第10話:不可解な動き
「じゃ、優くんの許可も出たところでー、王様ゲームの仕方を教えるねー」
「わかった」
沙和さんが残った命令カードをかき集めシャッフルすると、さっきの数字のカードと少し離した位置にカードを裏にして並べた。
「まず、王様が数字カードからに枚を引きまーす。一枚目の数字が命令を実行する人でー、二枚目が命令を実行される側ねー」
えっと、多分命令の『○○が』の部分が一枚目。『○○に』の部分が二枚目ってことかな。
「わかった。じゃ、引いてみるね」
「うん!」
沙和さんが元気に頷いたのを見て、僕は一枚ずつカードを選ぶと表にする。
えっと、一枚目が1、二枚目が4だから──。
「うえっ。俺と瑠音かよ」
「いきなり私ですのね」
やっぱり罰ゲームなだけあってか。二人は互いに顔を見合わせると、お互いげんなりした顔をする。
な、なんかこういう顔をされると申し訳ない気持ちになる。
でも、ゲーム何だし仕方ないのかな……。
「おっけー。じゃーあー、優くん。命令カードを一枚引いてくれる?」
「う、うん」
選ばれた喜世さんと瑠音さんが見守る中、僕が選んだカードを表にすると──。
「……お姫様抱っこをしろ、か。ま、余裕だな」
「そうね。喜びも特にないけれど、ささっと済ませましょう」
「ああ。いいぜ」
二人はさっと立ち上がると、リビングの広い場所に向かい合って立った。
僕より背の高い喜世さんと僕より小さい瑠音さん。
その身長差がより二人の差を強調してる。
でも、瑠音さんはかなり軽そうには見えるけど、それでもお姫様抱っこって大変じゃないのかな?
「じゃ、いくぜ」
「ええ。お手柔らかに」
軽く短い赤髪を掻き上げた喜世さんが、すっと姿勢を変えると瑠音さんの脇に回り込む。
うわぁ。喜世さんって凄いな。
淀みすら感じさせない動きで、軽々と瑠音さんを抱え上げる喜世さん。
やっぱり運動神経がいいだけあって、こういうのもお手の物って感じだ。
女子相手にこういう言い方はいけないけど、本当に男前に見える。
「沙和。これでいいか?」
「おっけーでーっす!」
「よし。じゃ、瑠音。下ろすぞ」
「ええ」
OKをもらった喜世さんは、すっと腰を下ろし流れるように瑠音さんを元の場所に立たせた。
「優汰。もしお前が選ばれたら、こういう事をする羽目になるからな」
「そうね。覚悟しておきなさい」
罰ゲームが終わり清々したのか。喜世さんは笑顔で、瑠音さんは澄まし顔で僕にそう言ってくる。
「わ、わかったよ」
なんて表向き言ってみたけど。実際に僕がこれをしたり、されたりするかもしれないんだよね……。
お姫様抱っこなんて僕ができるのかな? なんならみんなが僕をお姫様抱っこするなんてなったら大変だし、なんならめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど……。
席に戻っていく二人を見て、僕はまた一気に緊張し始めた。
「じゃーあー、金鉄を再開しよっ?」
「はい。負けませんからね」
「あったりまえだ!」
「優汰。次はこうはいかないわよ」
「う、うん」
さっきのもそうだけど、その他の命令もかなり恥ずかしいものが交じってる。
なんとか頑張って、一番で目的地に着かないと……。
僕も気持ちを入れ直すと、ゲームを進めることにしたんだけど──。
◆ ◇ ◆
三年間戦い終えた後、最後に表示された総合成績発表画面には、紙吹雪の舞う中鎮座する青い電車と、燦然と輝く『おめでとう! ゆうた社長!』の文字。
「優くんおめでとー!」
「貴方、本当に強かったわね」
「ほんとほんと。流石に参ったぜ」
「ここまで差が付けられてしまうとは思いませんでしたね」
四人はその画面を見て、笑顔で僕を祝福してくれた。
……でも、僕はどうしても納得がいかなかった。
「もしかして、僕を勝たせるために、手を抜いてくれたの?」
口を衝いて出てしまった言葉に、みんなは気まずそうに目を逸らす。
っていうことは、やっぱり理由があるんだ。
正直、こんな事を口にするのはみんなに悪いなって思う。
だけど、途中からみんなが初心者の僕ですら疑問に思う行動をとってたし、結果として六連続で僕が最初に目的地にしちゃったんだ。
思わずああ口にしちゃったって仕方ない。
◆ ◇ ◆
二度目の目的地到達は、たまたま流れで北海道の札幌が目的地だったし、まだサイコロの目も良かったからって納得できた。
三度目は一気に中部地方の名古屋駅が選ばれて、移動もかなり大変になった。
みんなのほうが目的地が近かったんだけど、彼女達からのアドバイスで使ってみた『ふっとび券』で、偶然三重県の津駅に飛べちゃって。
そのまま一番で名古屋駅に着いたのも、運が良かったって納得はあった。
だけど、おかしいって思い始めたのはその後だ。
四度目の目的地はまた東京駅。
東北から名古屋に向かっていたみんなのほうが絶対距離が近かったし、これは流石に僕が先にゴールできないかもって焦りながら進めてたんだけど。
貧乏神をモチーフにしたらしい、お邪魔キャラのビンボシンを互いにうまくなすりつけ合いながら、資産をなるべく減らさず目的地まで近づいたのは、やっぱりみんな。
それなのに、結局四人は誰一人ゴールしなかったんだ。
勿論、サイコロの出目がピッタリじゃないとゴールできないゲームだし、運が絡んだりするのはわかる。
そんな中、最初に違和感を覚えたのは、千麻さんのちょっと変わった動き。
やっとゴールできる出目が出たのに、近くの別の駅に入って物件を買い占めに言った時だ。
──「これもまた勝つための戦略です」
なんて言って眼鏡を直してた千麻さん。
僕もこういった知識はないから、そういうのもありなのかなとは思った。
でも、次に沙和さんがゴールできる出目を出したときには、
──「あ、間違っちゃった」
と言って、目的地と違う収入が入るマスに止まり。
──「この先を考えるなら、こっちが優先だな」
喜世さんはカード購入のため、近くにある別の駅に止まったり。
挙句の果てに瑠音さんは、
──「クイーンビンボシンになられると面倒ですもの」
なんて言いながら、沙和さんにビンボシンをなすりつけにいってた。
でも、ビンボシンは目的地に到達すれば、その時点で一番遠い人に取り憑く仕様なのは僕も聞いてる。
だからこそ、瑠音さんの行動は絶対に意味を為さないはずだってわかったんだ。
勿論、目的地到達の合間にちゃんと王様ゲームは行われた。
沙和さんが瑠音さんを抱きしめたり。
千麻さんが喜世さんの手の甲にキスしたり。
羞恥心が煽られる罰ゲームの数々に、僕がそれをしなくて済むって安堵はしたけれど、やっぱりどこかモヤモヤしたのは確か。
目的地への到着が多いのもあって、途中から僕の資産がみんなを引き離し始めたけど、みんながお邪魔に使える券で嫌がらせしてくることもなく。さっきみたいな不可解なゴール避けも相成って、僕はそのまま六連続で一番に目的地に到達し優勝しちゃったんだ。




