まなければ始まりませんもの』
……え? 御本尊? どういう意味なんだろう?
瑠音さんの口から出た意味不明な言葉に、僕はディスプレイの前で首を傾げてしまう。
『じゃーあー、優くん。一番で!』
「うん。わかった」
まあ、一旦さっきのは置いておこう。
沙和さんから数字を伝えられた僕は、気を取り直し画面内にある髪型を選ぶ数字の部分をクリックすると、キーボードで1に変更する。
……よし。
「いくね」
間髪入れず、僕がぱちんとエンターキーを押して決定すると、ぱっとキャラの髪型が変わった。
全般的に短めの、ツンツンと逆立った感じの黒髪。
キャラメイクの一番最初に見た髪型だけど、僕はどっちかと陰キャだし、こういう髪型が似合う気がしない。
と、そんな事を思っていると。
『あ、ああ……』
どこか惚けたような瑠音さんの声に。
『や、ヤバッ! ちょーヤバッ!』
明らかに動揺した声を出す沙和さん。
『ぶっ……』
喜世さんは、何かを吹き出しそうになるのを必死に押し殺し。
『こ、これは……』
千麻さんはどこか唖然とした声を上げたんだ。




