第2話:不思議な関係
『まず、前に話した通りー、月曜から金曜のうちー、四日間はあーし達が順番にお弁当を作りまーす』
「確か全部平日の週は、一日は僕が自由にお昼を食べてよかったよね?」
『ぴんぽーん。正解でーっす!』
「じゃあ、月曜は僕が自分でなんとかしたいけど、いいかな?」
『おっけー!』
池に浸かったまま、顔の脇に手を出し指を立て澄まし顔で話す沙和さん。
あまり見慣れない絵面なのもあって、ちょっとシュールな感じがする。
『ただー、平日が三日しかないとかいう時は、余った人を月曜日にスライドしてあーし達が作っちゃうかも。そういう時はちゃーんと相談するね!』
「うん、ちなみに、お弁当を作ってくれる期間って何時まで?」
『ずっと』
「そっか。ずっとか。──え? ずっと?」
全く予想してなかった言葉に戸惑った僕を見て、みんながいつもみたいに少し真面目な顔になる。
あ。僕、また空気読めなかったかも……。
何となくそう感じて少し萎縮してると、喜世さんが肩を竦めるエモートを見せた。
『沙和の言い方が悪いけどよ。お前が前くらい貯金もできて、もう大丈夫って時期がくるまでは協力させろよ。な?』
一度OKを出したものの、本当は今だって迷惑をかけちゃうなって思ってるし、あまり納得はできてない。
でも、みんなのやる気を削いで、空気を悪くするのも嫌なんだよね。
……ほんと。やっぱり僕って中途半端だ。
「え、えっと。そ、そうだね。わかった」
フェイストラッキングしてるんだから、ちゃんと笑顔で……。
意識しすぎて固くならないようにしながら、僕はそう返事をした。
「話に割って入っちゃってごめん。沙和さん、続きを聞かせてくれる?」
『はーい!』
彼女はすぐ笑顔に戻ると、そのまま話し始める。
『今週は明日がちっちーでー、明後日がるとっち。木曜日がきよっちでー、金曜日があーしでーす! おっけー?』
「うん。わかった」
『あとー、お弁当の渡し方だけどー、流石に学校で渡すのは色々問題じゃん?』
「あ、うん。そうだね」
確かに、いきなり学校でTOP4からお弁当を受け取るなんてことがあったら、流石に周囲から注目を集めちゃって、色々勘ぐれるのは間違いない。
悪目立ちしないよう、それだけは避けたいし。
『それでー、優くんには悪いんだけどー。朝、優くん家までお弁当を渡しに行ってもいーい?』
「朝? それはいいけど、雨とか降ってたら大変じゃない?」
『構いませんわ。お弁当がある日は、私が少し早めに車を手配して、みんなを送迎させるだけだもの』
『普段から朝の通学は、四人一緒に瑠音の家の車で送ってもらってるし、その延長って感じだな』
「へー」
そういえば、朝たまに校門でみんなを見かける時って大体一緒だったっけど、そういう理由があったんだ。
『ちなみに優汰君は、学校までバスで通学しているのですか?』
「うん。近くのバス停から学校の最寄りまで三十分くらい掛かるから、大体七時四十分くらいには家を出てるかな」
『でしたら、七時半くらいにお弁当をお持ちすれば、ご迷惑にならなそうでしょうか』
「うん。そのくらいなら大丈夫かな。だいたい準備も終わってるし』
もう少し早起きしないといけないかなって思ったから、その時間なら助かるかも。
その分みんなを早起きさせちゃうのは心苦しいけど、この話をしている間もみんな笑顔を見せてくれてるし、そこは納得してくれてるって思っておこう。
あ。そういえば。
『そういえば、お弁当って箱とか返さないとだよね? そっちはどうするの?」
流石に放課後にもなれば人が少なくはなる。でも、人気者のみんなに空き箱を渡す所を見られる可能性がないわけじゃないし、色々と迷惑がかかりそうだよね。
僕の疑問に、池に浸かっている瑠音さんが少し考え込む。
『流石に学校でというわけにもいかないわね。優汰が家に帰ったら連絡をもらって、その後に受け取りに行くのが無難かしら?』
『場合によるんじゃねえか? 優汰に弁当箱を洗わせちまう事にはなるけど、最悪そこまでしといてくれりゃ、週末取りに来るでもいいしよ』
あ、言われてみればそうだよね。
学校で急に何かあって帰りが遅くなったりなんてこともないとは言わないし。
とはいえ、お弁当箱はなるべく返す前に洗って乾かしておこう。
『ま、そこは朝にお弁当渡す時、それぞれで決めよっか? なんなら日中、どんな用事が入るかもわかんないしさー』
「じゃあ、朝に一旦相談しておいて、日中何かあったらイズコにメッセージを入れるようにする?」
『流石は優汰ね。それで構わないわよ』
瑠音さんのちょっとした褒め言葉。彼女にとっては些細な話かもしれないけど、僕はちょっとくすぐったい気持ちになる。
瑠音さんって普段結構澄ましているけど、ちょっとした時に優しくなったり、急に様付けしたりしてきて、結構印象がコロコロ変わるんだよね。
こういった所も彼女の魅力かもしれないけど。
『あーしからの説明は大体こんなもんかなー。優くん質問ある?』
「大丈夫だよ」
『おっけー。じゃ、明日からよろしくー!』
「うん。こちらこそ」
僕が座ったまま会釈するエモートを使い頭を下げると、またみんなが笑顔になる。
……なんか不思議だな。
現実でもゲームでも、こうやってTOP4といるっていうのが。
もしファンタジー・フォレストのサービスが続いていたら、こういう関係にはなってないんだよね。
池の中にビルフ、ラルト、ブレキオが浸かり、アユとナガツが畔から見守る。そんな似た光景はあったかもしれないけど、僕達はネットゲームの友達ってだけで終わってたんだから。
『優汰君。どうしたのですか?』
「……え?」
千麻さんの声で我に返ると、彼女を始め、みんなが不思議そうな顔でこっちを見ている。
あれ? 僕、何か変だった?
『いえ。どこか遠い目をしていたので』
『なあ。何か気になる事でもあったのか?』
そっか。僕がぼーっとしてたからか。
千麻さんや喜世さんの言葉に、僕は思わず現実で頭を掻いた。
まあ、別に聞かれて嫌な話でもないし、素直に話そうかな。
「あ、大した話じゃないんだけど。今までだったら、ここにナガツ達とアユがいたんだよねって思って、あの頃を重ねちゃってた」
『あー。そういやそうだよねー』
『ファンタジー・フォレストのサービス終了がこの関係性に変えたっていうのは、ちょっと複雑ではあるけれど』
『ほんとだよなぁ』
『あの世界も、まだ五人で行っていない場所もありましたしね』
同じ懐かしさを感じてくれたのか。みんなが遠い目をする。
きっと僕もこんな顔をしてたのかな。でも、まだサービス終了からたった数日なのに、懐かしくなるのも事実だし。こうなるのも仕方ないよね。
『ま、でもよ。俺はこうやってアユが優汰だって知れて、それでも一緒にいられるのは嬉しいぜ』
『私もです。より親しみも感じられるようになりましたから』
『そうね。優汰だと知ってから、より一緒に楽しみたいと思うようになったのは確かだもの』
『うんうん! あーしもおんなじ気持ちだよ! 優くんは?』
「僕は……」
特別な友達になったからこそ、感じる不安もある。
けれど、特別な友達っていう距離感になったからこその喜びとか嬉しさもある。
「……ううん。僕も、みんなと同じだよ」
だから、僕はそうみんなに伝えたんだ。




