幕間:沙和達の失敗
るとっちの用意してくれた車に乗ったあーし達は、昼と同じく車内の中央と後部座席を向かい合わせて、四人仲良く座ってた。
ちなみに、まっすぐ家に帰るのもなんだしってことでー、今は首都高をドライブしてもらってるとこ。
週末たまにこんな感じでドライブしてもらってるんだけどー、こうやって夜景を見るの、結構好きなんだよねー。
ただー、今日のあーしは夜景の見え方がちょっと違う。
このキラキラした輝きなんて色褪せるくらい、あーしにはもーっと眩しいイケメンがいたって知っちゃったし。にししっ。
「今日は色々ありましたが、楽しかったですね」
「ま、楽しかったのは事実だけどよ。沙和の金鉄作戦。あれは完全に失敗だろ」
「それですわ。何ですの? 先にゴールしたほうがお預けを食らう、あの穴だらけのルールは」
「あはははっ。ごめんごめーん」
正直、アイデアは良かったと思うんだけどなー。
そう思いながら、あーしは軽い気持ちで頭を下げた。
今日の金鉄と王様ゲームの合せ技。
実はあれ、昨日シャイゲで優くんと別れた後、あーしがアイデア出してたんだよねー。
合法的に優くんと触れ合えないかなーって思ったからなんだけど、みんなもめっちゃいいアイデアじゃーんって褒めてくれてさー。それで採用したってわけ。
三人には事前に話してたから、王様ゲームやるよーって時のリアクションも完璧。
ま、自然に顔を赤くしてたのは、きっと優くんの温もりとか、イケメン過ぎる顔を思い出したりしちゃったからだろうけどねー。
ただ、優くんに触れれるって浮かれ過ぎてて、あーしが問題に気づいたのはゲームが始まってから。
みんなが気づいてないといいなーって、淡い期待をしてたけど、結局みーんな気づいちゃってて、優くんすらおかしいって思うくらい変なことになっちゃったんだよねー。
ほんとざんねーん。
優くんとポッキーゲームできたらー、偶然装ってキスしちゃおっかなー、なんて思ってたのに。
それはそれとしてー。
喜世達ってば、まるで他人事みたいに突っ込んでるけど。ちょっと違くなーい?
「でもさー。みんなにこのゲームしよ?って話した時、めっちゃ良いって言ってくれたじゃん? なんで誰も教えてくれなかったのさー」
あーしがそう尋ねると、三人はギクッとして顔を赤くしてわたわたしだす。
「そ、そりゃーお前、優汰と触れ合えるって思ったら、そっちばっか考えちまうだろ? な? 千麻」
「そ、そうですね。アイデアを聞いた時には色々期待してしまいましたし、その、気持ちも昂りましたし。ね? 瑠音」
「そ、そうね。優汰様に抱きしめてもらえる。そう考えてしまったら、システムの穴など考えている暇なんてありませんでしたもの。沙和。貴女だってそうでしたでしょ?」
「えへへっ。せいかーい」
やっぱみんなも気持ちは同じかー。
実際ゲームをするって事前に決めた時、一番盛り上がったのは優くんとどんな事をするかーって命令カードを選んでたときだもんねー。
物真似とか変顔とか、優くんにそんなの望んでないから先に抜いてたし。
「ま、作詞家、酒で酔い潰れるとか言うしー。仕方ないっしょ」
「それを言うなら策士だろ」
「更に言うなら、酔い潰れるのは策よ。まったく……」
「瑠音。正しくは『策士、策に溺れる』ですよ」
……。
車の中を包む沈黙に、あーしは思わず苦笑い。
言い間違いはだいたいあーし。で、ツッコミもばらっばら。
ま、昔からいっつもこんな感じだし慣れっこだけどー。静かなのは嫌だし、ささっと空気を変えちゃおっと。
「でもまー、今日はほんと良かったよねー。優くんの思いやりも感じられたしー。なんなら優くんに触れたしー」
あーしがこう口にすると、きよっちが肩を竦める。
「ま、お前らはいいよなー。俺なんて偶然で膝枕しただけだしよー」
「何を仰ってますの? 優汰様の寝顔を独占していたくせに」
「そーそー。ちなみにだけどー。きよっちってー、ドサクサに紛れてキスなんてしてないよね?」
「ばばばばばっかっ! あったりまえだろ!」
あれ? 随分激しく動揺してるけど……これ、怪しくありませーん?
「本当に、何もなかったんですよね?」
ちっちーのどこか圧のある言葉と一緒にあーし達が白い目を向けると、冷や汗たらたらのきよっちは目を泳がせた後、大きなため息を漏らす。
「さ、流石にキスはしてねえ。それは約束する」
「それは、頰などにもしていない。間違いないわね?」
「ああ。ただ……」
「ただ?」
あーし達三人の声が綺麗に重なったのを聞き、びくっとしたきよっちは顔を赤くすると、珍しく小さく縮こまり、きよっちらしからぬ小声でこう言った。
「その……寝顔を、眺めてはいた。前髪を上げてよ」
……マ? あのイケメンを? めっちゃ間近で!?
「うっわーっ! うーらーまー!」
あーしは思わず口に手を当て声を上げちゃった。
だってー、あのイケメンを独り占めしたわけっしょ?
確かに手は出してないけどー、ほぼ手を出したようなもんじゃん!
「喜世。結局貴女が一番良い思いをしているじゃない」
「う、うるせえよ! お前だって壁ドンしてもらってただろ! あんなの偶然じゃ経験できねえんだぞ!?」
「ゔ……だ、だけれど、あのお顔を間近に見るなんて夢、私は叶いませんでしたわよ!」
二人がヒートアップしてるけど、るとっちの気持ちもすっごくわかるー。
あーしも腕を繋げて嬉しかったけどさー。
あんなイケメンだって知ってたら、もーっと側で顔を見たかったしー。
「どうにかして、優汰君の素顔を見る機会、増やせないものでしょうか?」
そんな中、一人会話に参加してなかったちっちーが、考え込みながらそんな事を口にする。
流石に、優くんに髪を切ってもらえば万事解決! とはいかないよねー。
「うーん。あいつはずっとあの髪型にしてるだろ? 切れって言ってもやっぱ抵抗あるんじゃねえか?」
「だよねー。流石に優くんが嫌がることまで、あんまししたくないなー」
「そう言っておきながら、手を繋ぐなんてどうかしていますわよ」
「それはそれ! これはこれ!」
るとっちに彼女の決め台詞を返しながら、あーしは色々考えてた。
きよっちの言う通り、あんなイケメンが顔を隠しているのって、よっぽどの理由がありそうな気がするよねー。
かといって、今回の腕組みみたいなきっかけを作るのも難しいしなー。
何かいい案はないかなー……。
みんなで考え込んでいると、顎に手を当て俯いていたるとっちがはっとする。
「……シャインズ・ゲート……」
「……あ」
それだ!
ちっちーやきよっちと声が重なったあーし。
確かにそれ、ありかも!?
「問題は優汰がキャラメイクで手を抜いてないか、か」
「優汰君は律儀な方。現時点でも自身をあそこまで再現してくださっていますから。お顔まできちっと作られている可能性は高いと思います」
「そうね。もしシャインズ・ゲート内とはいえ、あの神々しいお顔を見られるのであれば……」
「それ、最高じゃん!」
昨日、王様ゲームの話をした時みたいに、あーし達のテンションは一気にアゲアゲ。これ、期待できるっしょ!
「とはいえ、優汰君が嫌がった場合には、無理強いせずにいきましょう」
「そうね。その時は泊まりの日でも作って、眠っている隙に堪能すればいいわ」
「る、瑠音。それって結構ヤバくねえか?」
るとっちの過激発言に、あーし達は目を丸くした。
ほーんと。るとっちってここまで見境なくなるのはびっくりだよねー。
それだけ優くんを好きなんだろうけどー。
「ほーんと。るとっちってー、優くんの話になると急にヤバくなるよねー」
「し、失礼ですわね。貴女だって大概ですわよ。優汰様が徹夜していなければ、今晩家に泊まる気満々だったじゃない」
「それはお互い様ですー! みんなだってそのつもりで準備してたじゃーん」
言い訳であーしを巻き込もうとしたるとっちに、あーしはべーって舌を出して反論した。
ほんそれー。
昨日、ゴールデンウィークは明日まであるしー、優くんがOKしてくれたら泊まっちゃおっか? なんて話で一緒に盛り上がったくせにさー。
ま、あーしも勝負下着とかー色々用意してたんだけどー、みんなも同類じゃん。
でもー、もっと優くんと一緒にいたかったなー。
「はぁ……」
あーし達が全員同時にため息を漏らす。
っていうか、綺麗に重なり過ぎじゃない?
あまりの偶然に思わず顔を見合わせると、自然と笑いが込み上げた。
……あ。そうだ。
「ね? ね? るとっち」
「どうしたの? 沙和」
「この後、るとっちの家に泊まれない?」
「私の家に?」
「うん! ほらー。週明けから、順番に優くんのお昼を作るわけじゃん。その話もしときたいしー」
「そういやそうだな。どうせ泊まる準備はできてるんだし」
「確かに。これは渡りに船ですね」
あーしの提案に、きよっちやちっちーも十分乗り気。
あとはるとっち次第だけどー。
「まあ、確かにそれは大事な話ね。今日は優汰様もシャインズ・ゲートにはログインしないでしょうし。別に構わないわよ」
「やったっ! じゃーあー、もう少し夜景を見たら家に行こっ?」
「ええ。面条。三十分ほどしたら、家に向かってちょうだい」
「かしこまりました」
よーっし。これで今晩はずーっと優くん談義に決定!
ほんとは彼ともっと一緒にいたかったけどー。できないならできないでみんなで盛り上がらないと。
でもー、次にこういう機会があったら、ぜーったい優くんとお泊りするんだから!
なんなら一緒に同じベッドに寝ちゃったりしてー、あーんなことやこーんなことがあってー……いひひひ。楽しみー!




